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ビン子ォォオオオオ! カミバックゥゥゥ!

 森に入って数分後……

 権蔵は目の前の緑の茂みの下から何かが覗いているのを見つけた。

 薄暗い森の中で目を凝らす。

 どうやら、それは人の手のようである。

 しかも、よくみると少女の手のようなのだ。

 それを見た途端、権蔵は茂みへと走った。

 急いで緑をかき分ける。

 すると地面の上にビン子がうつぶせに倒れこんでいるのを発見したのであった。

「ビン子! どうしたんじゃ!」

 すぐさま、権蔵はビン子を抱きかかえる。

 そして、呼吸があるかを確かめるためにビン子の口元に耳を寄せた。

 スー……スー……スー……

 ――息はあるようじゃ。

 ひとまずは安心といったところ。

 だが、もしかしたら、けがや病気で倒れたという可能性もありる。

 権蔵は、そっとビン子の額に手を当て体温を感じてみた。

 ――どうやら、熱はないの……

 というか……これ……

 ――寝とるだけか?

 権蔵はあきれた様子でビン子の顔をのぞき込んだ。

 先ほどからスースーと寝息を立てているビン子のまぶたがピクピクと揺れている。

 ちなみにグーグル先生によると、『睡眠中に(まぶた)がピクピクするのは、眼瞼(がんけん)ミオキミアと呼ばれるもので、通常は睡眠不足や疲労、ストレスなどによって引き起こされます。多くの場合、数日〜数週間で自然に治まりますが、症状が続く場合は眼科を受診することをおすすめします』だそうだ。

 ――まぁ、おそらく……あの時のように……頑張りすぎて疲れたんじゃろ……


 そう、ビン子が倒れるのは今回が初めてではない。

 あの時もそうだった……


 数か月前……それは配達の帰り道……突然、タカトが腹が痛いと言い出したのだ……

 まぁ、仕方ない……だって、この日の昼に食したものは……ビン子が作りし『思いでぽろぽろほろにがパイパイ』だったのだからwwww

 そのため、すでにタカトの腹の中では大量のモスラが召喚されていた!

 だが、そのモスラたちを解放しようとしてもココにはトイレではなかった……そう!ここは道の上! しかも、人の往来もあるあぜ道なのだ!

 ――こんなところでできるかよ!

 必死に腹を抱えて耐えるタカト。

 ――ならば、家に帰るまでは耐えて見せる!

 だって、俺は男の子!

 と……頑張ってみたのだが……やはり、人間、生理現象には勝てないようで……

 限界を迎えたタカトはいそいそと脇に生い茂るヤブの中に入りこんだのだ。

 そして、おもむろにズボンを下げてしゃがみこむと……

 ピーでる・ブリュ~でる!

 大きな音が茂みの外まで響いてきたwww

 あwwwちなみに北方絵画『バベルの塔』を描いたフランドルの巨匠ピーテル・ブリューゲル先生とは全く関係ございませんwwww


 そうこうしているうちに、タカトの足元には茶色いバベルの塔が建設されていた!

 いわずもがなバベルの塔とは、旧約聖書の「創世記」に登場する伝説上の高層建築物のことである。傲慢な人びとが神に挑戦するために天にも届くような高い塔を建てようとしたといわれているのだ。

 だが! その行為が神の怒りに触れた!

「傲慢な人間に天罰を!」

 それによって、人間の言葉は多言語に分かれ、結果、一つにまとまることができなくなったといわれているのである。

 当然、タカトのつくりしバベルの塔も、神への挑戦!

 何を隠そう! ビン子もまた神!貧乏神なのだ!

 ならば! 神が作りし『思いでぽろぽろほろにがパイパイ』を食して、天に、いやケツに届くような塔を作ってやろうではないか!

 だが、それは傲慢な人間の思い上がり!

 そんなことをすれば、ケツが汚れてしまいかねないのだ!

 だがしかし……ココにはその行為をいさめる神がいなかったのである。

 え? もしかしてビン子のこと?

 アホかwww だいたいタカトと一緒にヤブの中に入ってバベルの塔の建築状況をつぶさに観察したいと思いますか? いや思わないだろwwwというか、絶対にしたくない!

 だから、ビン子ちゃんは道の上でタカトの戻りを待っていたのである。 

 だがしかし!

 ――いま、必要なのはその神じゃねぇ!

 だからこそ、タカトは道に向かって大きな声で叫ぶのである!

「ビン子! 紙をくれ!」


 それを聞くビン子はあきれ顔。

「ティッシュぐらい持ってなさいよ……」

 だが、このまま放置しておけば、ケツの臭いタカトと一緒に帰らないといけなくなるのだ。

 それだけはゴメンこうむりたい……

 ということで、ビン子は自分が持っているであろうポケットティッシュを探すのであるが……カバンの中に入れておいたはずなのに……ないのである。

 ――そういえば……昨日の晩、タカトの奴がアイナの写真集を前にして儀式を行っていたような気がするわ。

 その儀式は毎晩のことなので、ベッドの上からそれとなく寝たふりをしながら見てただけだった。

 だが、おそらく、その時、タカトが使用したと思われるのが、今持っているカバンの中に入れておいたポケットティッシュだったような気がするのだ。

 ――しまった! 朝、補充しておくの忘れたわ!

 まぁ、人間、うっかりということはよくある。

 それがしっかり者のビン子であったとしてもありうる話。

 だから、いくらカバンの中をゴソゴソとあさったところで未使用のポケットティッシュはないのである。

 あるのは、昨晩、タカトが丸めた使用済みのティッシュのみ。

 しっかり者のビン子は、朝起きると床の上に散乱するゴミを片付けておいたのだ。

 だが、もし……そんなティッシュをタカトに渡そうものなら……

「汚ねぇ!」

 と、大切な使用済みティッシュを投げ捨ててしまいかねない。

 ――ど……どうしよう……

 ビン子はカバンをのぞき込んだままタカトの言葉に混乱した。

 無いものはない!

 ――葉っぱで拭けとでも言おうかしら?

 いや、葉っぱだとコレクションにできないではないか……

 ――うーん、どうしよう

 だが、解決策は簡単ではないか。

 というのも、ココから家まで走って15分!

 ならば、新しいポケットティッシュを取りに帰ればいいのである!

 ということで、ビン子はタカトをそのまま放置して、家に向かってダッシュした。


 でもって、頑張って、頑張ってやっと家にたどり着いたビン子はドアを開けた途端……バタリ……と、突っ伏して倒れこんでしまったのだ。

 そんな様子を見た権蔵は、ゆったりとした午後のひと時を机に座りながら茶をすすっていたにもかかわらず、めちゃくちゃ驚いた。

 「どうしたんじゃ!」と急いで駆け寄るとビン子の肩をゆする。

 だが、ビン子ははぁはぁと息を切らすだけ、どうやら意識がもうろうとしてるようで、ろれつがうまく回らない。

 だが、かと言って、体のどこかに異変があるようにも思えない。

 ならば、病気かと思って体温を測ってみても、さほど異常な数値は示されない。

 一見すると、それは、まるで貧血?いや、空腹でめまいでも起こしているかのようにも見えた。

 ――ならば……少し安静にして様子を見るしかないようじゃの……

 権蔵はビン子を抱きかかえると、そっとベッドに運んだのだ。


 で……その頃……タカトはというと……


 時間はかれこれ2時間経とうとしていた。

 だが、待てども待てども神が紙を持ってこないのだ……

「ビン子ォォオオオオ! カミバックゥゥゥ!」

 叫んでみても誰も助けてくれない。

 こういう時、赤の他人とは薄情なものだと思い知らされる!

 というか、人っ子一人通らなかったのだから仕方ないwwww

 しかし、2時間もウ○コ座りを続けていると足がしびれてくる。

 日もだいぶ暮れだしたせいか、むき出しの尻に当たる風も少々冷たく感じられる。

 そのかいあって、お尻の表面はカピカピに乾いてきて……もう、紙様なんて必要なくなっていた。

「もう! 神様なんて信じない! というか!ビン子のボケは何しとんじゃ!」

 と、ズボンをはいて自分で一人すたすたと歩いて帰ってきたのであるwww

 ちなみに、この時……タカト、ケツを拭いてないwwww


 権蔵はあの時の様子を思い出していた。

 ――確か、アイツが家に帰って来たとき、なんかぷーんと匂ったのお……

 あの時もタカトの奴は、どこぞでクソでもしていたに違いないのだ。

 で、尻を拭く紙が手持ちになくてビン子にとりに帰らせた。大方、こんな感じだったのだろう。

 ――ということは、今回もどうせ、ケツを拭く紙がなかったとかじゃろ……

 であれば、今回もまた、ビン子はタカトのピンチを救おうと必死に走ってきたのかもしれない。

 ところが、森を出る前にビン子は腹が減りすぎて貧血を起こしたようなのだ。

 ――まぁ、少し安静にしておけば、あの時のように大丈夫じゃろうて……

 そう、あの時もタカトが家に帰ってくると、ケロリとした様子で起きてきたのだ。

「タカト! ちゃんとお尻拭いたの? 超臭いんですけどぉ!」

「ビン子!お前のせいだろうが! お前が紙を持ってこなかったからだろ!」

「ちょっと! 近寄らないでよ! 本当に臭いんだから! 何食べたのよ!」

「お前の作った『思いでぽろぽろほろにがパイパイ』だよ!」

 

 ――まぁ、どうせ今回もこんな感じじゃろ……

 と思っていたのだが、先ほどから子犬の様子がおかしいのだ。

 そう、いまだに権蔵の数メートル先で激しく吠えつづけているのである。

 この子犬がビン子の危機を知らせに来たのであれば、もう、事は済んでいる。

 あとは、ビン子を安全なところで寝かしておけばいいだけなのだ。

 だが、しかし、その様子はまるで「本当の危機はそれじゃない!」と言わんばかりなのだ。

「やはり……タカトの奴に何かあったんじゃろか……」

 一抹の不安を感じた権蔵はビン子を抱きかかえると、再びに犬の後を追って森の中を歩き始めた。


 で、子犬の後を追って森の奥へと進んでいると……

 前の茂みの先から、タカトの叫び声が聞こえてきたのだ。

「じいちゃぁぁぁぁぁぁあん! 助けてくれよ!」

 声の質からして、死にかけではない様子。

 ――なんじゃ、元気じゃないか

 と、少し安心した様子の権蔵は緑の茂みをかき分けた。

「呼んだか?」


 と、事の顛末をはなす権蔵。

「というわけなんじゃwwww」

「なんやねん! ビン子の奴! 腹を減らせて寝とったんかい!」

 話を聞いたタカトはおかんむり!

 だって、それは仕方ない!

 自分が必死にダンクロールと対峙していたにもかかわらず、ビン子の奴は腹が減って森で寝ていたのだ。

 普通、それを聞いて「ビン子ちゃん、大変だったね」とはならない。

 当然、

「こら! ビン子! お前!ふざけてんのか!」

 と、振り返りながら怒鳴り声をあげるのだ。


 だが、ビン子は我かんせず。

 いまだに怒りマックスのマシンガントークを繰り広げている!

 のかと思ったのだが……

「きゃ♡ くすぐったいよ♡」

 と、抱きかかえた子犬とじゃれ合っているのだwwww

 子犬は子犬でビン子の顔を嬉しそうに舐めている。

 もう……先ほどまでの怒りはどこに行ったのか?

 それを見たタカトは、

 ――くそ! なんか腹立つわ!

 怒りが沸いた! というより、なんというか、ジェラシーというか、妬みというかなんかよく分からない感情にとらわれてしまったのだ。

 というのも、和気あいあいとする、その二人の空間にタカトの入り込む余地がなかったのである。


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