第18話:魔銀武器とイブキ公爵の後ろ盾
そして翌日、久しぶりにクラスメイト達の訓練へ顔を出す事になった。
「訓練期間は空いたけど。問題無さそうだね」
足元に転がる皆を見て笑いかける。
「ホウショウ先生……マジ鬼畜……」
「これでも鍛えたのに……」
「むしろ、任務で外行く前より強くなってる……」
その分析は正解である、アラテシア様にも強化を受けたので実質以前より数段強くなっている。
「そりゃあ、俺も怠けてられないからね。それはそうと皆にはプレゼントがあるんだ」
武器を入れた箱を空間収納から取り出す、クラスメイト達用に作られた武器達だ。
「さて、国王陛下の葬儀が終わった後になるんだけど。俺の奥さんの一人が国王様が襲撃された時の騒動に巻き込まれてね……子供を産む臓器を潰されたんだ。その治療の為に冒険者の伝手を使って昔からの再生治療魔法を受けられる、エルフの国に行ってくることになったんだ」
俺の言葉に、顔を背けるクラスメイト達。特に女子の数名は共感したのか涙を流す子まで居る。
「という事でね、俺が行ってくる時期に何もしないのは問題だし。皆はリオルが騎士団長を務める第三騎士団に、予定していた魔物討伐の訓練を交代してもらう事になった。予定してるのは弱い魔物だけど、お守りとしてこの武器を渡しておくよ」
魔銀製の武器、手頃な長剣を取り出して長剣を振るう。普通に振っても十分に斬れるのだが、魔力を流して刃を当てる。
――ズズズズ。
少し力を加えるだけでズブズブと斬れていく。そのまま藁巻きをストンと斬り落とす。
「と、まぁこの武器は魔銀を混ぜた剣でね、魔力を通すととんでもなく切れ味が増す武器なんだ」
「す、すげぇ……」
「ただし、同じ魔銀製の武具には弾かれるから、過信しない様に気を付けてね」
全員に武器を配る、一応皆が普段から使ってる長さや重さにしたけど大丈夫かな?
「配り終えたね。一応、普段から皆が使っている物に近くしたから使い勝手は良い筈だけど……どうかな?」
各々距離を取り素振りをする、すると2人が重さに違和感を唱えた。
「先生、軽いです」
「そうですね、いつもより軽い気が……」
小林君と内田さんだ、二人共魔法職だけど俺が居ない間に筋トレの量を増やした様だなので以前よりも軽く感じるそうだ。
「うーん、長さはどう?」
「それは大丈夫です」
「こっちも大丈夫です!」
「そうか、じゃあ柄を少しだけ変えてもらう様にしようか。他の皆は素振りの練習してて」
「「「「「はーい!」」」」」
武具庫に向かい前に居る兵に用事を伝えて、使ってる剣に合う柄を用意してもらう。その中から重さに合わせて調整していると暑苦しい声が掛けられた。
「おや、そこに居るのはエルヴィール辺境伯では無いか!!」
「二人共、膝をついて。第一王子様だから」
「「……はいっ」」
周囲の人を無視して駆け寄って来る第一王子様、スルーしてくれればいいものを……。
「お久しぶりでございます、アドクレイド様。この様な所での拝謁、不意の喜びでございます」
堅苦しい挨拶で返す、取り巻きの政務官が苦い顔をしている所を見ると仕事から逃げる口実にされそうだ。
「堅苦しいなぁ……どうだ、時間があるなら。俺と模擬戦でも?」
「アドクレイド様!」
「駄目です!」
「そうやってまた政務から逃げて!!」
周りの政務官たちがまくし立てる、何度目かの逃走の様だ。
「頼む、少しだけ! 少し身体を動かさないと、頭が働かないんだ!!」
政務官達に頼む込み、アドクレイド様。仕方ない……。
「わかりました。1本勝負、刃を落とした剣でならお受けいたしましょう」
もう、面倒なのでサッサと1戦終わらせる方が良いかも。
◇◆◇◆
政務官達にやいのやいの言われたが、無視をしてアドクレイド様の前に立つ。
「それでは……始め!!」
倉庫番の兵士の号令で剣を打ち合う、思った通り以上の力に剣を持つ手が痺れる。
(流石……あの筋肉と戦闘力は伊達じゃ無いな!)
「はぁぁぁ!」
「はっ!」
短い呼吸でアドクレイド様の剣に合わせて迎え打つ。あまりの勢いに剣から破片と火花が散る。
「るぅぅぅらぁ!!」
「はぁっ!」
速くなる剣戟に合わせこちらもスピードアップをする、そろそろ良いだろう。
「はぁぁ……んなぁ!?」
振り下ろされる剣を、柄頭でかち上げた後、剣で剣を絡め取る。
「はい、終了です」
ガランガランと音を立てて模造剣が落ちる、手から抜かれたアドクレイド様はポカンとした表情だ。
「何だ今のは……」
「えっと……企業秘密です。冒険者同士の喧嘩を止める時に開発した相手を傷付けないで無力化する技ですね」
「そうか……。流石ホウショウ殿だな……」
アドクレイド様の言葉で、同じ様に唖然としていた兵士も終了の号令をかける。時間も5分程だし問題は無いだろう。
「それよりも、怪我はありませんか?」
「いや、大丈夫だ……」
「では、アドクレイド様。私め如きに時間を取っていただきありがとうございます。片付けておきますので、政務に戻られますよう」
俺がそう言うと、政務官達がアドクレイド様を囲んだ。そして、ドナドナされてい行った。
「さて、調整をして戻ろうか」
「「はい……」」
ポカンとした二人を促して、武器の調整を終えて戻るのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「エルヴィール辺境伯殿……」
クラスメイト達の訓練を終えて、皆で片づけをしているとブリゲルドが声を掛けて来た。
「ブリゲルド殿、どうしました? というかホウショウで良いですよ」
「あ、はい……ホウショウ殿。アラテシア様がお呼びです」
「アラテシア様が? わかりました。皆、後片付け頼めるか?」
「「「「「はーい!」」」」」
皆が声を上げる、後は掃除だけだし大丈夫だろう。
「ではこちらへ」
その後はいつもの様に準備をして、普通にやって来たミレディさんに髭を剃られいつもの様にアラテシア様の部屋に到着した。
「アラテシア様、エルヴィール辺境伯を連れてまいりました」
部屋に通されると、アラテシア様がニコニコしながら待っていた。
「やっほー、久しぶりだねぇ~」
手を上げてお気楽に話しかけてくるアラテシア様、その様子はいつもより上機嫌だ。
「えっと、どうされました?」
「いやー実はさ、ホウショウ君が悩んでるんじゃないかと思ってね」
ニコニコと笑う、アラテシア様。悩み……。
「悩みですか……帰還魔法が見つからない事ですかね……」
「えっと……それじゃ無くて……。もっと身近な……」
「じゃあ、ヒロイン三人の性よ……はい、すみません」
殺気マシマシのミレディさんに、ナイフを突きつけられる。
「そ、そうじゃなくてね! ほら、褒賞の儀に連れて行く人の事悩んでたじゃん!」
あぁ、その事か……確かに悩んでるけど。そこまで気にする感じじゃ……。
「悩んでると思ったから、僕の方で良さそうな人を見つけたよ!」
いつの間にか移動したミレディさんが部屋の奥にある扉を開けると、そこにはアラテシア様と同じ顔をした可愛らしい令嬢が一人立っていた。
「えっと……そちらは?」
「イブキ公爵の娘さんの一人で、僕の影武者をしているティティアちゃんだよ」
そう言われて、ティティアちゃんと呼ばれた少女は無言でカーテシーをする。
「彼女は生まれつき言葉が話せなくてね……デビュタントもまだなんだ。でも何も経験させないのは彼女の為にもならないからね」
「それ、イブキ公爵は納得してるんですか?」
「うん、俺の娘ならばケチつけるような奴は居ないしなって、笑ってたよ」
なんか凄く良く似た喋り方をするアラテシア様。まぁ、エルヴィール辺境伯の後ろ盾に自分が居ると示したいのだろう。
「わかりました。では一度皆と相談してみたいと思います。ティティアさん、明日の夕食にでも皆と一度顔合わせしてみませんか?」
「(——こくり)」
ティティアさんが頷いたのを確認して、一旦その話は持ち帰りとなった。




