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flappers   作者: さわきゆい
第3章 Lost Children
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クラス会、再び ②

 ゆっくり開いたドアから、そろそろと顔を覗かせたのは、どう見てもバーに用があるとは思えない少年だった。

 夜の店には場違いな雰囲気がありありとしているが、なぜかその表情には期待の色が浮かんでいる。


 再び全員の視線がドアへ集まっていた。

 今日は貸し切りだ。一般の客はそう言って追い返せる。

 おそらく、マスターがその文言を口にしようとした時、カウンターから黒い影が飛んだ。一直線にドアまで飛んだ影は、

「なにしに来た!」

 という低めの声と共に少年をドアの外へ追いやった。

 パタン、とドアが閉じる。


 ドアが開いてから閉まるまで、5秒もかからなかったかもしれない。


「……ナッピ、だよね?」

 カウンターの向こうに凪の姿がなくなったことを確認しながら暦美が言う。

「翼、出てたよね?」

 美実が頷く。


「えー?!マジマジ?!全っ然、オレ、見えなかったぜ!」

 興奮気味に騒いでいるのは海人。

「相変わらずだなぁ」

「こんな狭いとこ、飛ぶか?普通……」

「翼の無駄使い」


 同級生たちが勝手にワイワイする中、

「で、今来たの、誰?」

 意外にも進之介が冷静な問いを発した。そして、

「水沢の弟だ」

 西崎という、意外なところから答えが返ってきたことに、全員が目を丸くする。


「なにしに来たんだよ。さっさと帰れ!」

 ドアの向こうの会話は、普通の人間には聞こえない程度の声音だが、なにしろマスター以外は全員がウィンガーだから、全て聞こえていた。


「高校生が来る場所じゃないから!」

「ええ〜」

 わざとらしく媚びた、男子高校生らしからぬ猫撫で声は、さして音量を下げる様子もない。

「だってぇ、オレだって()()ほ〜し〜い〜。お姉ちゃんばっかり、ず〜

 る〜い〜」


(あいつ……オレらに聞こえるように言ってんな)

 西崎は思わず苦笑しながら、年末に小学校の屋上で会った、洸の様子を思い出した。


 顔に似合わず、大人びた思慮深い発言をするかと思えば、子供っぽい無鉄砲な思考を垣間見せたりする。

 姉よりはるかに表情豊かだが、やや計算高いところはありそうだ。

 今日ここに来たのも、何か考えがあってのことかもしれない。


「入れてあげたらいいじゃない。だって、あの子―」

 桜呼が西崎を見て言う。

「ああ、アーククラスのウィンガーだって、言ってたな。オトヤ、」

 本郷の言葉に何人かが頷いた。

 凪の弟もウィンガーだということは、みんな知らされている。


 ドアの向こうで、ズズッと音が聞こえた。

「いやぁ〜ん」

 そのまま、ズルズルと引きずられていくらしい音。


 店内を見渡して、誰も反対する者はないようなのを確認すると、西崎はドアへと向かった。




「水沢、」

 西崎は、自分より体の大きい弟を小脇に抱えるようにして階段へ向かおうとしている凪に声をかけた。

 どう見ても、漫画のような光景に、笑いが含まれてしまったのは仕方ない。


「あ!西崎さーん!」

 姉の腕を振り解いた洸は、勢いよく両手を振ってきた。

「おう、久しぶり。入れよ。―水沢、いいだろ?」

「は?こいつ、同級生じゃないし」


 さすがに翼の力なしで男子高校生を引きずるのは容易ではなかったらしく、凪は肩で息をしていた。

「オレらと面識あっても、悪いことはないんじゃないか?」


 翼がある時なら、

「面識あって、いいこともあるか?」とか、

「あたしの弟だ。あたしが判断する」だとか、言い返せたのだろう。

 だが、普段の凪では、西崎にそこまで反論することはできなかった。何より、嬉々とした洸の様子に、言葉が出なくなってしまう。


 口の中だけでゴニョゴニョと文句を唱え、ジロリと弟を見やった凪だが、洸はしてやったりの笑顔だ。

 西崎は2人を見比べながら、顔はよく似ているのに、本当に性格は対照的だと面白かった。


「そう言えば、サイトミュー、見てるぜ」

 西崎の言葉に、洸は落としかけたギターケースを慌てて肩にかけ直す。

「え、マジか」

 先にボソリと呟いたのは凪だった。

「え!マジすか!見てくれてます?実は昨日、新曲アップしたばっかりで―」

 洸のほうは、先程までよりもさらに満面の笑みで、無邪気に喜んでいる。

「ああ、聞いた聞いた。ディスるディスタンス、だろ」

「うわ、嬉しいわ〜、やっぱ、聞いてくれてる人に生で会えるの嬉しいわ〜」

「宙彦とか一ノ瀬もチェックしてるってよ」

 2人の横で、凪は次第に微妙な表情になっていた。


 サイトミューは、音楽専門の投稿サイトだ。

 近年はそこから人気が出てプロデビューしたり、プロに楽曲提供する者も出てきており、投稿者はミューバーなんて呼ばれ方もしていた。


 洸の音楽が、サイト内でそれなりに人気が出ていることは凪も知っていた。だが、広告収入や、楽曲提供などでかなり収入を得ていることを知ったのは最近だ。

 頭の硬い両親との間で、それがかえって揉め事の種にもなっていた。

(あたしのバイト代よりよっぽど稼いでるもんなー)

 ため息をついた凪は、ふと背後に気配を感じた。


「あ、西崎くん、水沢さん」

「よう、室田」

 西崎の方は凪より先に階段を上がって来る室田に気付いていたらしい。


 黒いスーツの上着を小脇に抱えた室田は、髪型もホスト仕様に、バッチリ決まっている。

「へへ……ちょっと抜け出して来ちゃった」

 照れ臭そうに笑ってから、洸へ視線を向けた。


「ああ、水沢の―」

「弟?」

 西崎が言い終わる前に、そう言って凪の方へ首を傾げる。

「あ、うん。そう」

「やっぱり。すごい似てるよね」


 言われた洸は、姉の顔にピッタリ寄り添ってピースサインをしてみせた。

 男女の違いはあるものの、くっきりとした二重の大きな目や、鼻梁のラインなど、確かにこの2人並ぶと姉弟だと一目瞭然だ。

「うざったい!」

 だが、凪は無造作に洸の顔を押しやると、さっさと店の方へ戻って行った。


「仕方ないから飲み物くらい出してあげ―」

 そう言いながらジーズのドアを開けた凪は、その光景に口を開けたまま固まった。

「何やってんだ、お前ら」

「うわー」「わー、すげー」


 当然、呆れた声を漏らしたのが西崎。感嘆の声をあげたのが室田と洸である。


 ジーズの狭い店内は、背中に翼の生えた同級生たちで満たされていた。

 間接照明の中、大きな白い翼が広がったり、

「ちょっと!顔にかかってるってば!」

 と、折りたたまれたりしているのは、実にシュールな光景だ。


 しかも、店内のほぼ中央では、上半身裸の進之介が宙に浮かんでボディビルのようにポーズを決めている。

 さらに進之介の足元では、真壁と海人がやはり上半身を脱いで、力瘤を比べあっていた。

 この2人は飛べる翼を持っていないから床に立っているだけで、アーククラスの翼が有れば、進之介同様、宙に浮かんでいたと思われる。

 男性陣が―マスターも含めて―彼らを囲んで爆笑している中、奥のテーブルの暦美、美実、桜呼の3人はひどく冷めた目つきで彼らを眺めていた。

 彼女たちはもちろん、翼を出していない。


「閉めろ閉めろ」

 西崎に言われて、凪は慌ててドアを閉める。

「どういう状況だよ」

 さすがに呆然とする凪と西崎に対して、室田と洸は既に取り巻きの輪に混ざっていた。


「すげえ。めっちゃ、圧巻ですね」

「おお、水沢弟くん!アメリカのジムで鍛えてきたそうでな。見せびらかしたいらしい」

 蝦名が指し示した先で、進之介はなにやら妖しげなポーズをとる。セクシーアピールのつもりらしいが、その体は本人が言うほど腹筋が割れているわけでもなく、隆々とした筋肉に覆われているわけでもない。

 むさ苦しい髭面と相まって、

「キモい」

「最悪」

 と、女子チームに一刀両断にされる。


「それで、なんで全員で翼出してんだよ」

 西崎が言う横で、洸と室田まで翼を出して、周りから歓声が上がった。

「うん、なんでかこんなことになった」

 答えたのは本郷。チラリと自分の背中の翼を見やってから、

「まぁ、ノリだな」

 と、真顔で続けた。

 西崎がため息をつく。


「弟もアーククラスか。よし、飛んでみせたまえ!」

 なぜか蝦名は洸にそんなことを言っている。

「こんな狭いとこで飛んでどうすんの」

 琥太郎が冷静にツッコミを入れたが、洸の足はもう床を離れていた。


 途端に凪が飛び出して、洸の足に抱きつく。

 洸は急激に上昇し、天井に頭を打ち付ける寸前で引きずり下ろされた。

「このヘッタクソ!!」

 黒い翼をその背中にまとった凪から、少々ドスのきいた声が飛ぶ。


 周囲から、歓声と笑いが起きた。

「おお、出た。黒い翼!」

「相変わらず、おっかねー」


 さっきまで、しらけた顔だった女子チームまで笑っている。

「いよっ!黒の女王様!」

 頭上からの進之介の声に、凪は弟の尻を引っ叩いた。

「痛っ!ひどっ!八つ当たり!」

「……最悪だ」

 大袈裟に騒ぐ洸のことは無視し、凪は呟いた。


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