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flappers   作者: さわきゆい
外伝 ②
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花火大会 前編

本編に入れてもよかったのですが、凪の一人称視点で書きたかったので、外伝扱いです。

他愛ないエピソードです。

 あたし……なんで、こんな人ごみの中、花火を見に行こうとしてるんだろうな……

 マンションの廊下側からだって、小さーくだけど見えるし。去年も一昨年もそれで満足したんだけど。

 ルームメイトの未生ちゃんにも、

「ナッピ、今年は行くんだねー、いつも混むから会場は行かないって言ってたのに」

なんて、言われてしまった。


 お盆も過ぎ、夏休みの後半に行われる絵州市の花火大会は、近県からも人が集まるほど有名だ。全国ニュースでも取り上げられたりするくらい。


 会場の河川敷公園へ向かう道は、噂には聞いていたけれど……大量の人!ひと!ヒト!で溢れている。どっから出てきた?って言いたいくらい。

 行きたい方向に進めない。曲がれない。


 6車線ある大通りは、車両通行止めになっている。この広い通りいっぱいに広がって、人が同じ方向へ歩いていく世界は、ちょっとコワイ。そして、熱気がすごい。


 夏の暑さは嫌いじゃないんだけど、湿気は苦手だ。人が多いと、暑さに湿度が加わる。

 ―真面目に……具合悪くなりそう。


 ふと、あたしの脳裏に小狡い考えが浮かぶ。

(ちょっと具合い悪いから、参加出来ない。でいいんじゃないか?ていうか、待ち合わせ場所までもたどり着ける自信ないし)


 あたしの手はバッグの中のスマホを探っていた。連絡先、コミさんも桜呼ちゃんも分かる。この場合、やはり桜呼ちゃんに先に連絡した方がいいかな……


 こんなやる気のないまま、花火大会会場へ向かうハメに陥ったのは、相変わらず、はっきり断れない、あたしの性格のせい。

 それは、夏休みにあった、プチクラス会の時のこと。



     **********


「そういえば、誰か花火大会行きたい人いない?桟敷席で見れるんだけど」

 毎年、売り出されたその日に完売するという、桟敷席で花火が見られるという、かなりレアな話題を、桜呼ちゃんは気だるげにワイングラスを傾けながら持ち出した。


「えっ、うっそ!えー!行く行く!」

 当然のように、真っ先に手を挙げたのはコミさん。桜呼ちゃんとは犬猿の仲、とまでは言わないけど、何かと小競り合う仲なのに、こういう時は遠慮しない。まあ、それもコミさんらしい。


「私も!その日ならまだ実家にいるから行きたい!てか、大丈夫なの?桜呼のうちで買ったんじゃないの?」

 続いて手をあげつつ、冷静にそう聞いたのはミミちゃん。コミさんの親友。

 本名は『美実』と書いて『みのり』なのだけど、小学校の頃から、クラスの誰もが「ミミー!」と呼んでいる。

 当時はおかっぱ頭で、いつもニコニコしてる、優しいお姉さんポジション(同級生だけど)の女の子だった。

 今はおかっぱ、というより、かなり刈り上げが強めに入ったボブヘア。しかも青みがかったグリーン(なんかちゃんとした色の名前があるのかもしれないけど)。オフショルダーの結構露出度のある服装も相まって、ちょっと怖そうな姐さん―になってしまった。

 話をしてみれば昔と同じ、優しくて明るくて、時々暴走しかけるコミさんにブレーキをかけてくれる頼れる存在―に変わりはなかったけれど。


 ミミちゃん……あたしの知らない8年の間に何かあったの?と聞くことも出来ず、あたしは、ただいろいろと想像を膨らませていた。


「両親も兄も仕事で都合つかないの。いつもなら、お店のお得意先に声かけたりもするんだけどね。今年はみんな県外に旅行とか、もう他に席確保してたとかで、私に回ってきたのよ」

 桜呼ちゃんは、色っぽいため息を吐いて、グラスを差し出す。

 向かい側にいた庄村くんが、顔をしかめながらも、黙ってそのグラスにワインを注ぎたした。


「うちの店、毎年協賛金出してるでしょ?それで取ってもらってる席だから、空っぽにしておくわけにいかないのよ」

「付き合いってやつだな。音十弥は?こっちに戻ってきて久々の花火大会だろ」

 そう言いながら、本郷まで一緒にグラスを差し出したのを機に、周りも続く。


 ソムリエよろしく、ポーズをきめながらワインを注いでいた庄村くんだけど、一本注ぎきると

「お前ら!あとは手酌!」

 と、仕事を放棄した。


「どうすっかなー、ま、せっかくだし、見にいくか」

 ちょっと首を傾げて考えていた西崎が、本郷に頷いてみせる。

「え?あ、オレも行くのか」

「そのつもりで言ったんじゃないのか」

「仕方ないな〜ついていってやるよ」

 大の男2人のじゃれあい。というか、西崎がこんな絡み方するの本郷だけだ。ホント、仲良いな、この2人。


 あたしはその会話の輪の中にいたわけじゃない。

 カウンターの中から、面白そうなやりとりをしているグループを観察していたのだ。

 会話が全て聞こえているのは、ウィンガーならでは。 

 だからコミさんが、

「ねえ、ナッピも暇なんだよね、花火の日」

 とあたしを振り返って声を上げた時、

「はい?」

 ちょっとうわずった声で返してしまった。

 まさか、こっちに話が振られてくるとは。


(え、なんで、あたしの予定知ってんの?)

 思ってから、先程自分でその情報提供をしてしまったことに気づく。

 この店の階下、あたしが週末に、バイトをしている居酒屋『鮮昧』は、厨房のリフォーム工事で、ちょうどそのあたり1週間、休業することになっていた。その話を、何気なくコミさんにしていたのだ。しかも、

「予定もないし、何しようかな」

 とまで呟いた……気がする。


「えっ、でも、席の数とか……」

 上記の経緯から「用事があって」という言い訳をするわけにいかず、あたしはモゾモゾとそんなことを言った。

「大丈夫」

 桜呼ちゃんが、あっさりと指でOKサインを作ってみせる。

「水沢さんが来てくれれば、6人だから、ちょうど」


     **********

 

 結局、こんな流れに流されて、あたしは花火大会に向かっているのだった。



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