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flappers   作者: さわきゆい
第2章 ミーティング・タイム
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クラス会 ①

 白いシャツに黒のベスト、黒のタイトスカートという出立ちでカウンターに立つと、意外とその気になって、凪は満更でもなかった。


 ジーズ・バーの店内の様子はいつもとだいぶ違う。

 テーブル席にはそれぞれ、グラスやウイスキーのボトル、焼酎のボトルが置かれていた。

 おしぼりや小皿もセッティング済みだ。


 ビールサーバーの調整をしたり、ワインクーラーのチェックをしたりと、マスターの動きはいつになく忙しない。そのくせ、鼻歌でも漏らしそうな嬉々とした様子だ。

 凪はそれを少し複雑な思いで眺めていた。


 八川小学校、元6年1組のクラス会は大手の居酒屋チェーン店で、18時から開催されているはずだった。

 2時間の一次会の後、20時半頃には二次会のためにここ、ジーズ・バーへ流れてくる運びだ。


 卒業時に在籍してきた35人のうち、20人以上が出席する、と凪は聞いていた。

 凪は本来なら明日、実家から戻るつもりで、つまりクラス会に出席する気はなかったのだが、

「さすがに、一人で対応は大変だから、手伝ってくれないかな」

 という、マスターの元太からの頼みを断りきれなかった。


 二次会がジーズ・バーになったことも凪はその電話で初めて知ったが、元太が自ら「うちの店で二次会を」と、提案したと聞き、困惑した。


 二次会から、店員としての参加というのもどうかと思われたが、たたみかけるように暦美からも連絡が来た。更にはその電話を聞いていた洸が後ろから

「その日、別に用ないっていってたじゃあん!」

「行って来なよー」

 なんて大声で割り込むものだから、参加せざるを得ない雰囲気になってしまったのである。

 ただ、一次会は固く断った。



 **********

 クラス会の出欠の連絡が続々集まってきた、と暦美がわざわざ連絡をくれた。というか、桜呼のマンションでの会合以来、暦美はちょっとしたことでも凪に連絡をよこすようになっている。

 せっかくなので、小学校時代に仲良くしていたサヤとタマの出欠を確認したところ、珍しく暦美は言葉に詰まった。


「あれ…聞いてなかったんだ…」

 少し間をおいて言葉を選んだようだが、結局彼女らしいはっきりした表現でその事実は伝えられた。

「タマ、亡くなったんだよ。交通事故で」


 凪にとって、ショックでなかったと言えば嘘になる。だが、悲しくて涙が溢れるということもなかった。

「ニュースにもなったんだけど。高速で普通車に10人とか乗ってスピード出し過ぎて、中央分離帯に激突」

 暦美の説明も、冷静に聞いていた。場所はどこかよく覚えていないけど、2、3年前にそんな事故があったことは記憶にある。

 随分馬鹿なことしたな、とそれぐらいの感想だった気がするが、まさかそこに友人が巻き込まれていたとは。


「苗字、変わってたからね」

 事故のニュースに名前を見た記憶がないと言うと、暦美はあっさりと、そう言った。

「卒業と同時に引っ越したの、親の離婚だったらしいよ。中学校の時から家出繰り返して、事故の時は親も居場所知らなかったんだって」


 卒業後、引っ越し先の住所が分かったら連絡すると言っていたのに、珠枝から何も連絡がなかったのはそのためかと、急に合点がいった。


「連絡してね」

 と、言った時の煮え切らない表情、少し苛立った口調。

 妙に気の強いところがあって、人に弱みを見せたがらない子だったから、同級生と離れる寂しさの裏返しかと思っていた。


(そういうことだったんだ……)

 驚くと同時に、納得もしていた。

 もう一人の友人、サヤについては、クラス会の案内に欠席の返事だけが戻ってきて、近況その他の記載はなかったらしい。


(みんな、結構いろいろあるのかも…ウィンガーじゃなくても)

 元々分かりにくい凪のテンションだが、この時はだだ下がりしているのが暦美にも伝わったらしい。それ以上、クラス会への参加を勧めてくることはなかった。

 だが暦美の最後の一言は、また別な衝撃を凪に与えた。


「ちなみに、その後タマの妹がウィンガーになったのは知ってる?登録されてるんだけど」


 **********


 思いもよらず、ウィンガー問題は広範囲に影響を及ぼしている。

 無関係だと思っていた友人にも。


 ーーもしかして、たまちゃんも隠れウィンガーになってた?


 用意の整った店内を満足げに眺める元太を見ながら、凪は急にそんなことを思いついた。

 今となっては確認しようもないが。

 ウィンガーになったという妹とは面識はあるが、一緒に遊んだりした記憶はない。

 メチャクチャ仲の悪い姉妹だった。

 年は一つしか違わないのだが、そばに来ただけで言い争いになるし、取っ組み合いの喧嘩になることも珍しくなかった。


 妹に会って、珠枝のことを聞いてみたいとも思ったが、そんな姉妹だからたいした話が聞けるとも思えない。

 自分のことを妹が覚えているとも思えなかった。



 元太が自分に今日の手伝いを頼んだのは、クラス会へ出席させたいという、思惑があってのことだとは凪も分かっていた。

 クラスの事情を知らない部外者のバイトを頼むより安心だということもあるだろう。


「みんな、凪ちゃんに会いたがっているしね」

 元太のいう「みんな」が誰のことかわからなかったが、嘘を言っている様子ではなかった。

 地元に残っている同級生は、時々ジーズを訪れているらしいから、その中の誰かが社交辞令的に口にしたのかもしれない。


 ただ、珠枝のニュースを聞いたせいで、会える時に会っておこうかな、という気持ちが湧いた。多分、二次会に流れてくるのはウィンガー組が大半だろうから、久しぶりに会うにしても少し気楽だというのもある。


 開き直ってしまえば、あまり緊張もせずに同級生たちを待っている自分に気がついた。

 むしろ、元太の方がそわそわしているみたいで、おかしい。

 カウンターの中に置いてある小さな時計を見ると、8時20分を指していた。


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