それぞれの思惑 ①
「隠し事……」
西崎の言葉を否定はできなかった。
むしろ、凪自身感じていたモヤモヤしたものをハッキリ指摘された気がした。
「なんか……言いたくないことがあるんだとは思ったけど……」
だが、だからといって、安易に能力を使って全てを喋らせていいとは思えない。誰だって、人に知られたくない事情はある。
「あたし……あんまり簡単に使っていい能力だとは思わないんだよ……特に、知ってる人なら、尚更、使いたくない……」
少し声が震えたが、言うことが出来た。
西崎は不機嫌になるかと思ったが、
「そうか。だよな」
あっさりと引き下がる。
少し拍子抜けして、上目遣いに見上げると、西崎と目が合って、慌てて前を見た。
(怒ってなさそうだし、むしろ……)
その目は自分の意見を肯定してくれているように見えた。
そして、改めて昔も「ウィンガーとは関わらない」と言った自分を真っ先に認めてくれたのが西崎だったことを思い出す。
「あ……そうは言いつつ、親には使っちゃったりしてるんだけど……ね。同級生には使いたくないよ……」
思わず、言い訳が口をついて出た。
「へぇ、親?」
「あー、父親がちょっと、面倒くさくて、一人暮らしとか反対で……それで……」
「ふぅん、大変だな。うちの親なんか、放任だからなぁ」
「そうなの?」
反射的にそんな言葉が出て、見上げてしまったのは、西崎も本郷と同様、「いいとこのおぼっちゃま」のイメージが多少なりともあったからだ。
確か、小学校の時もピアノとかバイオリンとかテニスとか、多くの習い事をしていて―姉はドイツに留学していると聞いたこともある。
「ああ。お陰で会社作ったり、こっちに帰ってくる時も何にも言われなくて、よかったけどな」
(会社―そうだ、そんなこと言ってた。なんか、やっぱり世界が違う)
アメリカの学生時代に友人と起業。現在も共同経営者の立場だとか、投資の方でも利益を得ているとか、凪にしてみれば、同じ年齢とは思えない生活だ。
「すごいね」
思わずそう言ってから、何をすごいと言っているのか、自分でも分からないと思った。
「ん?まぁ、家族全員、好き勝手やってるだけだ」
西崎はサラッと答える。
この辺りの余裕を余裕とも思わせない態度は羨ましい限りだ。
「別に、探りを入れろとは言わないから、室田がジーズに来たら、様子だけ注意してみてくれるか。オレはやっぱり気になる」
別れ際の西崎の言葉に、凪は何も言わず、ただ頷いた。
自宅のソファに倒れ込むように身を投げ出すと、室田は深く息を吐いた。
もう、明け方近い。
花がいた時と、静かさは大して変わらないはずだが、自分の息遣いも身動きの音も、全てが室内に反響する気がした。
「どうして、こうなるかな……」
漏れ出た呟きに答えるものはない。
ぼんやりと室内が明るくなり始めた。
カーテンがきちんと閉まっていないことに気付き、室田はノロノロと立ち上がった。
とにかく、寝ておかないといけない。自分のベッドへ行った方が、部屋を暗くして眠れる。
突然、足元から上がった着信音に室田はビクリと固まった。
いつのまにか、ポケットから落ちていたスマホが鳴っている。
相手の名前を確認すると、急いで出た。
ビデオ通話の画面には、笑みを浮かべた女性が映っている。
「ハァイ!もう、寝てた?」
訛りのある日本語。室田は小さな画面に向かって首を振った。
「いや、大丈夫」
「こっちはこれからランチよ。花と話す?」
一瞬、考えてから、
「あ、いや、いいよ。元気なんでしょ?」
室田はソファに座り直した。
「あら。うん、元気よ」
あら、に含まれる小馬鹿にした響きは気にしない様にして、室田は息をついた。
「報告、でしょ?」
「んー、どうだった?」
明るい茶色の瞳がこちらを覗き込んでいる。
両手で頬杖をつく女性の後ろには窓があり、明るい空が見えた。
「言われた通りに話したよ。みんな、心配してくれてた」
「あら、そう。いい人たちね」
破顔する女性に合わせて、仕事中なら笑顔を作るところだ。だが、今の室田は頼まれてもそんな気になれなかった。
「ごめん。飲み過ぎたみたいでさ、もういいかな?」
「ふふっ……ウィンガーだって、飲み過ぎはダメね。じゃあね、See you !」
通話は切れた。
スマホをソファへ投げ出し、室田は頭を抱えた。
「……ああ!!」




