チンチンコロコロ〜〜〜〜〜! ちんころろ〜〜〜〜〜!
一方、タカトはそんなことが頭上のはるか上で起こっていたなどと……つゆ知らず……
横たわるダンクロールの周りで意味の分からない踊りを舞っていた。
「チンチンコロコロ〜〜〜〜〜! ちんころろ〜〜〜〜〜!」
ステップを踏む右ひざを高く上げ腰を反り、右手は右手で口に当てがいビブラート!
それはかつて川口浩探検隊がアマゾンの奥地で見たという幻の舞!
<ジャングル奥地3000キロ!謎の原始超人『タダノ・オタク』の舞は実在した!>
森深くの秘境に住まう部族の中には獲物をしとめると神に勝利の報告をさげるものがいたと……TVで言っていたような気がしないでもない……
って、やらせかよwww
いやいやwww確かにタカト自身がダンクロールを倒したわけではないかもしれない……だが、それでも今はかりそめの勝利の余韻に浸らせてあげようではないかwwwだって、喧嘩に勝てない彼の人生……そんな人生において初めて掴んだ勝利なのだから!
肩で息をするタカト君。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
疲れ切った様子でダンクロールの体に腰を下ろしていた。
というか……もしかして……あの勝利の舞を踊っただけで疲れたとかwwww
ありうるwwwwタカトならありうる!
まぁ、彼の性分はリア充のような運動系などではない。どちらかというと陰キャの技術系、いわゆるタダの道具オタクなのであるwww
だが、そんなタダのオタクがひょんなことで魔物であるダンクロールを倒したのだ。
当然、
「実は、俺って結構強い方なんじゃないのか……はぁ……はぁ……」
などと、勘違いをしても仕方ないwwww
しかも、このダンクロールは中型種の中でも結構大物ときている。
おそらく、魔装騎兵が3人がかりでやっと仕留められるぐらい。
そんなものだから……
「もう、俺……万命拳なんか修行しなくてもいいんじゃね……はぁ……はぁ……」
妙な勘違いも生じてしまう。
だが、この力が本当に自分の力なら……
タカトは握った拳をじっと見つめるのだ。
―――この力があれば……
そう、この力があれば父の仇だって討てるかもしれない。
まぶたの裏に思い起こされる獅子の顔、そして、冷たく光る緑の双眸……
あの目を前にして剣を構える勇気があるか?と問われたら迷ってしまう……いや、絶対に無理だろう。
だって……
―――アイツは魔人……
魔人は魔物から進化した生き物。そのため、魔物の力を有しながら人なみの知能を有しているのだ。
そんな相手にラッキーパンチが通用するとは思えない。
というかwwwタカトはラッキーパンチを自分の力と勘違いしているのかwww
いや、タカトだって馬鹿じゃない……
ラッキーパンチだけでダンクロールの巨体を沈められるとは思っていない。
あの時、気を失った時に感じた赤黒い恐怖……それが今回の一件と何がしら影響しているのだろう。
――ならば……あの赤黒い恐怖をコントロールすることができれば……
確かに、それを自在に操ることができれば獅子の顔の魔人に一矢報いることも可能なのかもしれない。
――しかし……どうやって……
今でも、あの時の感覚を思い出すだけで膝が震える。
全身に走る悪寒……毛穴という毛穴が鳥肌を立てていく。
はぁ……はぁ……はぁ……
早くなった鼓動が呼吸を浅くすると、体の芯が一気に凍るかのような恐怖がどんと覆いかぶさり、もう、立っているのも無理なぐらいなのだ……
それは……まるで……
『小僧……思いあがるなよ……』
と、何者かに……漆黒の深い闇の中からそういわれているような……
そんな力をコントロールする?
――無理だ……絶対に無理にきまっている……
そんな時、腰かけるダンクロールがビクッと動いた。
すると、タカトは、
「ギヤァァァァァァ!」
先ほどまであれほど考え込んでいたにもかかわらず、もう!それは脱兎の勢いで目の前の茂みに飛び込んだのである!
息を潜ませ、体を伏せる。
茂みの間からかろうじて見える広場の様子。
身震いしながら、そこに横たわっているダンクロールの動きを観察した。
静寂なる空気。
微動だにしない風景。
静かな時間だけが流れていく。
そんな静寂に誘われたのか、木々の間から鳥のさえずりが近づいてきた。
「チンチンコロコロ〜〜〜〜〜ちんころろ〜〜〜〜〜」
って、これ……鳥の鳴き声だったのかよwww
そう、この鳥の声、ビン子が森の中に入った際に聞いたというチンコロ鳥の鳴き声だったのだ。
ちなみに、チンコロとは決して卑猥な言葉ではない!
新潟県十日町市で古くから伝わる米粉から作られた縁起物の名前なのである。
グーグル先生によると『主に節季市(チンコロ市)で販売され、子犬や干支の動物などをモチーフにしたカラフルな細工物で、縁起の良いものとして飾られます。』とのことなのだ。
ちなみにこのチンコロ鳥、警戒心が人一倍強い。
そのため、なかなか姿が見られないといわれているのだが……
今……そんなチンコロ鳥がダンクロールの体の上で鳴いているのだ。
もしかしたら、先ほどのタカトの鳴き声に誘われたのだろうか?
ということは、先ほどの舞は求愛の舞だったとか?
いや、今はそんなことはどうでもいい!
ダンクロールが生きているかどうかが問題なのだ!
だが、警戒心の強いチンコロ鳥がダンクロールの上で鳴いているということは……
タカトは意を決して茂みの中から体を起こした。
瞬間! 慌てて飛び去るチンコロ鳥!
「チンチンツブスゾ〜〜〜〜〜コノヤろ〜〜〜〜〜」
「この豚! 死後硬直かよ……脅かしやがって」
茂みから恐る恐るでてきたタカトは、これみようがしにダンクロールのどてっぱらを蹴っ飛ばした。
まぁ、本来であれば金玉を蹴っ飛ばしたかった……
あの時、出来なかったからこそなおさらだ!
そうそれは、ダンクロールが生きているのかどうかを確かめるために行った反射反応。
男の急所!金玉を蹴っ飛ばせば簡単に反応が見られたのである。
だけど……怖かった……
タカトはダンクロールが生きているのではないかと思っていたのである。
だが!今は違う!
確実に死んでいるブタ!
だからこそ!この巨体は決して起き上がらない。
ま……まぁ……確かに、巨体がビクッとした時は正直ビビった。(しかも、また、ションベンが少し漏れてしまったし……byタカト)
だが所詮は、死体は死体www ただの地面に転がったマグロなのだwww
それが分かってしまえばタカトは強い!
タカトとは強いやつにはめっぽう弱いが、自分よりも弱いやつにはめっぽう強いのだ!
その相手がただの屍となれば、もうやりたい放題!タカトの天下!
金玉だって蹴り放題ときている!
「ちんち○潰すぞ! コノ野郎ぉぉぉおおおお!」
と、やりたかった……
だが……
しかし……
タマがなかったのである……
え? なにに?
そんなの決まってるやん! この豚にだよ!
そう……この豚……実はメスだったのだwwww
だから、タカトが意気揚々と金玉を蹴り飛ばそうとしても金玉がないのである。
万策尽きたタカト君……
仕方ないから、ブヨブヨのお腹を蹴り飛ばすしか方法がなかったのである。
え? 背中とか太ももとかあるだろうって?
アホか! あんな硬いところ蹴っ飛ばしたら足が痛いだろうが!
そんな時、タカトの背後の茂みがガサッという音を立てた。
瞬間! タカトは脱兎の勢いでダンクロールの巨体の陰に隠れた。
あれほど強気でダンクロールの腹の肉を蹴っていたというのに、まるで瞬間移動でもするかの如く逃げたのだwwww
ダンクロールの巨体の影から恐る恐る顔をのぞかせる。
ガサガサ揺れ続ける茂み。
だが、緑の葉の重なりによって、その中を伺うことが容易にできない。
しかし! そこに何かがいることは間違いないようだ!
――ひぃぃぃいぃ! 一難去ってまた一難! どんだけついてないんだよ俺!
もう、タカトは生きた心地がしない。
――こんな時にビン子はどこに行ったんだよ! マジで!
まぁ、ビン子ちゃんがいたとしても、この状況がどうにかなるとは思えない。
――馬鹿か! ビン子がいれば、奴をおとりにして逃げることができるだろうが!
って、今の状況をみればwwwwおとりにされたのはタカトの方なのではと思ってしまうwwww
だが、そういえば……ビン子ちゃんはどうなったのだろう?
などと、タカトが思っていると……
茂みの中から何かがひょっこりと小さな何かが飛び出した。
――うん?
それを集中して見つめるタカト。
だが、その物体は小さくてよく見えない。
ならば!
――スキル!視力100倍!
と、左右のこめかみをギュッと押し込んだ。
って……それ……スキルやないやんwwwwというか、タカトにそんなスキルはございませんwww
何を隠そう! こめかみをギュッと押すと目の奥や眼球に向かう血管が刺激され、疲れ目やドライアイの改善に繋がると言われているのだ。
すなわち! こめかみを押すとよく目が見えるようになる! これ常識!
すっかりと疲れ目が取れたタカト視界はよりクリアになった!
どうやら、その小さな物体は犬の足先のようである。
――そういえば……犬の親子が襲われていたよな……
目の前のダンクロールに集中しすぎて、すっかりその存在を忘れていた。
タカトは茂みに近づくと、幾重にも重なる緑をかき分けた。
すると、中からは怪我を負った母犬がうずくまっているではないか。
そんな犬を茂みから抱きかかえ、そっと広場に横たわらせる。
だが、全身を見渡したタカトは声を詰まらせた。
「こいつ……結構深くケガをしているな……」
かつて貧民街で見た母犬は後ろ足を引きずっていた……
おそらく何かの拍子に怪我でもしたのだろう……だが、そんな状態であるにもかかわらずダンクロールと対峙したのだ。
我が子を守らんとする母の本能。
そんな姿が、なぜかタカトの母ナヅナと重なった。
――母さん……
あの時……幼きタカトの命を救わんとした母も、背後から迫る魔人の存在に恐怖していたことだろう。
だが、自分が逃げるよりもタカトの命を救う事を優先したのだ……
結果……落ち行く幼きタカトの目に映ったのは、魔人の手に首をつかまれつるし上げられた母の姿……
――もう……母さんは……
あの光景……母の命はすでに亡くなっているのかもしれない……
だが、目の前の母犬はまだ生きている。
横たわる口から力なく垂れ落ちる舌とともにハァ……ハァ……と小さな息をこぼしているのだ。
しかし、体のいたるところ刻まれた深い傷……それが、確実に犬の命を奪いつづけていた。
――このままでは……ヤバいよな……
すぐさま止血をしないといけないことはタカトにも分かった。
――こういう時にエメラルダさまが作ってくれた傷薬でもあれば……
第六の騎士エメラルダは薬学にたけていた。
そのため、彼女が作る傷薬はたちどころに傷をふさぐ。
おそらく、これぐらいの傷であれば数時間もあればふさがることだろう。
タカトはすぐさまポケットの中に傷薬が入っていないか確かめた。
だが……入っているのは、お菓子のかけらや融合加工の工具ばかり……とても、治療に使えそうなものなどありもしなかった。
ポケットがダメならカバンがあるじゃない!
そう! ビン子がいつも持ち歩いているカバンだ!
その中にはきっと何か使えるものがあるかもしれないのだ!
――最悪、俺が作った道具の中に使えるものがあるかもしれない!
と、タカトは辺りを見回してみたのだが……当然、カバンはなかった……
だって、それもそのはず……先ほど森の中でビン子ちゃんはカバンの中から『恋バナナの耳』を取り出していたのだから、ココにあるわけはないのだwww
――あんにゃろ! カバン持っていきやがったのかよ!
タカトは焦った。
こうしている間にも、母犬の呼吸は浅くなっていく。
――どうする! どうする! 俺! どうする!
「そうだ! 薬草!」
この辺りの森にはレディホールカーネーションなどの魔草花が生えていた。
ならば!薬草の一つや二つもあるかもしれないのだ!
あたりに生えている草をにらみつけては手に取るるタカト。
だが……タカト君……魔草花の種類は分かっても……
普通の植物はとんと分からないのだwwww
――だって……仕方ないじゃん! 普通の植物なんて融合加工に使わないんだから!
そう……何を隠そう、タカト君……
融合加工の素材についてはめちゃくちゃ詳しいのだが!
普通の草についてはとんと知識がないのである……
だから、今、手に取っている草の効能なんて全くわからない……
それどころか名前すら分からなかったのだ……
「つかえねぇ! 俺!」
そんな時! 再びタカトの背後の茂みが音を立てたのだ!
がさっ!
瞬間! タカトは母犬の影に隠れる!
って、横になっている犬だ……どんなにタカトが地面に伏したとしてもその体は当然にはみ出ている。
だが、タカトは何かの影に隠れずにはいられなかったのだ。
だって……一人ぼっちで、めちゃくちゃ心細かったんだもん……
犬の背からはみ出たタカト顔面。
そんな顔面に一つの物体が飛んできた。
「ワン!」
それは、母犬と一緒にいたはずの子犬だった。
だが、次の瞬間!
がぶり!
タカトの鼻っ面に子犬の小さな口がかみついた!
「いてぇぇぇ!」
飛び上がったタカトは必死に子犬を引きはがそうとするが、「うぅぅぅ!」とうなり声をあげる子犬は離れない。
どうやら、この子犬、タカトが母犬を襲ているとでも思ったのだろう。
そこで、母を守るために自分よりも大きなタカトに噛みついたのだ。
そういわれれば、この子犬、ダンクロールにも臆することなく牙をむいていた。
さすが! タカトと違って勇気がありますな!




