第22話 王都のレストランにて①
更新にだいぶ長らく間が空いてしまい、大変申し訳ございません(特にブックマークしていただいている読者様)。
これから可能な限り更新していきたいと思っているので、今回初めて本作を読まれる読者様もブクマしてお待ちいただいた読者様も引き続きお付き合い下さいますと幸いです。
王都の商業地区のレストランで四人で食事をする当日。
ルークはいつものようにローランズ公爵邸にシルヴィアを迎えに行き、彼が公爵邸に向かうまでに乗っていたベレスフォード公爵家の馬車に彼女と共に乗り込み、王都の商業地区へと向かった。前回二人で商業地区をデートした時とは違い、今回は商業地区内で馬車での通行禁止の時間帯ではない為、お店の前まで馬車で移動し、そこで降りるという形になる。
目的地であるレストランの前に到着した為、馬車が止まる。まずルークが馬車から降りて、シルヴィアに手を差しのべ、彼女が降りる手伝いをする。
「シルヴィ、大丈夫?」
「ええ、ルークが手を貸して下さったから。それよりここが今日お食事をするレストランですの?」
「そうだよ。ここは裕福な平民や今日の僕達みたいなお忍びで貴族が来たりするよ。今日は個室を予約しているから、他の人の目はあまり気にせず、食事を楽しむことが出来る。それはさておき、もうクリスとマーガレット夫人はまだ来ていないよね? 店の前で待ち合わせということにしたけれど……」
ルークが辺りを見渡すように視線を彷徨わせると、ちょうど二人がいる場所に馬車が一台向かって来ており、やがてその馬車は止まった。そして、馬車から男女が降り、ルークとシルヴィアの方に手を振りながら向かう。
「遅くなりましてすみません、ルーク」
「僕よりクリスの方が待ち合わせに遅れて来るなんて珍しいね。何かあったの?」
「仕事が少し長引いてしまったのと、道が混んでいて。シルヴィア嬢も先日婚約の件でローランズ公爵邸にお邪魔して以来ですね。今日は私の妻も連れて来ているので、席に着いたら紹介させていただきます」
「私の方こそ先日はお世話になりました。今日はとても楽しみにしていましたの」
「じゃあ、立ち話はここまでにして、お店に入ろうか」
ルークはシルヴィアをエスコートし、クリスはマーガレットをエスコートして店内に入る。店員の案内により四人は前もってルークが予約した通りに個室に案内された。レストランは外装は茶色のレンガ造り、内装は重厚なテーブルに皺一つない真っ白なテーブルクロスがかけられており、室内全体の照明は薄暗い。そして、それぞれのテーブルの上にはお洒落なキャンドルが置いてあり、キャンドルの灯りが暖かみのある空間を演出している。さらに、このお店ではディナーの時間は店内でピアニストによるピアノの生演奏が行われており、今も店内の雰囲気に合った美しく繊細なピアノのメロディーが奏でられている。
四人掛けのテーブルにルークとシルヴィア、クリスとマーガレットが隣になるようにして、四人は着席した。まずはウェルカムドリンクとして、ウェイターがフルートグラスに入ったシャンパンを給仕した。その後、すぐにコース料理の前菜の三種類盛り合わせが給仕される。
「まずは乾杯といこうか。今日の良き日に乾杯」
ルークが簡単に乾杯の言葉を述べ、四人はそれぞれ自分のグラスを右手に持ち、グラスを合わせる。グラスを合わせるとカチン……と静かに上品な音が鳴る。
「このお店はルークと何回か来たことがあり、今日は久々に来ましたが、相変わらず良いお店ですね。シャンパンが美味しいので、料理も楽しみです。シルヴィア嬢、先ほどお店に入る前に話していたように、まず私の妻を紹介させていただきますね」
「シルヴィア様、初めまして。私はマーガレットと申します。クリスから聞いているかもしれないけれど、クリスと結婚する前は王宮の会計室で働いておりました。そこでクリスと出会って、紆余曲折を経て、二年前に彼と結婚しましたの。ルーク様とクリスの縁で、私とも仲良くしていただけたら嬉しいですわ」
「マーガレット様、ご挨拶ありがとうございます。シルヴィア・ローランズと申します。先日、ルーク様と私の婚約の書類関係でクリス様にお世話になり、今日はマーガレット様をご紹介いただけるとのことでとても楽しみにしていたのです。立場上、同性の友人がほとんどいないので、私の方こそ仲良くしていただけたら嬉しいです」
シルヴィアは王太子妃教育で身につけた笑顔ではなく、家族等のごく一部の親しい人にしか見せない柔らかい笑顔をマーガレットに向けながら話しかける。マーガレットはシルヴィアの表情を見てラピスラズリの瞳をぱちくりとさせた。因みにマーガレットは豊かに波打つ栗色の髪にラピスラズリのような濃い青の瞳のおっとりとした系統の顔立ちである。
「シルヴィア様はこんなに可愛らしく笑う方だったのですわね。シルヴィア様といえばフィリップ王太子殿下の婚約者として社交していらっしゃるお姿がすぐに思い浮かびますが、その頃はキリっとした雰囲気でしたので、あまりに印象が違うので驚いてしまって」
「やっぱりシルヴィといえばそんな印象だよね。僕も酒場で初めてシルヴィに会った時、それまでのイメージと違い過ぎて驚いたよ。……尤も酒場にいたシルヴィの様子は僕だけが知っていればいいんだけどね」
「だってルークとクリス様が親しいからこれからその関係でお付き合いがあるのに社交用の笑顔ではなんだかな……と思いましたの」
もじもじしながらそう伝えるシルヴィアの様子をルーク、クリス、マーガレットは微笑ましく見守っている。
「そう言えばルークとシルヴィア嬢の馴れ初めはどんな感じだったのですか? 先日は婚約書類のことだけ仕事をして時間がなかったので、何も聞けませんでしたが、気になってはいたのです」
「甥の誕生日パーティーがあった日に酒場で出会ったんだよ。何でシルヴィが酒場にいたのかはお察しだろうけれど、僕もその日ちょうど酒場でゆっくり飲みたい気分だったんだよ。シルヴィのお話を聞きながら飲んでいたんだけど、そこでのシルヴィの姿が知っている姿と違い過ぎて、惹かれたんだ」
「その酒場はセバスチャンがやっている酒場 月光ですよね? 私は最近行けていませんが、彼、お元気ですか?」
「ああ、元気にやっているよ。セバスチャンには相変わらず坊っちゃま呼びされているけれど」
「でしょうね。彼にとってあなたはずっとお世話をしてきたお坊ちゃまです。私が一人であのお店に行った時も最近のルークの様子は必ず聞かれます」
「……? あのお店のマスターさんはルークのお知り合いでしたの?」
「シルヴィには言ってなかったけれど、あのマスターは昔、後宮で筆頭執事をしていたんだ。僕がまだ王族だった頃ね。彼にはお世話になっていたから、彼が約6年前に筆頭執事を辞めてあのお店を出した時からずっと時間がある時や気が向いた時はお店に通っているんだよ。僕もたまには息抜きしたくてね」
「そうだったのですわね! 渋くて紳士的な素敵なおじ様だと思っておりましたが、以前は後宮で筆頭執事をされていらっしゃったとは。ルークのお知り合いなら今後はお店に行った時、変なことは出来ませんわね。ルークに出会ったあの時みたいに」
「シルヴィはあの時初めてあのお店に行ったの?」
「いいえ、あの時が初めてではないですわ。嫌なことがあった時はあのお店に行っておりました。ただローランズ公爵邸から抜け出してお店に行くことにはなるので、そんなに通ってはいません。お父様やお母様が泊りがけの社交で不在時などにちょっと抜け出して行く程度ですわ。あの日は婚約破棄されてもうやってられないという気持ちでしたので、お父様とお母様がいるのに行ってしまいましたの」
「あの時あのお店で僕達が初めて出会ったのは本当に偶然だったんだね。シルヴィに出会えたから運命の神様に感謝だよ」
「私もヤケ酒する為に行った酒場でルークとの出会いがあるなんて思ってもみませんでしたわ。婚約破棄されてヤケ酒したらお忍び中の王弟殿下を捕まえました……ってどこの恋愛小説のタイトルですかというような出会いですもの」
シルヴィアがそう言うと、四人が盛大な笑いに包まれた。
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