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第20話 国王視点

更新が滞り気味で大変申し訳ございません。


一週間に一度は更新出来るようにしたいと思っています。


「行ったか」


「ええ」


 私は執務補佐官に尋ねるとそう答えが返ってきた。


 補佐官は複数人いるので、その内の一人がルークの送迎で今、席を外している。



 先程まで弟のルークと紅茶を飲みながら、ルークに婚約破棄絡みの話をしていた。



 ルークが18歳で王族の籍から離脱し、ベレスフォード公爵家当主として生きるようになってから、私とルークは直接顔を合わせて話をすることは少なくなった。


 しかし、兄として弟の様子も気になるので、王と臣下としてではなくただのエリックとルークとして半年から一年の間に一度というペースで時々私の執務室に呼んで近況を聞いていた。


 ルークに話を聞くと、ベレスフォード公爵領の方で美味しい果物の育成に励み、その果物を王都に流通させたり、近衛騎士団長のところのルークと同い年の息子と王都の商業地区でカフェを経営していて、そのお店が繫盛していたり……と中々精力的に活動しているようだ。


 それに、たまに後宮で執事として勤めていたセバスチャンがマスターをしている酒場にお忍びで出かけたりもしているようで、セバスチャンとの交流も途絶えてはいないそうだ。



 そんなルークと今日は久々に会った。


 息子のフィリップが誕生日パーティーで盛大に愚かなことをし、その後始末をしなければならなくなった。


 私とレイラはお互いが10歳頃に婚約し、そのまま結婚した。


 レイラは当時外務大臣を務めていたオーレル公爵の娘で、婚姻以前はオーレル公爵令嬢だった。



 レイラと政略結婚してから、五年という長い間、子に恵まれなかった中、やっと生まれてきたフィリップ。


 フィリップという跡取りが生まれて素直に嬉しかったが、喜んでいる間にも次から次へと仕事はやって来る。


 仕事は待ってはくれないし、国王である私にしか出来ない仕事も沢山ある。


 私の両肩には民の生活がかかっているから、仕事で手を抜くなんて論外だ。


 部下に回せるものは回しているが、それでも量が多い。



 私があまりフィリップに構ってやれなくても、その分、母親のレイラと乳母がそれなりにフィリップのことを見ていてくれると思って仕事に邁進した。


 王妃であるレイラも公務があるが、王家主催の舞踏会や夜会、茶会等の催し物をやったり、外国の使節団が訪問する等がない時期であれば、私よりもずっとやるべき公務は少ない。


 フィリップが生まれた後、二男のエドワード、長女のエリザベスが生まれたが、私は相も変わらず家庭を顧みることは出来ないままだった。


 私の父上も家族に対してそんなに父親らしいことはせず、一番交流していた時が国王の引継ぎの時で、それは為政者同士の交流だった。



 仕事ばかりやっていて、気づいた時にはフィリップはもうどうしようもない程に甘やかされた状態になっていた。


 何とか軌道修正を図ろうと、フィリップの婚約者であるシルヴィア嬢と一緒になら――可愛い女の子と一緒になら――勉強を頑張ってくれるのではないかと期待したが無駄だった。


 その上、レイラが教師達に”シルヴィア嬢への教育は厳しく、フィリップへの教育は優しく”という方針を指示していたことが発覚し、どういうことだとレイラを問い詰めたが、返ってきた言葉は私が悪かったと言わざるを得ない言葉だった。



 ――”あなたは今までずっと子供達のお世話は私に任せきりで、父親らしいことを一度もしてこなかったではありませんか。今更子育てに関して口出しなさるおつもりですか?”



 そう言われてしまえば何も言うことは出来ない。


 朝、日が昇ると同時に仕事に行き、仕事を終わらせて家族で暮らす後宮に戻れる時間はもう子供達はとっくに夢の中にいる時間帯で、普通の家族のような一家団欒もほぼほぼしたことはない。


 一週間程仕事の休みを取って、どこか田舎にある保養地等に家族揃って個人的に旅行に出かけたこともない。


 公務でなら一家揃って遠出したことはあるが、それはあくまで公務であり、完全に仕事抜きで楽しむものではなかった。


 天気の良い午後に仕事を休憩して、子供達と庭園で一緒に遊ぶこともなかった。



 結局、仕事が忙しいからと全てを丸投げにしてしまった私が悪いのだ。


 何もやってこなかった者に、自分の代わりにやってもらっていたことに対して意見する資格はない。



 でも、せめてレイラだけは我が家は一般の貴族の家庭とは違うということは分かって欲しかった。


 それにフィリップは単なる王子ではなく王太子だ。


 母親が甘やかして愚鈍な王太子にしてどうするのだと本当は言いたかった。


 息子が可愛いのは分かるが、だからと言って甘やかしていいとはならないはずだ。


 将来の王として相応しい者になれるよう導くのが、母親としての役割ではないのか。



 レイラの言葉を聞いて、私の言い分なんて聞く耳を持たないだろうと思ったので、余計なことは言わず、レイラのやりたいようにやらせることにした。


 その結果が誕生日パーティーでの婚約破棄に繋がったのだろう。


 フィリップは王族としてやっていいこととやってはいけないことの区別も出来ない程、愚鈍な王太子になってしまった。



 これはフィリップ本人の元々の性格にも問題はあったのだろうが、完全にフィリップだけが悪いとは言い切れなかった。


 レイラがやったことは国母として明らかに問題があり、それを知っていながら何も出来なかった私も悪い。



 本来ならばフィリップを廃嫡にするのが国王として正しい判断で、廃嫡にするのも簡単だ。


 しかし、父親として簡単に廃嫡という結論を出すのではなく、チャンスを与えてそれでちゃんとフィリップが王太子としてやっていけそうならば応援したかった。



 だから一度はチャンスを与えた。


 チャンスを生かすも殺すもフィリップ次第。


 レイラをフィリップから遠ざけ、家庭教師達も手配した。


 レイラは蟄居させているので、家庭教師達はレイラの言葉に耳を傾けることはなく、私の指示に従うよう言い含めた。



 でもそんな私の願いはフィリップには届かなかった。


 それもたった一日で音を上げた。


 たった一日で音を上げた挙句、もう一度シルヴィア嬢と婚約して、彼女に表向きの王太子妃として仕事をやらせて自分とエミリー嬢は楽しく暮らすという見当違いなことを言ったという報告を宰相から受け取って私は頭を抱えた。



 どういう趣旨で厳しいレッスンを受けるのかきちんと説明したにも拘らず、理解出来ていなかった。


 私はチャンスを与えたつもりだが、勝手に趣旨を履き違え、自分達が楽をしたり楽しく暮らす為にシルヴィア嬢を踏み台にしようとする最低な行いを何も疑問に思わずに言い出せるフィリップにかける情けはなくなった。



 宰相との話の中で廃嫡を選んだフィリップがエミリー嬢に廃嫡を報告すると、フィリップはエミリー嬢に振られたようだ。


 したがって廃嫡後の可能性の一つとして考えていたエミリー嬢の実家のハーマン男爵家に婿として行かせ、ハーマン男爵とする線はなくなった。


 その場合、ハーマン男爵家はエミリー嬢の兄が継ぐことになるところに割り込むような形になる為、男爵家を継ぐ予定だったエミリー嬢の兄にはハーマン男爵領と同等程度の領地と爵位をきちんと補填する必要がある。


 返済出来ない程の借金を抱え、結局、爵位と領地を国に返上していたり、相続人がいない為に王家に爵位と領地を返還している田舎の男爵家や子爵家が数個あり、余っている領地と爵位がある。


 その中の一つを渡そうという話だ。



 また、先述した領地と爵位のセットの内の一つをフィリップに与え、その家の当主として領地経営をさせることも考えたが、フィリップに領地経営など出来ない。


 執務官も一緒に行かせても、フィリップが反省することなどなく、仕事を全て執務官に丸投げし、それこそ楽しく暮らすことになってしまう。


 その上さらに悪いことに、王都から離れた田舎の土地なので、そこに行ってしまうと私の目が届かず、好き放題する可能性も浮上する。



 そうなるとやはり私の目が届く範囲でレイラと同じく北の塔に蟄居させるのが妥当だ。


 ただし、レイラには会わせないよう徹底的に管理はする。



 エドワードを今後フィリップの代わりに立太子させて王太子とし、将来の国王にすることには問題はない。


 幸い二男のエドワードの教育は乳母がフィリップを見てこれではいけないと気を回した為、教育方針は厳しくされており、厳しいが説明がわかりやすく指導力に定評のある家庭教師の下で学んでいた。


 幸か不幸かレイラはフィリップに構うのに忙しく、エドワードとエリザベスの世話は乳母に丸投げしていた為、乳母に委ねられていたのだ。


 家庭教師達からのエドワードの評価を聞いても”何事にも真面目に取り組んでいる”、”我々が見えない部分でもきっと努力はされているのだろうが、飲み込みが早く優秀”という期待が持てそうな評価ばかりだ。



 ここで重要な問題が一つあった。


 フィリップに婚約破棄されたシルヴィア嬢をどうするのかという問題だ。



 本音を言うならば、エドワードと婚約を結んで欲しいが、エドワードにはもう婚約者がいる。


 プリシラ・ヴァンチュラ侯爵令嬢。


 いくら優秀なシルヴィア嬢を王家の一員として迎え入れたくても、プリシラ嬢との婚約を破棄してまでシルヴィア嬢を婚約させてはヴァンチュラ侯爵家から不興を買うことになる。


 王家の都合であちこちの家に迷惑をかけ、決まった縁談を二転三転させては、貴族達から信用されなくなってしまう。


 


 そう考えるとやはりエドワードの婚約者にするのは不可だ。


 それにシルヴィア嬢とて公衆の面前で婚約破棄されたことを考えたら、王家の者はもう懲り懲りだと思っているだろう。



 彼女には本当に悪いことをしたと心から思っているので、お詫びとして良い条件での縁談を世話しよう。


 相手を誰にするのかを考えてみた時、真っ先に思いついたのはルークだ。


 ルークはもう王家の者ではない為それほど王家と関わる必要性もなく、シルヴィア嬢の実家のローランズ公爵家とも家格の面で釣り合いも取れて領地経営も順調で財政状況も問題なく、年齢差も許容範囲内と言える範囲だろう。


 ルークが女嫌いである点は唯一の懸念事項だが、シルヴィア嬢は財産や地位目当てでルークに媚びを売ったり、品がなくガツガツ迫るような頭の軽いタイプではない。


 この二人は婚約させてもルークが嫌な思いをすることはないどころか、上手くいきそうな予感はする。



 可愛い末弟のルークは女嫌いということで今までずっと一人だったけれど、きっかけはどうであれ、この婚約でシルヴィア嬢と温かく幸せな家庭を作ってもらえたら兄としては嬉しい。


 私自身は結婚はしていて子供もいるが、王家という特殊な立場上、温かで幸せな家庭というものは縁遠かったから私がルークに言えた義理ではないのかもしれない。



 ……そう思っていたが、要らぬ心配だったようだ。


 王家の影に調べさせて、結果を読んだ時はとても驚いた。


 ルークの兄としてルークの将来を心配していたが、これで心配事の一つは解決した。



 早速、ローランズ公爵家の当主に婚約破棄の後処理とフィリップと男爵令嬢の今後についての手紙を書こう。


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