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初めてのあーん


まさか‥‥電源を切っているとは‥‥


相原は待ち合わせ場所に現れないわ、電源は切っているわで、紳士な俺は少し、いや、ほんの少しだけ動揺してしまった。



ぬぉ〜っ、、、ぐぬぬぬぬっ、これは何かの間違いだ。すっぽかされたなんてそんなことがあるはずがない。あってはならない。



「あれ?伊織?何してるんだ?」

トモヤが通りかかって声をかけてくれた。



「いや、、、ちょっと、、なっ、、」

俺は言葉を濁したが、このタイミングで知り合いになんて会いたくなかったよ。



「なにか、、あったんだな。伊織、話してみろ。俺が何とかしてやる」

しかし、トモヤは不敵な笑みを浮かべて主人公みたいなセリフをサラッとはいた。



『くぅーっ、カッコいい。抱いてぇ。』


‥とまでは思わないけど、イケメンだし、こういうセリフを恥ずかしがらずに言えるあたりがモテる要因なのかもしれないな。



とにかく、トモヤに全て話すことにした。

すると、トモヤは俯いて10秒ほど考えた後にこう答えた。


「その娘の家に行った方がいいんじゃない?何かあったのかもしれないし。からかわれてたならからかわれてたで、いいじゃん。」

そこにイヤミな雰囲気がなく、トモヤの性格の良さが滲み出ていた。






「あの、私、芽愛さんと同じ学校の伊織と申します。相原さんはご在宅でしょうか?」

結局、トモヤに押し切られる形で相原の家に来た俺はインターフォン越しに話しかけていた。



「あっ、、、、、」

と言って通信が切れた。

たぶん、相原の声じゃない。


まさか不審者と思われたのか?

俺は慌てて身なりを整えた。



しかしそうでは無かったらしく、ドアが開き、女子大生位の綺麗なお姉さんが出てきた。



「あらあら、伊織さんじゃない。一度会ってみたかったのよね。中学の時なんて芽愛ちゃん、伊織さんの話題ばっかりだったんだから。」


「そ、そうですか。ところでお姉さん、芽愛さんはいらっしゃいますか?」


「芽愛ちゃんは体調崩して寝込んでるわ。

二階の奥の部屋に先に行ってて。後でオヤツをもってくるから、これを持っていってね。」


そう言われるがままに二階に上がり、奥の扉を開ける。



なんだかいい匂いがする。


白を基調とした部屋に薄いピンクのカーテン。

奥のベッドに誰かが寝ている。



近づいていくと、予想通り相原だった。

相原は真っ赤な顔をしており、目は開いているのに焦点が合っていない印象をうける。


俺はこのまま居続けるべきじゃないだろうな。


そう考えてその場を去ろうとした時、


「あっ、プリン持ってきてくれたの?」

ベッドの中から声が掛かった。


「そうだな。食べる?」

反射的にそう言って彼女に手渡そうとするが、



「うん、あーん。」

と口を大きく開いたのだ。



あれ?

相原?

そんなキャラだっけ?



しょうがなく、プリンをスプーンですくって彼女の口に運ぶ。


これって所謂、あーん、というやつだよな?

生まれて初めてするけど緊張でスプーンがふるえてしまいそうになる。



「はむっ、、、、おいしい。ありがとう、ママ?あれ?ママじゃない?」

少し目の焦点が合った相原は俺を見つめた。


「よぅっ、元気か?」

俺は片手をあげる。

なんだかひじょーに気まずい。



どれくらい気まずいかというと、授業中に20代の女教師を【お母さん】と呼び間違えてしまうくらい気まずい。



「あぁっ、伊織せんぱいっ。せんぱいっ、来てくれてありがとう、大好き。プリン‥もっと‥食べたいなぁ。だめっ?」


???

いつもと態度が違いすぎる、、、


ど、ドッキリじゃないよな?


かなり警戒してしまったが俺は言われるがままに、またプリンを相原の口に運んだ。



「あっ、おいしいか?」


「うんっ。これってユメ、、だよね?」


「おいっ、俺が来たからって気をつかわず、ゆっくり眠った方がいいぞ。」

なんだか意識が混濁しているみたいだ。

相当熱が高いのかもしれない。


「じゃあ、、、、手、、、、握っててもらってていいですか?」

そう言われるまま彼女の手を握る。


「あったか〜い。なんだか安心する」

そう言って最高の笑顔を浮かべた後、彼女は完全に眠ってしまった。


繋いだ手をそのまま太ももあたりに持ってきているようで、なんだか柔らかい感触が俺を惑わせる。


「‥‥いや、これ、、手を放してくれないと動けないんだけど」

なんとか言い訳して、手を離してもらおうとしたが、ちょっとダメっぽい。


相原の様子をマジマジと見てみる。


汗で綺麗な額に髪の毛がはりついている。

そして、『毛穴はどこだ?捜索願いでもだすか?』なんて言いたくなる程綺麗な肌は少し汗ばんでいて妙に色気が香った。



本当にまずいかもしれない。

とくに俺の下半身が元気になってしまい、手を掴まれているのと別の理由で動けなくなりそうだ。



すぅ〜っ、、はぁ〜っ、、


俺が思いっきり深呼吸して気を落ち着けたところで、ガチャっと部屋のドアが開いた。


ノックぐらいしろよ、それがマナーだろ?

なんて悪態をつきそうになって我に返る。



そういえば、俺もノックしなかった‥‥



「伊織君、お菓子持ってきたよ‥‥さっきから様子を見てたけどなんでこんなに可愛い娘に手をださないかな?」


み、み、見てたのか?

なんて、お姉さんだ。



「お姉さん、妹が病気中なのにそんな面白半分で、、、ダメじゃないですか?」


「あははっ、見てたのは本当だけど伊織君が芽愛ちゃんに変なことしないってわかってたからね。まぁ、世界一優しいんでしょ?」


「それ?なんなんですか?もぅ、後はお姉さんに任せて帰ります。芽愛さんを宜しくお願いします。」


そう言って俺は相原家を後にした。

もちろん、前屈みで。




相原家、芽愛の部屋にて


「ンンッ、あっ、ママ、看病しててくれたんだ?」

私は目が覚めた。


靄がかかったような頭の中はスッキリとしていてなんだか気分がいい。



「あっ、芽愛、、、元気になったんだ?よかったぁ。やっぱり好きな人のお見舞いは薬よりきいちゃった?」

ママは半笑いで私に問いかける。

これって、絶対面白がっている顔。



でも、、、、


「好きな人のお見舞いって何のこと?」


「あれ?覚えてないの?プリンを食べさせて貰って手を握ってもらってたじゃない?覚えてないの?」

そう言われて夢だと思ってた記憶が、ありありと色付いて私の脳内を駆け巡る。



「うそ、、、だって、、、、」

私の顔は今頃羞恥で熱くなった。

ユメじゃなかったの?


明日から先輩とどんな顔して会えばいいんだろう?


私の頭はまた熱を持ちだした。

うーん、ホントにクラクラしてきた。


「あ〜っ、明日も知恵熱でお休みね。プリン買い足しに行かなきゃ。」

そう言ってママはまたスーパーへ出かけるのでした。


相原芽愛にお姉さんは居ません。

一応、勘違いされるかたもあるかもしれませんので

言っておきます。

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