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flappers   作者: さわきゆい
第2章 ミーティング・タイム
45/190

桜呼宅にて ①

 今日集まるメンバーを思い返しながら、やっぱり気乗りはしないな、と凪は改めて思った。


 集まる場所は一ノ瀬桜呼(いちのせさくらこ)のマンション。

 実家はもちろん市内にあるのだが、仕事場も兼ねた部屋を持っているのだそうだ。

 親が買ったのだろうが、大学生がマンションの部屋を所持しているとは、なんとも羨ましい話だった。


(まあ、桜呼ちゃんなら、数年後には会社立ち上げて社長とかなってても驚かないな…)

 家業の呉服店を手伝う形で、海外に和風小物を販売しているという桜呼は、手伝いというよりは、海外の店舗への卸しや買付をほぼ任されているらしい。

 先日、久しぶりに会って、そう長く話せたわけではなかったけれど、昔同様の誰にも臆さない物腰に、理知的な話し方が加わっていて、凪は圧倒された。

 同じ歳の大学生とは思えない。


 小宮山暦美(こみやまこよみ)は凪とは違い、桜呼に一目置く様子も腰が引ける雰囲気もなかった。

 桜呼と暦美の微妙に牽制し合う関係は、以前と変わらないようだ。

 当然、今日のミーティングにも出席する予定だが、暦美の相棒というか、昔から一番仲のいい吉川美実(よしかわみのり)来られないという。


 暦美の押しの強さというか、思ったことをポンポン口にするところは昔とまるで変わらない。

 だが、それは不思議と凪を安心させた。

 時が経っても変わらない部分が見えると、人間はホッとするのかもしれない。


 凪はその暦美と、地下鉄の駅の出口で待ち合わせていた。

 遅れたら、絶対文句を言われる自信があったから、15分前には到着していたが、まもなく

「ナッピ!」

 と、後ろから両肩を掴まれ、軽く硬直した。


 早目に来て正解だったと思いつつ、

「え…ナッピって…誰に…」

 挨拶より先に疑問が口をついた。


 振り返ると、満面の笑みの暦美がいる。

「むっふふふ、かべっちから聞いたの!ナッピって呼ばれてるんだって?」

 バッチリ化粧もして、耳にはピアス。でも、その笑い方は昔のままだった。

 そんな風に、屈託なく数年ぶりの時間を埋められるほど、仲が良かった記憶がない凪は、ぎこちない笑みを浮かべて

「うん、まぁ…」

 と、曖昧な言葉を返す。


「水沢さん」としか呼ばれたことのない相手に、いきなりごく一部だけに流布している呼び名で呼ばれて、凪はドギマギしていた。

(いや、別に構わないけど……構わないけど、今まで苗字呼びだったのが、20歳過ぎてナッピって…どうだろう?)


「ナッピって、かわいいよね。似合ってる」

 悪気はない、というか褒めてくれているのだろう、とは思う。

 ただ、この呼ばれ方、本人が気に入っているかと言えば微妙だった。


「あっちに引っ越してから?」

「え?あ、ナッピって呼ばれるの?んーと…高校から、だね…」


 個性と自律を重んじる、という、なかなか自由な校風の高校だった。

 そのせいか、個性的な生徒が多く、部活の先輩も自由奔放な人物が多かった。

 入部した次の日に、突然副部長が

「ナギって、呼びにくいからさぁ、ナビでいい?」

 と言ってきて、それからナッティ、ナリィ、ナンナンなど、凪の呼び名は変遷した。

 もう、どうでもいいと思った頃、ナッピにいつのまにか定着していたという経緯がある。


 何を話していいのかも分からなかったので、聞かれもしなかったけどそんな話をするうちに、マンションの前に着いていた。

 見上げればよく晴れた青空に、黒に近いグレーの直方体が威圧感たっぷりにそびえている。

 駅から徒歩5分。まだ新しく、周囲のビルやマンションよりも突き抜けて高い建物。

(お高そうなマンションだな〜)

 口にはしなかったが、ちょっと気後れして立ち止まった。


 凪たちが住んでいるマンションも駅から10分ほどだし、一応オートロックも付いている。

 ただ、それなりに年期が入っていることもあり、いわゆるどこにでもあるマンションの風情であるのに対し、ここは外観やエントランスの雰囲気からして高級感に溢れている。

 マンションといっても、下層階はオフィスビルになっているらしく、入り口には事業所の表示が幾つも並んでいた。


 何度か来たことがある様子で、さっさとエントランスに向かう暦美の後を追うと、

「おお!コミさん、水沢さんペアか!」

 まるで、舞台上の人に呼びかけるような、仰々しい声が背中から聞こえた。

 顔を見るまでもなく、蝦名だと分かる。


 凪が振り返ると、蝦名の隣にはもう1人、男性が立っていた。

 凪の記憶が反応したのは、どことなく落ち着きのなさそうな様子でも、黒縁のメガネでもなく、寝癖ともパーマともつかない癖っ毛だ。


「庄…村くん…?」

 それでも、自信なげに呟いた凪に庄村卓登(しょうむらたくと)は小さく頷いた。

 庄村の方はすぐに凪を認識したらしく、どこか意味深に、ニヤリと笑って見せる。

 高野海人とコンビでおふざけに興じていた小学生の顔がそこにはあった。


「久しぶり」

 その一言だけなのに、なにか企んでそうな気配を感じさせるのも相変わらず。

 別にそれほど苦手な相手ではなかったはずだが、凪は自然と暦美の陰から様子を窺う体勢になっていた。


「本郷とニッシーは一緒に来るんでしょ?」

「ああ、さっき少し遅れそうだと連絡が来ていた」

 蝦名が言うと、まるで上官へ報告する兵士のように聞こえる。

「ん。じゃあ先に行ってようよ」

 暦美に言われるまでもなく、一行はエントランスへと向かっている。

 凪は1番落ち着くポジション、つまり最後尾について自動ドアをくぐった。



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