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flappers   作者: さわきゆい
第3章 Lost Children
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それぞれの思惑 ②

 絵州駅の近くを歩く2人連れは、ちょっと変わった組み合わせだった。

 周囲の雑踏より頭一つ飛び出た西崎、そして彼と並ぶと小学生の様に見えてしまう水沢洸である。


 洸から西崎に連絡が来たのは2週間ほど前になる。

 夏休みのクラス会の折に連絡先は交換していたが、まさか洸から「相談したいことがある」と、言われるとは思っていなかった。


 仕事で日本を離れていた時だから、本郷に頼もうかとも思ったのだが、なんとなく、直接話を聞いた方がいい気がした。

「大丈夫ですよ。そんなに急いでるわけじゃないんで」

 飄々とした口調からは、そう深刻な内容ではないとは思われたが、凪には知られずに会いたいという。


 絵州駅の駅ビル入り口で待ち合わせ、とりあえずブラブラ歩きながら、

「で?相談したいことって?メシ食いながらとかの方がいいか?」

 聞いてみると、洸はニヤッと笑った。

「背中のちょっと物騒なものに関することで」


 西崎は口をつぐんで足を止めた。

 洸はそのままニコニコしている。凪とよく似ているが、凪のこういう笑い方は見たことがないな、と思った。

 この姉弟、顔立ちが似ているだけにこういう表情一つとっても陰と陽というか、表と裏というか、対比が際立つ。


(気兼ねなく、話せるのはジーズだけど、この時間じゃ開いてないしな)

 と、なると場所は決まってくる。

「オレのうちでいいか?地下鉄で移動しなきゃならないが」

「え、いいんスか?」

 洸はクリッとした目を輝かせ、すぐに頷いた。




「おお〜、広い!」

 玄関を入るなり、洸はグルグルと首を回して周りを見回した。


「おお〜」

 リビングでも、

「おお〜、メチャきれい!」

 カウンター越しにキッチンを覗き込みながらも感嘆の声をあげている。


「そうか?」

 西崎としては最低限の掃除しかしていないつもりだが、姉の部屋よりはきれいに片付けている自信はあった。

「なんか、食べるか?あり合わせのものしかないけど」

「え……」

 一応、遠慮のそぶりを見せた洸だが、その目は「是非」と言っている。

 昼食の時間はだいぶ過ぎているし、西崎自身も空腹だった。


「姉ちゃん、ここに来たことあるんですか?」

 手際よくハム、玉ねぎ、レタス、と刻んでいく西崎の手元をキッチンのカウンター越しに覗き込みながら洸が聞いた。


「水沢?ないよ」

「へぇ、じゃあ自慢しよ」

「何をだよ」

 この弟、何を考えてるか分からないな、と苦笑しつつ、それでも悪気がないことは分かる。


「夏休みに、うちに変な小学生が来たこと、姉ちゃんから聞きました?」

「ああ、熱心なファンの小学生だろ。コミ―小宮山っていう同級生が、水沢から聞いたって話してた」

「あ〜、やっぱり。それくらいしか、姉ちゃん、言ってないんだ」


 チャーハンを炒めながら、チラリと洸を見やる。

 洸の方は西崎の手つきをジッとみていた。


「相談したいことって、そいつのことなんです」

「なんだか問題抱えてそうなヤツだってな」

 暦美から聞いた話を思い出しつつ、なぜその少年についての相談相手が自分なんだろうと、西崎は洸をうかがってみる。

 家庭環境云々の問題なら学校や児童相談所が先だろうし、姉ではなく、その同級生を選んだのも解せないところだ。


 出来上がったチャーハンを皿に分け、カウンター越しに洸へ渡す。

 小さく頭を下げて、洸は受け取った。


「神代翔太っていうんですけど。今12歳、6年生です。で、そのうちウィンガーになります」

 テーブルに自分の皿を置こうとしていた西崎は動きを止めた。

「なにか予兆らしいものがあったのか?」

「いえ」


 ウィンガーは常人よりも運動能力、そして五感が優れている。

 驚異的な運動能力の発現が、翼がある時だけなのに対し、五感の向上は常態化する。そして、それは翼が発現する少し前から見られ始める。

 嗅覚や聴覚が鋭敏になってきたり、視力が急によくなったりすることは、ウィンガーとして発現する予兆であることがほとんどだ。


「じゃあ、なんで分かる?」

 向かい合って座った洸を、西崎は真っ直ぐに見すえた。

 引き締められた口元が、シャープな顎のラインを強調する。

 洸は怯まなかった。

「未来が見えるから。って言ったら、ふざけてると思うでしょ」


 洸の大きな瞳がキラキラしている。だが、からかっている眼差しではない。

 それはなにか訴えかけるような、熱っぽい光を帯びていた。


 西崎はしばらく洸を見つめていたが、

「説明してみろ」

 そう言うと、背筋を伸ばした。


 ニンマリ笑った洸が頷く。

「未来が見える、というより感じるって言った方が合ってるんですけどね。ウィンガーの能力だと思います。ただ、自分では全っ然、コントロール出来ないっす。急に、アイツ階段でこけるな〜とか、この人とこの人付き合うぞ〜とか、天気予報雨だけどメチャ晴れるぞ〜とか。しかも、大抵しょうもないことばっかで、大して役に立たねえっていう」

 西崎の左の口角が上がる。


「ま、たまには事故に遭うとか、ケガするとかの未来も見えたりするんですけどね。それで警告して回避できた時もあったり、ダメな時もあったり。オレが思うに、その時点で一番可能性のある未来が見えてるんだと思います」

「翼を出さなくても、見えるわけか」

「多分、ですけど、翼を出してれば、もっとはっきり見えるんじゃないかな。でも、大体は誰かといる時に、急に見えるから。そこで翼を出すわけにもいかなくて」

 洸はちょっと悔しそうに唇を結んだ。


「その能力、水沢には教えたのか?」

 洸は首を振った。

「今まで誰にも言ってません。最初はたまたまかなって思ったし。姉ちゃんは言えば、余計な心配しそうだし。あれで、オレには口うるさいし、過保護なんすよ」

 フッと西崎が笑う。

「―ていうか、オレの話、全面的に信じてくれるんですか?」

 そんな西崎に、洸は首を傾げた。


「そうだな。ウィンガーの能力としては、不思議じゃない」

 西崎の背中に光の粒子が集まる。

 目をパチパチさせている洸に、

「手、貸して」

 西崎は右手を差し出した。その背中には輝くような白い翼が現れている。室内の明るさが一段階上がったようだった。


「あ……オレも、翼出した方がいいっすか?」

 眩しそうに翼を眺めながら尋ねる洸に、西崎は首を振った。

「いや、そのままでいい。その小学生と会った時、どんな話した?」

「え、そう……だなぁ」

 躊躇いがちに差し出された右手に、西崎の浅黒い手が伸びる。長い指が、すっぽりと洸の手を包んだ。

 あっさりと、軽く掴まれただけだが、洸はふっと引き込まれるような感覚を味わった。


「音楽の話がメインかな。子供の割には結構、マニアックな話、してて」

 翔太の無邪気な笑顔が、はっきりと思い出される。

 パッと西崎は手を離した。


「お前、そいつの地元まで会いに行ったのか?」

 突然そう言われて、ギクリと洸は仰け反った。

「黄色いシャツに黄色いスニーカーの時が、初めて会った時か?その後、制服の時に会ってるだろ。白いポロシャツに、グレーの短パン」


 目と口を開いたきりになった洸に、西崎は左の口角を上げて、ニヤリと笑った。




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