幕引き、半ば 「薬師様へよろしく」
ひととき緞帳は止まり……。
(字数:1,105)
屋敷の屋根にのぼる。
目で背後の尾根をたどれば、近くにほどよく開けた丘が見える。
丘の上には二つの人影があった。
小指と親指ほどの大きさの、細い影と、大きな丸い影。
ついさっきまでもう一人いたのを見送って、あれからずっと立ち尽くしている。
「どこまで行けるかなあ?」
独り言をつぶやくようにたずねる。
天窓にかけた梯子の下から、頁をめくる音と、「さてのぅ」と気のない返事。
「もって半月っちいうところでないかゃ?」
「味気ないなぁ」
「妥当な所見ぞに。あの薬草はそう、どこにでもは生えちおらん」
「だから、ありったけ薬にして持たせたんじゃないの? あの子が二晩も寝ずに煎じて」
「寝ずに煎じようち寝ながら捏ねようち、もたんものはもたんぞに」
苦笑する。本当に味気ない。
「それ、あの子にも言った?」
「……」
梯子の下が黙り込む。しばらく待つと、ぼそぼそときまり悪そうに口を割った。
「……言った」
「だよねぇ~?」
丘を見る。
細い影は、きっと泣いているのだろう。
おのれの無力に打ち震え、虚無に打ちひしがれて。
行き先も見つからず、ここにいるのも何のためか、答えられずに泣いているのだろう。
けれど、それでも立っている。
立ち止まっても崩れ落ちることなく、それでも、まだ――
「それでも、あの子は薬師でい続ける……見込みどおりだねぇ」
「ふん。いつ《呪詛》を吐き始めてもおかしくはなかったがねぁ」
「えぇー、自分で言ったんじゃない? 見込みはあるんだにゃ~って」
「誰じゃ、それは。見るも聞くも危うすぎてやっちおれるかゃ、あんなヌケサクを」
「じゃあ、やめる?」
「……」
「やめないよねぇ~?」
「当人次第ぞに」
梯子の下は終始ぶっきらぼうにものを言う。
本当は期待しているくせに。わたしと同じに。
「やめないよ。あなたとは違うもん」
「……」
「ねー、ハナぁ~?」
屈辱に押し黙る梯子の下から意識をそらし、丘の上の彼女に語りかける。
「かわいいハナ。いとしいハナ」
――わたしの大事な薬師様。
手を伸ばす。
彼女と彼が、手のひらに乗るよう錯視する。
もの言わず、ただそばに寄り添う怪物と、独り空を見あげて震える少女。
今は小さすぎる彼らが、踏みしめる場所を見失い、こぼれ落ちてしまわぬように。
この血と骨がいしずえとなることを、願って祈って焦がれて謳う。
「きっと、きっとなってね。誰よりも本当の薬師様に。それまでたくさん、たっくさん、診せてあげるから」
いつか甲斐があるように。
やがて言祝がれるように。
たとえ痛ましくとも。
たとえ狂わしくとも。
たとえ呪わしくとも。
たくさん。たくさん……。
いつか荒野のガオケレナ――
第一部――
『呪わしの亜人は秘薬をむさぼり、されど薬師は診療録をつづる』
――完
明日正午、最終話投稿予定。
エンドロール終了まで、席をお立ちにならないようお願い申し上げます。





