第14話:ミッション・イン蛇
「さて、窮屈では無いかね?」
「はい、大丈夫です……」
一人乗り用の箱馬車に二人で入り、城門を抜ける。密命と言われてたし姿を隠した方が良いと判断した公爵の提案で、乗って来た馬車に同乗させてもらったのだ。
「それで、ここからどうすればいいですかね?」
「…………そうだな……」
考えてなかった様だ、どうしよう……。
「とりあえず、後少ししたら生垣が途切れる。そのタイミングで降りたまえ、庭を突っ切れば、王子達の住む区画だ。そこで合流しよう」
「へ? それってぇ!?」
扉を開けられ生垣に押し込まれる、馬車は行ってしまったのでここからは潜入ミッションの様だ。
「仕方ない、魔力探知の練習と思っておこう……」
魔力探知で周囲を探る、歩哨が沢山居るなぁ……。
「とりあえず、夜用のローブを出して……」
黒色のローブを纏う、これでぱっと見は影に見えるだろう。
「ほっと……やばっ、二人組かよ……」
生垣の隙間や置かれたオブジェを乗り越えたりで進んで行くと庭の区画が別れる場所まで来たが……広い道に二人組の歩哨が居て抜けが無い様にカバーしいている。
(どうするか……しかも広範囲を照らせるタイプの魔石灯だし……)
彼等の持っている魔石灯はランタン式ではなく広角の懐中電灯のタイプなので、こちらを照らされたら即バレる。
(思い出せ……昔やったゲームを……)
高校生時代にやっていた、蛇が至る所に潜入するステルスゲームを必死に思い出す。
(一番いいのは〝注意〟を引く事だろうな……)
エッチな本は無い、美味しそうな料理……恵さんお手製のお菓子はあるけどこの世界の人は知らないだろうから無駄になる。
(というか、自分で食べたいし、却下だな……)
お菓子をしまって何か無いか考えていると、昨日エルヴィール男爵から貰った鳥笛が出て来た。
(鳥笛……これ使えるかな?)
成功すれば、注意を向ける事が可能だ……。
(普段なら、こんなリスクは取らないんだけどなぁ……)
紐を付けた鳥笛を回して鳴らす、それと同時に火球を最弱で出して揺らめかせる。昔行ったお化け屋敷を思い出す感じの即席の人魂だ。
「ひぃ!? なんか音しないか?」
「やめろよ。俺、ゴースト苦手なんだよ……」
(苦手なのか、これなら……)
風に乗せた音を調整しつつ、オマケに温い風を送る。
「ひぃ!? 今絶対音がした!!」
「やめろよ、風切り音だろ?」
抱き付いてるけど、本当に彼は夜番でいいのだろうか……。
「だから、交代するのやだったんだよ!?」
(偶然交代したのか……彼には悪いけど、もっと怖がってもらおう!)
「お、おい! あれは!!」
人魂風火球をふわふわと漂わせる、遠目から見ると本当にそれっぽい。
「ひっ!? レ、レイス!?」
「どうして、王城《こんな所》に!」
(ここで、こっちを消して……背後に出現!)
「「————!!!!!!!」」
声にならない悲鳴を上げる二人、逃げ出した一人を追ってもう一人が追いかけていく。
(すまんな、二人共……今の内に!)
それからは特に難所も無く王城の奥まで入り込むことに成功した。
(後は……)
「大丈夫です、これ以上は勝手に進みません。出てきてください……」
虚空に向かって呟くと、目の前に二人の男が、更に背後に三人現れる。
「いつから気付いていた?」
「レイス騒動の後からですよね? 魔力に揺らぎがあったので」
「そうか……言いたい事はわかるな?」
「はい、その前にとりあえずこれを……」
アドクレイド様の手紙を目の前の男に手渡す、少し検分して俺に戻してくる。
「確かに、第一王子様のだな。ここからは私が案内しよう」
その言葉に周囲を囲んでいた四人の気配が消える。
「しかし、良かった。貴殿が本気で蹴散らす気であれば、我々は地面に転がっていただろうからな……」
そう言って、ローブを外した男性、顔はこの街ではどこにでも居る顔で、正直特徴が存在していない。
「第四騎士団、団長の……セルバとでも呼んでくれ」
「冒険者のホウショウだ、怪しいものじゃない……と言いたいけど、怪しさしか無いよな」
そう言うとセルバは笑う、しかし笑っても特徴が無い……。
「しかし、窓の仕掛け……良く気付いたな? それに、その隠密術、私でなければ気付かなかったくらいだな……」
「まぁ、ダンジョンのトラップに、似たようなものがあるからな。隠密術は魔物相手にしてると自然と身につくさ」
魔獣型のモンスターは匂いや音にも敏感なので、風の魔法で体臭を消したり、歩行音をさせないようにしたり。風で音に指向性を持たせることで、耳を騙したりする事が可能なのだ。
「私の部下にも見習わせたい……今度、頼めないだろうか?」
「それだったら、専門の偵察職の方が良いと思うけどな」
本職だと、身じろぎ一つとっても音がしないし。気配の消し方……というか存在の消し方が遥かに上手だ。
「それだと、我が騎士団の脆弱性を表してしまうだろう? こうしてバレてしまった以上貴殿に頼む方が良いと思ってな」
ニヤリと笑うセルバ、面倒事を避けたかったのだが……どうやらそれは許してくれない様だ。
「その内ですよ……ここ三カ月は結構仕事が溜まってるのでそれが終わり次第ですし。それと、仕事の依頼はギルドを通していただけると……」
「わかった。そろそろ良いだろう……ここを上がれば離れの廊下だ。それでは俺は行く」
窓の一部を外して廊下への道を作ってくれた、姿を隠しちゃったけど窓は良いのかな?
「とりあえず、上がらせてもらおう」
廊下へ上がったタイミングで角の向こうからイブキ公爵が現れた。
「おお、ホウショウ殿。無事に抜けられたか!」
「非常に大変でしたがね……」
皮肉を込めて笑いながら言うと、後日何かお詫びをすると申し訳なさそうな顔で言ってくれた。
◇◆◇◆
「アドクレイド様、失礼する!」
イブキ公爵の先導で入った部屋にはアドクレイド様にギルドマスター、エルヴィール男爵ともう一人、知らない男性が座って談笑をしていた。
「来てくれたか、グリフィオル叔父さん! それとホウショウ殿も!」
暑さ健在の挨拶をして来る、アドクレイド様。エルヴィール男爵は満足そうに頷いてるしもう一人の男性は苦笑いをしている。
「こんばんは、アドクレイド様……変わらずお元気で何よりです」
「あぁ、書類仕事で頭が沸騰しそうだが、何とか頑張れているよ。それとこの度、貴殿を騙る男の暴走を止める事が出来ず申し訳無く思う」
公の場で無い事もあり、素直に頭を下げるアドクレイド様、この人は腹芸とか苦手そうだし素直に信じても良さそうだ。
「いえ、俺自身も知らない事でしたから、被害が大きくなる前に解決できて良かったです。それに、謝罪をしていただきましたのでこの件はここで終わりに出来ればと……」
「そうか。だが、このままでは俺の気が済まない……」
「兄様、勝手に話を進め過ぎないで下さい。私はまだ〝英雄殿〟との挨拶も済んで無いのですよ?」
もう一人の男性が立ち上がる、アドクレイド様と違ってさわやか系のイケメンだ。
「そうだった、すまないすまない。ホウショウ殿紹介しよう、俺の〝弟〟でアグラカルドだ、俺とは違って凄く頭が良くてな、頭脳で俺を支えてくれる」
そう言われて、第二王子様が前に出る。
「只今紹介に預った、アグラカルド=アークフォートだ。貴殿の噂は聞いている、兄上のお気に入りとの事で苦労を掛けると思うがこれからよろしく頼む」
にこやかに握手を求められ、そのイケメンオーラに圧倒されつつ握手を返す。
「さて兄上。ホウショウ殿も来た事だ。話を始めましょう」
「そうだな、ホウショウ殿。今日来てもらったのは他でもない。昨日話した爵位の事だ」
そう言って意地の悪い……いや、いたずらっ子の様な顔をする、第一王子様が居た。




