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flappers   作者: さわきゆい
第3章 Lost Children
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新メンバー

「まさか室田もウィンガーとか、びっくりだわ。絵州市に帰ってきてたのも誰も知らなかったし。戻ってきたの、2年前なんでしょ?近くにいたのに、会わないものねー」


 水曜の夜のジーズ・バー。

 カウンターで凪の隣に座った暦美は、どことなく不満げにそう言った。


「室田がホストとはなー」

 カウンターの反対端の席からため息混じりに言ったのは本郷。

 カウンターの中央2席をあけて、端と端で話すという、少々違和感のある光景になっているが、そこが彼の定位置らしく、動こうとしない。


 ジーズ・バーには、現在この3人しか客はいなかった。いくら平日とはいえ、経営は大丈夫なのだろうかと、凪としてはそちらの方が気になった。

 お陰でウィンガー絡みの話を心置きなくできるわけだが。


 そしてクラス会以降、ウィンガーとの関わりは最低限にしようとしていた自分が相変わらずこんなポジションにいることに、凪は理不尽さと同時に妙な巡り合わせを感じていた。

 運命とか宿命とか、大袈裟なものではないだろうが、どうも自分はウィンガーと関わらずに生活していくのは難しいらしい。




 **********

 あの帰り道で室田と再会した後、凪はジーズ・バーの場所だけ教え、室田1人で顔を出してくれればいいと思っていた。

 ところが、凪がその下の店でバイトしていると聞くと、

「じゃあ、水沢さんのバイトが終わる頃に行くよ。1人で行くの緊張するし。オレ、西崎くんとか本郷くんと喋ったことないもん」

 同級生と会いたいと言ったはずの室田が、そんなことを言い出したのだ。


(はっ?!あたしとだって、ほとんど喋ったことないじゃん!なんで、あたしと喋るのは平気なのさ?)

 内心そう思った凪だが、室田の悪気のない笑顔につい、承知してしまった。


 だが実際、室田がジーズ・バーを訪れることができたのは、それから2ヶ月近くたってからだった。

 室田の店が忙しかったり、大学のテストで凪が時間がとれなかったりと、なかなか都合が合わなかったのだ。


 ちょうどいいと言えば、ちょうどよかったのかもしれない。

 クラス会の後、一度アメリカへ戻っていた西崎が、戻って来ていたから。


 室田のことを聞いた西崎も、もちろん驚いていた。彼がウィンガーになっていた、ということよりそれを誰にも言わずに隠し通していたことに、である。


「こう言っちゃなんだけど、そんなに器用なタイプに見えないしな」

 西崎の言葉に本郷も深く頷いた。

 行方の分からない同級生に関しては、『ウィンガーになっていれば登録されているだろう。その情報がないということは、ウィンガーになっていないのだ』という理屈で全員が片付けていた節がある。


 室田が現在ホストとして働いているというのも、かなり同級生たちには意外な展開だったが、ジーズ・バーに現れた彼は、パーカーに黒のデニムという、いたってシンプルな出立ちで、暦美などは拍子抜けしたらしい。


「えっ…やっぱり、こういうお店ってスーツの方がいいの?」

 普通の格好にダメ出しされた室田は、オドオドと凪を振り返った。こういう様子は、小学生の頃を彷彿とさせる。

「全然、ダメじゃないよ」

 凪が苦笑してフォローしているところへ、西崎と本郷がやってきた。


 2人を見た室田は、笑顔のまま口と目を見開いていた。

 昔、戦隊ヒーローのショーに行った時の弟が、同じような顔をしていたな、と凪は思った。

 間接照明の光のの中でも分かるほど、室田は頬を赤くし、ところどころ吃りながら自分の近況を話した。


「是非、また来てね。なんならカウンター、手伝ってくれてもいいから」

 マスターの見送りの言葉にも、本当に嬉しそうに何度も頷いていた。

 **********



「あの感じだと、そのうちすぐ遊びに来るんじゃない?あ、お店の仲間とか連れてこないよね?」

 ふと、気がついたように暦美は眉をひそめた。


「言っておいた方よくない?ここには一般人は連れてくるなって」

「一応、オレらも普通の友達は連れてこないようにしてる、とは言っといたよ。向こうも夜の仕事だから、そんなしょっちゅうも来れないだろ」


「ていうか、室田のお店、行ってみたーい。ホストクラブって、行ったことある?」

 最後の質問は凪に向けられている。

「いやいや、この間が初めて(行ったことあるはずないでしょ)というか、あれも閉店後のお店に入れてもらっただけだし……」


「シャンパンタワーとか、生で見たくない?本郷、連れてってよ」

 いきなり話をふられ、ワイングラスを口に運ぼうとしていた本郷は慌てて口を離した。

「なんで、オレが?」

「だって、そんなお金ないもの。行きたくないなら、お金だけでもいいよ」

 口調は冗談めかしているが、暦美の目には半ば本気の光があった。

「出すかよ!」


「ふーん……にっしーは、そういうの付き合ってくれなさそうだし。出せるとしたら、桜呼くらいかしらねー」


 かなりまじめに検討している様子の暦美を横目に、

(絶対、桜呼ちゃんは行こうって言わないと思うな)

 と、凪は思ったし、それは改めて、ワインを傾けた本郷も同様だと思われた。


 入り口のドアが控えめに動く。

 3人は一斉に口をつぐんだ。

「あ、みんな……」

 ドアから顔だけ覗かせ、嬉しそうな声を漏らしたのは、ちょうど今まで話題になっていた室田だった。


 そのまま頭から滑り込むように店に入ってきたのは黒いスーツ姿。整髪剤で整えられた髪型も相まって、今日はどこから見てもホストらしい出立ちだ。


「お、室ちん、決まってるじゃん!」

 本郷に声をかけられると、室田は照れ臭そうに笑った。

「よかった。いつも週末に来るっていうから、誰もいないかもと思ったんだけど」


 マスターが本郷の隣にコースターを置くと、室田はいそいそと腰掛ける。

「なんかあったの?」

「ううん。あの、お客さまを送って行ってさ。その帰り。店戻る前に寄り道しちゃおっかなーなんて」

 体を揺らしながら、喋り方はこの間もそうだったが、早口だ。


(だけど、めちゃくちゃ楽しそうなんだよね)

 そう思いながら凪が隣の暦美を見ると、彼女の方は室田を上から下まで何度も眺め直していた。

「確かに、パッと見じゃ室田だって気がつかないかもね」

 小学校時代の、地味で冴えない少年を隣に思い描いているのかもしれない。この間、普段着で現れた室田に

「つまらない」

 と突っかかっていたくせに、スーツ姿にも不満げな暦美に、凪はどう応じたらいいのかと、結局黙っていた。


 この先もこのメンバーに関わっていくことを予感しながら。





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