第11話:聖王都へ帰還
◇ラディリオン=ノスト(ギルドマスター)side◇
ホウショウが捕まった翌日、私は朝早くから城へ来ていた。
「ラディリオン殿、お久しぶりです」
「第一王子様、第二王子様、お久しぶりです。第二王子様の方は成人の儀、以来ですね」
にこやかに笑いながら席に着く、二人の王族は私の到来に困惑が隠せない様だ。
「師匠、その様な言い方はやめてくださいよ。」
「そうです、先生にはお世話になりましたし」
「そうですか、では少し砕けた形で喋りましょうか……」
私の言葉に、二人が安堵する。だがすぐにアグラカルド殿は神妙な顔になる。
「すみませんが、今回はどういった用件でしょうか?」
第二王子としての顔をするアグラカルド殿が心配そうに、問いかけてくる。私がここまで来る事態が起きている事はまだ耳には入っていない様だ。
「そうですねぇ……今日こちらに来させていただきましたのは〝カラッサ〟という街で、〝ホウショウ〟を騙る〝偽物〟が現れました」
「「!?」」
「す、すみません……子細をお聞かせ願えませんか?」
王子達が冷や汗を流しながらこちらに問いかけて来る。
「そうですね、事は昨日——」
事件のあらましを報告すると、二人共申し訳なさそうな表情となる。
「すみません、デュガデュラ伯爵は地方での捜査機関を統括している立場。そんな事になっているとは……すみません」
真贋を見極める私の眼は何の反応も示さない、という事は本当に知らなかった様だ。
「仕方ありませんよ、今回アメラドレク殿が突然亡くなられた事やそれと同時に膨大な量の書類も消失してしまいましたからね」
不正の洗い出しと討伐、領地の変更といった事に追われてしまい。疎かになっていたのでしょう、二人共痛い所を突かれてしまいましたね。
「すまない、私がもっと手伝い。任せきりにしなければ……」
「それは……」
明らかに、手伝わないでくれといった表情をするアグラカルド殿、どうやらアドクレイド殿未だに書類仕事が駄目なようですね。
「アドクレイド殿は、戦場で指揮を取られてましたし仕方ないかと、その武名も耳に入ってきますからね」
「そうだよ、兄さんは僕に無い武の才があるんだ机の上での戦いよりも今はそっちのが重要なんだから」
「すまない……本当にすまない……」
「さて、二人共」
落ち込んでしぼんで行く姿を見つつ、話しを戻す。まだ、話し合う事は複数あるのだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
◇ホウショウside◇
翌日、ギルドマスターから早急に戻って来て欲しいとの魔法信報が来た俺達はカラッサを出発した。一度エルヴィール領に戻り、男爵と共にそこから急いで聖王都へ向かう事にする。
「良かったですわね、こちらのギルド統括者の方が働きかけてくれた事で。カラッサやその周辺で起こした悪事を調べ上げるまでギルドの方で拘束していただける事になりまして」
前に乗る奏さんが笑いながら話しかけてくる、どうやらギルマスが色々と動いてくれたみたいで〝偽ホウショウ〟は、しばらく拘束される事になった様だ。
「そうだね。懸念をしていた〝貴族〟のやり口は身元の確認が取れないとギルド同士が組んで要求を突っぱねてくれたみたいだし。デュガデュラ伯爵が〝直接〟カラッサに来るまで拘束は続くとの事だったし一安心だね」
これで、エルヴィール領で俺が養子になる書類等の手続きを終えれば、晴れて一方的にこちらに責任を押し付けられなくて済む。
「旦那様、これでまた一人お嫁さんが増えましたわね」
「あっ……忘れてた……」
そうだった、エルヴィール家の養子になるという事はエルヴィール夫人と結婚する事だよな。
(嫌われてないと思うけど、いきなり俺と結婚なんて嫌じゃないかな?)
不安が顔に出ていたのか、奏さんが笑いながら抱き付いて来る。
「心配そうな顔をなされてますが大丈夫です、エルヴィール夫人も覚悟を決めて待っていらっしゃると思いますわ」
そういえば、出発間際に『わ、私も覚悟を決めます! ですのでホウショウ様、無事に帰ってきて下さい!!』って言ってたな……。
「あの時は、言葉の意味がわから無くて。〝無事に帰って来て下さい〟にしか返せなかったけど。そういう事だったのか……」
「はい、私と恵ちゃんは既に聞かされて了承をしておりますわ。後はカトレアさんですが、そちらは旦那様が頑張って頂くことになりますが。期待しておりますわ」
「あー、そうか……カトレアは元お姫様って事だし、先に役所で手続きをした方が良いのか」
この世界では婚姻届けは無いのだが、それなりに戸籍が整備され、戸籍から税金等々が引かれている為、役所で夫婦になる事を報告しないといけないのだ。
「はい、それと同時に私たちもよろしくお願い致しますね♪」
「うぐっ……そうか、この為だったのか……」
二人が許可をしたのは、俺が先延ばしにしていた公的な〝夫婦〟の申請だ。二人はこの世界から帰すから戸籍の事は後回しにしていたのだが、どうやら今回の件はそれも画策していたらしい。
「いえ、元々はカトレアさんとの結婚の際に相乗りするつもりでしたが。今回のエルヴィール夫人の事は棚から牡丹餅でしたので利用させていただきましたわ。それに、旦那様のハーレムに足りない要素を持ってらっしゃいますからね」
そう言って体の一部分を寄せ上げる奏さんの行動に目が奪われる。
(確かに奏さんもカトレアもそれなりに大きいけど、夫人の大きさは服の上からわかるほどに頭一つ抜けていたな……)
「あ、今見ましたわね。でも、聖王都に戻るまで待ってて下さいね」
そう言って妖しく微笑む奏さん、何か背筋がぞわっとする。
「ほーら、二人共。私抜きでいちゃいちゃしないでよ!」
恵さんが器用に馬を寄せて来る、先程からのやつは全部見られていた様だ。
「そうでしたね。つい二人きりの世界に入ってしまいました」
「ずるい! 次の休憩からは私がホウショウの前だからね!」
「そうですね、私だけですと不公平になってしまいますわね。では、それまでの間、旦那様をたーっぷり楽しませていただきますね」
「あの……俺の意見は……というか依頼中……あっ、はい……」
無言の圧に押され、男爵へ助けを求めるが、男爵は「これなら孫には恵まれそうだ」と豪快に笑っていた。
◇◆◇◆
それから4日後、俺達は無事聖王都へ到着した俺は、足早にカトレアの元へ向かう。
「やぁ、ガルデン。調子はどうだい?」
大工に混じって働いているガルデンに声を掛ける、リオルにやられた怪我は綺麗に治っており今は身体が鈍らないよう働いてるそうだ。
「あ、ホウショウさん! お久しぶりっす、すっかり回復いたしました!」
「大旦那から聞いてたけど、流石の回復力だね」
「いえいえ、これもホウショウさんが良い回復術師さんと治療士さんを手配してくれたからですよ!」
あの騒動の後、ガルデンを含む黒服達の治療はこちらで受け持った。それなりにお金があったので腕の良い回復術師を引っ張ってこれたのは幸いだった。亡くなってしまった人の家族には弔慰金を出したし、大旦那が生活の一部を保障する旨も伝えたので大丈夫だろう。
「いやいや、だとしてもこれだけ回復してるのはガルデン自身の頑張りもあるからさ」
「ありがとうございます。それで今日はどうしたんでしょうか? 大旦那ですか? それともカトレア姐さんですか?」
「あぁ、カトレアとね。役所に行って手続きして来ようと思って」
「そうなんですか!! そいつはめでたい!!」
ガルデンの大きな声を聞きつけ大工さん達が集まってきてしまった。




