アカリに共有
双刀の隠れ里からファーストタウンに戻ってきた私は、日傘を差しながら、アカリエに向かう。いつも通り裏に通された。フリーパスは、かなり楽だ。
「ハクちゃん、いらっしゃい」
「おじゃまします。忙しい?」
「ううん。大丈夫だよ」
アカリが用意してくれる椅子に座る。
「今日は、もう良いの?」
「うん。ちょっと色々と濃かったから」
「へぇ~、熱帯に行ってたんだっけ?」
アカリには、どこに行くか学校で共有していたので、私が熱帯に行っていた事も知っている。
「あそこは、厄介なモンスターが多いでしょ? 特にスローイングチンパンジー」
「うん。もの凄く苛々したから、【怒り耐性】とか色々な耐性スキルを取ったよ」
「ああ、まぁ、それが手っ取り早いかもね。後は、視界に入れないようにして倒すとかね。私は、ガン無視して、全力で抜けて行ったけど」
「そういう方法もあるんだ」
「ハクちゃんは、基本的に倒して進む派だもんね」
「まぁね。アカリは、耐性スキル取らないの?」
フレ姉達には訊いたけど、アカリには訊いていない事を思い出したので訊いてみた。
「西の方の攻略で、混乱攻撃をしてくるのがいて、本当にヤバかったから取ったよ」
「そうなんだ。【混乱耐性】は取ってなかったなぁ。そんなすぐに必要になるんだ」
「フレイさんやアクアさんは使ってなかったから、必ずしも必要ってわけじゃないよ。私が知る限りでは、耐性を取っている人って、あまりいなかったし」
「へぇ~」
実際に食らうか分からないから、耐性は取って無駄に消費したくないって考え方が多いみたい。でも、西とか北のエリアに来ると、そうも言っていられなくなる感じらしい。後で、【混乱耐性】も取っておこうかな。
「あっ、それでさ。これって、有用なアイテム?」
私は、アカリに禊ぎの水を見せる。
「何これ? 禊ぎの水……? 聞いた事ないかな……」
アカリは、禊ぎの水を色々な角度から見ている。見え方が変わるとかないから、あまり意味ないように思えるけど、生産職からすると、別の見方があるのかもしれない。
「それに触ると、私はダメージ受けるんだけど、アカリはどう?」
私に言われて、アカリは禊ぎの水に指を突っ込む。
「あっ、街中だから、ダメージあっても入らないか」
「何かピリピリするとかない?」
「全然。寧ろ何か気持ちいい? 身体に染み渡る感じがするよ」
「ああ、エルフだからか」
「ん? どういうこと?」
この感じだと、やっぱりあの隠れ里には、誰も辿り着いていないみたい。そもそも【吸血鬼】を持っていないと、あの会話は発生しないだろうから、隠れ里に行っても、エルフ云々の話はなかったかもしれない。
「私って、【吸血鬼】を持っているから、闇に属する者なんだって。だから、禊ぎの水に触ると継続ダメージを受けちゃうんだ。でも、エルフの血を飲んだから、多少耐性が付いているみたいなんだ」
「耐性? どういうこと?」
「エルフは清らかな種族だから、本来はダメージが入るものみたい。でも、私が吸った時は【吸血】の状態だったから、ダメージは受けなかった的な感じらしいよ」
「ふ~ん……誰から訊いたの?」
「実は、川で流されて溺れて、流れ着いた先に洞窟があって進んで行ったら、地面が崩れて禊ぎの水が溜まっている場所に落ちたんだ。その後に、ちょっと歩いたら双刀の隠れ里ってところに着いてね。そこの師範って人から聞いた事だよ」
アカリは、少し黙る。私が言った事を、しっかりと理解しようとしているみたい。
「何か重要な場所?」
「クエストが受けられた。内容的には、【双剣】っていうスキルを会得出来るって感じ」
「【双剣】……聞いたこと無いね。そのクエストも聞いたこと無い。誰も行った事のない隠しエリアかも。それって地図出来てる?」
ワンオンの地図は、自分で歩いた部分が解放されていく仕組みになっている。
だから私が歩いた場所なら、ちゃんとマッピングが出来ているはず。
「えっと……ここかな?」
アカリの横に椅子を移動してから、ぴったりとくっついて、地図を一緒に見る。
「多分、ここから川に落ちて、泳げないで流され続けて……この洞窟ら辺に入った感じだと思う」
「ハクちゃんって泳げなかったっけ?」
「ううん。普通には泳げるよ。実際、禊ぎの水が溜まってた場所なら泳げたし」
「あの川は流れが速いけど、カナヅチじゃなければ、全く泳げないわけじゃなかったはずだよ? 【泳ぎ】のスキルがあれば、逆らって泳ぐ事も可能とかだったはず。ものすごく遅いけど」
「え? 私、藻掻くので精一杯だったけど……」
「吸血鬼って、流れる水が駄目みたいなのなかったっけ?」
「そんなのあるの?」
吸血鬼に詳しい訳じゃないから、そんな弱点もあったとは知らなかった。
「民間信仰だったと思うから、そこまで確かな事じゃないと思うけどね。即死とかすぐに沈むとかじゃなかったら、ある程度は泳げるようになると思うかな」
「なるほどね。【泳ぎ】か。取ってみようかな」
「今は要らないからやめておいた方が良いと思う。う~ん……ハクちゃんの水着どうしよう?」
「別に泳がなければ良い話だから、作ってくれて良いよ」
「やった」
アカリは嬉しそうに肩に頭を乗っけてくる。
「それで、アカリに頼みがあるんだけど」
「何?」
「血が吸いたいなぁって」
「えっ!? ああ、エルフの血の検証?」
アカリは、一瞬だけ驚いたけど、すぐに私がしたい事を察してくれた。詳しい説明をしないでも理解してくれるから、色々と楽で助かる。
「うん。アク姉に頼むと、色々な意味でうるさいから」
「なるほどね。良いよ。身体洗ってくる?」
「どっちでも良いよ。洗ってくれた方が美味しいけど。てか、シャワーとかあるの?」
「付けたんだ。一緒に入る?」
「シャワールームって、一人用じゃないの? 二人で入って平気なの?」
「ちょっと狭いけど平気だよ。それに、中に入ったら湯浴み着に強制的に着替えさせられるから、裸になることもないよ」
「まぁ、アカリが平気なら良いけど」
私がそう言うと、アカリは私の手を取って進み始める。工房となっていた部屋に、一つ新しい扉が増えている。そこの中に入ると、仕切りがあって、その向こうがシャワールームになっていた。一人で使う用なのは本当みたいで、結構狭い。
アカリが、その中に押し込んでくる。シャワールームに一歩踏み入れたのと同時に、血姫の装具が消えて、強制的に湯浴み着へと着替えさせられた。一緒に入って来たアカリも同じだ。
「本当に着替えた」
「言ったでしょ? 濡れると肌に張り付くけど、透けるとかはないから」
「まぁ、透けたら意味ないもんね」
アカリがシャワーのメニューを操作すると、上からお湯が降り注いでくる。天井全体にノズルがあるから、シャワールーム全体に満遍なく降り注いでいる。
ゲームの中だけど、シャワーは、意外と気持ちいい。
「ところで、シャワーも流水みたいなものだと思うんだけど、身体に異常はある?」
「あっ……いや、特には無いかも。街中だから?」
アカリに言われて、例の吸血鬼の弱点を思い出した。でも、シャワーに浴びて力が抜けるとかは一切ない。普通に気持ちいいって感じだけだ。
「禊ぎの水のピリピリ感はあったんでしょ? だったら、流水による何かもあって良いと思うけど」
「じゃあ、流水の量に関係してくるとかかな? 川は結構な水量だし」
「確かに、それはあり得るかも」
「じゃあ、浅い川から検証していこうかな。どこからが判定になるのか知りたいし。ところで、これって、どのくらい浴びれば良いの?」
「さぁ? ハクちゃんが気にならなくなるまでじゃない?」
「まぁ、確かに」
シャワーを浴びているのは、私が血を吸いやすくするためだ。だから、私が納得するかどうかというのは正しい。
取り敢えず、匂いの問題なので、アカリの首筋に顔を近づけて匂いを嗅ぐ。
「分からん」
「さすがに、ここで臭ったら、私が嫌だよ」
「まぁ、それもそうか。これって、そのまま出て大丈夫?」
「うん。髪は湿ったままだけど、服とかが濡れる事はないよ」
「それじゃあ、平原に移動しよ。もう十分だと思うし」
「オッケー」
身体を流し終えた私達は、アカリエを出た。




