第10話:面倒な事実。
「それで、君は本当に金等級なのかね?」
詰所で衛兵に問い詰められる、俺を騙った奴等の命を助ける為に外へ追い出した結果、お店の破損によって衛兵に連れて行かれたのである。
「はい、これが証ですね」
空間収納から金等級の証を取り出して見せる。まじまじと見られてから没収される。
「オッサンさぁ、ギルド証の偽造は違反だよ? 俺が見た金等級のギルド証はもっと派手だったんだから……」
「えぇ……」
あまりに根拠のないドヤ顔に呆れつつ、どうしたものかと考えていると、廊下が騒がしくなる。
「おい! この人を解放しろ!!」
飛び込んで来た衛兵が悲鳴を上げる。その様子を俺の取り調べしていた衛兵が面倒臭そうに手を振る。
「何を言ってるんだよ、コイツはホウショウ様を騙る犯罪者だぞ?」
「違う! その方が本物のホウショウ様なんだよ!!」
「……はぁ? 嘘も休み休み言えよ……」
「嘘じゃないって!! 聖王都ギルドに問い合わせたら返って来た特徴とまったく一致してるんだよ!!」
突き出された魔法信報の紙を読んでいく、すると段々と衛兵の顔が青ざめていく。
「えっと、とりあえずギルド証返してもらえる?」
「は、はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
ポケットからギルド証を取り出し、土下座しながら俺に捧げている。
「いや、普通に返してよ。なんか俺が悪いみたいに見えるし……」
「そそそそ、そうでっ、でですね!!」
ガタガタと震え出し、カチカチと歯を鳴らす。いや、そんな顔するなら最初からやるなよ……。
「はぁ……生憎俺はそこまで怒ってないし、謝るなら許しますよ。重い処罰とかは望みませんので、こういった決めつけで人を悪者にしないように」
詰所から、衛兵総員で送り出される。祖父の持っていたヤクザ物の映画で見た〝お見送り〟みたいだ。
「「「「「すみませんでしたぁ!!」」」」」
迎えに来た三人が苦笑いでこちらを見てる。
「旦那様、こういった時は『お勤めご苦労様です』のが良いのでしょうか?」
「それだと、極道になっちゃうからね?」
「大丈夫ですわ、私のお家は似たようなものですから♪」
いや、蒼井家は純和風なだけでヤ〇ザじゃないでしょ……。
「なら私は……」
「対抗しようとしないで良いからね……」
「私はまったくわからないにゃ……」
「あー俺達の故郷で裏社会の人間の事をそう呼んだりするんだ、それでその人達が労役から帰って来た時にそう迎えたりするんだ」
「そうなのかにゃ……変わった風習にゃあ」
そう言って苦笑いをする、サリアへ話を切り替える。恐らくギルマスとの連絡をしてくれたのは彼女だろう。
「それで、俺の名前を騙ってたのはどこに?」
「それが、少し厄介なことになってるのにゃ……」
「厄介な事? まさか、三人が勢い余っちゃった?」
「それは無いですわ!」
「そうだよ! やっても逃げられなくするくらいだよ!」
「師匠は私達を何だと思ってるにゃ!」
いや、完全にブチ切れてたじゃん……それにアイツら凄く弱いから、殺さないか気になってたんだよ。
「それで、厄介な事って?」
「それがにゃあ、相手は冒険者じゃにゃくて、貴族様の子供だったのにゃ……」
「あー……それは非常にめんど……厄介だね」
詳しい話を聞くと、この国の南西部にあるデュガデュラ伯爵の子供みたいで、今はギルドに捕らえられて伯爵領の方へ身分確認をしているらしい。
「十中八九、親が出てくるよなぁ……」
「そうなんにゃよねぇ……」
「でも、ギルド証や身分の詐称は重罪だったよね? それはお貴族様でも覆せないんじゃ?」
恵さんが腕を組みながら疑問を浮かべる、確かに〝冒険者〟の身分詐称は重罪なのだが……。
「それがな、今回は〝冒険者の貴族〟では無くて〝一般人の貴族〟が詐称してた事がネックなんだよ……」
「つまり、詐称してたけど〝冒険者〟では無いので罪は重くないと? それと、お相手が貴族様であることで大幅な減刑を求められたり罪自体を無かった事にされかねないということでしょうか?」
奏さんが今回の問題点をズバリ指摘する。
「そうなんだよね、後はオマケに俺が貴族に手を上げたって事になるからより面倒な事に……」
「つまり、旦那様が一方的に処罰される可能性があると……」
奏さんの言葉に頷くと、呆れた様なため息が出る。
「なにそれ……いくら何でも卑怯じゃない!? 人の事を騙っといてそれで事件になったら相手方が悪いなんて!!」
恵さんが怒り始める、正直仕方ないけど貴族社会であればありえなくもない話である。
「さて、どうしたもんかねぇ……」
話している内に宿に着いたので扉を開けると、エルヴィール男爵を含む皆が待っていた。
「遅かったのう? 大丈夫じゃったか?」
心配そうな男爵が聞いて来る。まぁ、宿の前だし知らない訳が無いか」
「あー、大丈夫な様な大丈夫じゃない様な……」
「そうか……。そうだ、女将がお主に感謝しておったぞ。最近話題の迷惑者を懲らしめてくれたと」
女将の方を見ると親指を立てて笑っている。
「いえ、不本意とはいえそう称されてますので、それを騙られては怒らない訳にはいきませんから」
苦笑いをしながら言うと、女将にバシバシと叩かれる。
「それでもだよ! 皆権威に笠着て粗暴な振る舞いをしていたアイツが投げ飛ばされてと聞いてスカッとしたよ!」
「いてて……それは、良かったです」
「後、3年早ければねぇ……ウチの娘を嫁にやれたのに……」
女将さんの娘さんと言うと、昨日ウェイターをしていたあの女性か。
「い、いえ……既にお嫁さんが居ますので……」
「そうかいそうかい! そりゃこれだけ別嬪さんが揃ってたらウチの娘の入る隙はありゃしないわね!」
笑いながら、そのままカウンターの奥へ引っ込んで行った。
「それで、ホウショウ殿。何かあったのか?」
「それが……」
先程知った、偽ホウショウの事を話すと。うんうんと頷いた後、ケロッとした顔をする。
「なんじゃ、それならいい解決方法があるぞ」
「「「「「へっ?」」」」」
「じゃから昨日言ったじゃないか。ワシの養子にならないかと」
「でも、そんな事の為に二人の人生を変える訳には……」
「はぁ……少なくともワシもあの子もお主に命を救われておる。それにしかとあの子が認めた男じゃ、それに昨日今日と一緒に居てお主の人となりは見させてもらった。その上でお主に提案しているんじゃ」
確かに、今ここでその話を受ければ相手が貴族としての言い分が無くなる。
(だけど、一時しのぎ……それに元の世界に戻る事を考えると頷けはしない……)
「でも、聖王都に戻れば、叙爵されるだろうし……」
「その前に手を出されては問題であろうに。それに恐らく伯爵も逆賊討伐に参加しているから軍功の代わりにお主の叙爵を妨害されるやもしれんぞ?」
「うっ……」
言葉を返せなくなる、確かに叙爵を邪魔されてその間に押し切られたらこちらの負けである。
「お主、守る物があるのじゃろ? それなのに何を躊躇う必要がある……」
悲しそうな顔をする男爵、確かにここまで執拗に断っていれば男爵も傷つくだろう。
「でも……俺は……」
「旦那様、このお話お受けいたしましょう」
「奏さん?」
「旦那様には私達を元の国に返すという目的があるのを理解しています。ですがここで躊躇ってしまうと、その目的が遠のいてしまいます。相手は貴族であれば、こちらも爵位と言う力を持って相手と相対しなければなりません」
「そうだね、私達に気を遣ってもらうのは凄く嬉しいけど。旦那様が捕まったり処罰を受けちゃう方が嫌だもん」
「恵さん……」
そうだよな、元の世界に戻る事も重要だけど。時が来るまでこの世界で二人や皆を守れる力も必要だよな。
「わかりました、エルヴィール男爵……いえ、お義父さん。その貴重なご提案をお受けしたいと思います!」
「そうか、これで跡継ぎは心配ないわい!」
男爵の喜びに、奴隷の皆も喜びを上げていた。
作者です!
やったね、家族が増えたよ!




