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flappers   作者: さわきゆい
第3章 Lost Children
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奇妙な出会い

 ターミナルに停車していたバスに乗り込んだ2人は一番後ろの座席へ向かった。

 洸はギターと共に、凪はボストンバッグを傍に置いて、ホッと一息つく。

「ちょうどいいバスがあってよかった〜」

 洸は額の汗を拭いて笑った。


 実家へ向かうバスはいつだって空いているが、1時間に一本しか走っていない。

 いつもは父親が迎えに来てくれるのだが、今日は出張だとかで、バスで帰るしかなかった。

 実家は買い物にもあまり便利な場所ではなく、運転免許保有者の数だけ車を持っている家がほとんどだったが、水沢家の母は免許すら持っていない。


「絶対、卒業したらすぐに免許取る!そしたら、機材も持って移動できるし」

「でも、車って維持費が結構かかるんだってよ」

 出発時間を待つ間、そんな会話を姉弟は交わしていた。


 絵州市内のライブハウスのイベントに参加した洸は、その後、姉のクラス会に乱入するという目的を果たしていた。

 今日は今日で屋外で行われたライブイベントに出演し、オリジナルの楽曲を披露してきたらしい。


 実は凪も見に行ってみようかと思っていたのだが、調子に乗って昨日飲みすぎたせいで、午前中は起きられなかったのだ。

 ウィンガーはアルコールに強い。とはいえ、ウイスキーを1人で一本以上消費すれば、次の日まで影響が残るのだと、凪は身を持って思い知った。


 普段、ネットで自分の曲を公開している洸が、バンドのサポートではなく、人前で演奏するのは珍しいことだが、かなり反応は良かったらしい。

 インドア派の弟がすっかり日焼けし、ご満悦の表情で帰ってきたのを見て、凪は昨日の文句を蒸し返すのをやめた。


「絵州市のイベントに参加するから、マンションに泊めて」

 と、言ってきた時から、クラス会に乱入する計画だったのは間違いない。参加できなくでも、ウィンガーとして顔を覚えてもらって、なんらかの繋がりは作れると計算したはずだ。

 凪はそんな弟に苛立ちを感じていたが、ほとんど諦めてもいる。


 ヘラヘラとはぐらかしながら、絶対に自分のやりたいようにやらないと承知しないのが洸だ。強硬に反対すれば、より強硬な手段に出てくる。

 大抵の場合、自分が折れることになる―と、凪は思っていた。



 年配の女性に続いて、黄色いTシャツを着た、中学生くらいの少年が乗り込んできた。

 バスに乗り慣れていないのか、キョロキョロと不安そうだ。

(珍しいな)

 と、凪は思った。

 この路線に乗るのは、生活動線として乗り慣れてる人がほとんどなのだ。


 少年は後ろの座席に目を向け、2人を見ると何故か顔を赤らめて、急いでそばの椅子に座った。

(……?)

 なんとなく様子がおかしいと思ったが、洸はスマホに夢中だし、声をかけるほどのことではない。

 凪は窓の外に目を向けた。




 40分ほどかけ、終点から2つ手前の停留所で降りた時には、空にはほんのりとオレンジ色の光が混ざりつつあった。

 空気は湿り気を帯びているものの、だいぶ気温は下がり過ごしやすい。


「え?どこから乗ったの」

 まだ停車中のバスから、運転手の少しトゲのある声が聞こえて、2人は思わず振り返った。

「600円。中学生でしょ―え、細かいの、ないの?」


 2人に続いて降りようとしているのは、あの挙動不審な少年だった。

 財布の中を探りながら、

「え……と、450……円……なら」

 フロントガラス越しにこわばった顔が見える。


「……あいつ……」

 少年の顔を見た洸が眉をひそめた。

 足早にバスに引き返すと、

「150円、あればいいか?」

 自分の財布から小銭を取り出して渡す。

「あ、えっ」

 かなり驚いたらしく、少年は受け取った小銭をしは呆然と眺めてから、慌ててバラバラと料金を投入口に入れた。


「あ、あの、あのっ」

 飛び出すようにバスを降りた少年は、さっさと背中を向けて歩き出していた洸を追いかけて来る。

 だが、その少年から続いたのは、凪が予想もしない言葉だった。


「ビングコウさん、ですよね?!」

 それは、サイトミューに投稿する時の洸の名前だった。いわゆる、ユーザーネーム。というより、バンドに参加する時など、音楽活動全般において洸が使っている名前である。


「あのさぁ、」

 意外にも洸は驚いた様子もなく、むしろムッとした表情で振り返った。

「お前、今日のポートメッセのイベント、来てたよな?」

 少年は怯んだように立ちすくんだが、すぐに素直に頷いた。


「すごい、かっこよかったです」

 目が、輝いている。

 凪は首を傾げた。

 身長は洸と同じくらいある。だが、声も話し方もなんだか子供っぽい。


洸もその反応に戸惑ったようだが、

「それは……ありがと」

 一応、そう返した。そして、歩き出そうとしてから、やはり確認しておきたくなったようで、もう一度少年を振り返った。

「まさか、ついてきたわけじゃないよな?」

 真っ直ぐに目を見てそう言われると、少年が唾を飲み込むのが分かった。



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