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flappers   作者: さわきゆい
第3章 Lost Children
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翔太 ②

 母親に事情を説明するのは、思ったほど骨は折れなかった。

 いつもは割とおっとりと、天然気味の母だが、簡単に翔太の話を聞いただけで、

「すぐにおうちに連絡しなさい。おばさんもお話ししてあげるから!」

 と、真剣な顔になった。


「スマホは?」

 だが、洸に聞かれた翔太はあっさりと首を振る。

「持ってきてない。塾とかに行く時しか持たないんだ」

「いや、こういう時こそ持てよ!」

 不思議そうに首を傾げる翔太を見て、凪は

(この子、なんかズレてる)

 と、思わずにいられなかった。


「おうちの電話番号、分かるの?」

 母もさすがに驚いたようだが、翔太は平然たしている。

「大丈夫です。家の番号も、お母さんの番号も覚えてます。―でも……」

 そこまで言って口籠った翔太は、助けを求めるように凪を見た。

(……あたしにどうして欲しいんだ?)


 翔太は黙り込み、話が進まない。

「怒られそうだとか思ってんの?そのくらい、家出る前に考えとけよ」

 イライラした洸を制し、母が翔太の背中をさすってやる。

 もう一度、訴えるような視線を送ってきた翔太に、凪は

「何が一番困るの?」

 と、聞いてみた。


「……あの、」

 キュッと眉間に皺を寄せ、翔太はモソモソと喋り出した。

「お母さんは今入院してるし、お姉ちゃんは、知らない電話にはでない。多分……」

「お父さんは?」

 翔太は首を振った。

「単身赴任だし……電話もメールも知らない。ずっと、会ってないし」


「じゃあ、家にはお姉さんしかいないの?」

「ううん、おばさんが一緒に住んでる」

「だったら、おばさんに電話できる?」

「あ、おばさんでいいんだ。うん、番号覚えてる」


(やっぱり、なんか話が噛み合わない子だな)

 意図的に誤魔化そうとしているわけではなさそうだが、イマイチ会話のキャッチボールがうまくいかない。

 それは、相手が小学生だから、というわけだけではなさそうだった。


 8時近くになって、やっとそのおばさんが電話に出た。

 これ以上、連絡がつかなければ、警察に連絡しようかと母親が言い始めた頃である。

 訝しげに電話に出た女性は、相手が甥の翔太で、現在600キロ以上離れた場所にいると分かると、一瞬黙り込んだ。


「あの、申し訳ありません……本当に……なんで、黙って行ったのか……」

 電話を代わった母は、ひどく狼狽した様子の女性に、すっかり気の毒になってしまったという。


 翔太はというと、ケロッとした顔をして会話の内容を気にする様子すらない。

 結局、翔太は水沢家に泊まることになった。




「警察のお世話にはなんとかならないようにしてほしいって。明日、一番早い電車か飛行機かで、出来るだけ早く迎えに行きますっていうことだから」

「え、泊まっていいの?やった!」

 悪びれることなく、はしゃぐ翔太に、凪と洸は顔を見合わせるしかない。


 その後、洸にギターを貸してもらい、興奮しながら弾き方を教えてもらっていた翔太だが、布団を敷いてもらうと、電池が切れたようにたちまち眠ってしまった。そこら辺は、さすがに小学生だ。


「そりゃあねえ。疲れたでしょう。―なんだか、あちらのお話だと、いろいろご事情がある家庭みたいよ。おばさんにあたる方も、お仕事で遅くなると、顔を合わせない日もあるから、電話もらわなきゃ、いないことにも気づかなかったって」

 小声で母に耳打ちされ、凪は顔をしかめた。


「なにそれ。ネグレクトってやつ?」

「そこまでではないんだろうけど……あまり、構ってもらえてないんじゃないかしら」

 母も懸念を感じているようだし、妙なことに関わってしまったと、困惑しているのが分かる。


「まあ、明日迎えに来るっていうんだし。1人で帰って来いって言わないだけいいんじゃない?」

「そうねえ」


 2階へ向かおうとした洸が、チラッと凪の方へ視線をよこした。

 何か話したいことがあるな、と察した凪もその後へ続く。


 洸の部屋は暑かった。だが、窓は開けずエアコンのスイッチを入れる。

 エアコンが効くまで、ドアを開けておきたかったが、洸はすぐに閉めるように身振りで示す。


 凪は手で顔を仰ぎながら、エアコンの吹き出す場所へ移動した。

(熱いなぁ)

 額から汗が吹き出す。それでも、母に聞かれたくない話があるのが分かるから、凪は文句は口にせず、洸の言葉を待った。


「あいつさ」

 洸が普段はなかなか聞かないような真剣さで切り出した。

「ウィンガーになるよ。いつかは分かんないけど」

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