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flappers   作者: さわきゆい
第2章 ミーティング・タイム
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凪と本郷 ②

 本郷はスピードを落として、左車線から入ってくる軽自動車を前に入れた。

 ハザードをあげる軽自動車を見ながら、ペーパードライバーの凪としては、やっぱり絵州市内を運転するのは怖いな、とか考えてしまう。


 凪の住むマンションまで、繁華街を抜けるか、郊外を遠回りしていくかだが、どっちにしろ今の時間帯なら、地下鉄に乗った方が早い。


(ジムで話聞けばよかったな…)

 内心、呟く。その方が、話も要点だけで済んだだろう。いつもながら、相手の勢いに流されがちな自分を反省しつつ、

「なんか、変わったこと、あったの?」

 本郷に話を促す。


 信号が赤に変わり、車はゆっくりとスピードを落とした。

 停車すると、エンジン音の大きさに気がつく。

 周囲に響き渡るほど、ではないけど、重低音の規則的な響きは、凪の実家のセダンでは聞いたことないレベルだった。


「水沢、れい子先生のこと、今はどう思ってる?」

(まず質問からか…)

 本郷の問いに、それでも真剣に考えてみる。


「どうって…むしろ今はどうとも…っていうのが正直なところかな。どこにいるのか分かれば、話を聞いてみたいとは思うけど。分からないなら、今はもう仕方ないな、と」

 前を見つめたまま、本郷は頷いた。


「確かに居場所を探すのは厳しそうなんだ。実は、先生の旦那さんらしき遺体が見つかってさ」

 凪は眉をひそめたが、伊達守議員からの情報を聞くと、ため息と共に頷いた。


 本郷は知らないはずだが、凪は、れい子先生のご主人に会ったことがある。

 今思い出せるのは、だいぶ白髪の混ざった、おじさんというより、おじいさんと言っても良さそうな風貌の男性だった、ということだけだ。

 突然、訪れた自分達に、驚きつつも穏やかに応対してくれたが…



「お前たちが会いに行ったのが、5月の連休の頃だろ?」

 不意に本郷に言われ、凪はギョッとして目を見開いた。


 目をまん丸にして、自分を見る凪に本郷は苦笑を漏らす。

「あ、えっと…聞いてたんだ?」

「聞いてるわ、てか、コミがうっかり口滑らせたんだ。ま、旦那さんの行方が分からなくなってからの話だけどな。会いに行った時は、変な様子なんかなかったって」

「ああ、そうだったんだ…」

 気まずそうに呟く凪に、本郷はため息をついた。

「悪かったな。ちゃんとあの後釘刺しといたよ。勝手に巻き込むなって」

(そうか。あれっきり、コミさんたちからなにも連絡なかったのって…そういう裏話があったか)



 **********

 あれは中学3年生の5月。ゴールデンウィークのことだった。

 その1週間ほど前、受け取った手紙の差出人が小宮山暦美であることに、凪は驚いていた。暦美から手紙が来たこともだが、手紙と言うアナログな連絡手段にも、である。

 だが、スマホもパソコンも持っていなかった凪と連絡を取ろうと思えば、それしかなかったのだ。


 文面は『手紙』というよりは『メール』で、いきなり

『久しぶり〜元気ぃ〜』と、絵文字というかイラスト混じりに始まっているのも暦美らしかった。

 用件は、1ヶ月前から行方不明になっているれい子先生のご主人に会いに行くから、凪にも同行して欲しいというもの。

 一方的に待ち合わせの時間も決められていた。

 アドレスや電話番号は書いてあったものの、そこに連絡する手段を凪が持っていない以上、どうしようもない。

 母のスマホ借りるなら、理由を説明せねばならないし、説明したところで、1人で県外まで行かせてもらえるとは思えなかった。


 暦美が同行を求める理由は想像がつく。

 凪が一言、

「知ってることを教えてください」

 と言えば、なんでも聞き出せると思っているのだ。

 実際はそんな簡単なことではないし、能力を発揮するためには翼を出さなければならない。


(無視することになっちゃうけど、仕方ない…よね?)

 隣県とはいえ、電車で片道1時間以上。休みの日だとしても親に黙って往復は難しい。

 そもそも、凪は小学校卒業の時点でウィンガーとは関わらないと宣言してきたはずだった。

 暦美だって、それを忘れたはずはないだろう。行かなければ、「やっぱりそうなんだ…」

 くらいで終わるはずだ。


 だが、その日は偶然にも両親が揃って早朝から出かける予定が入っていた。

 父親の仕事関係の人が何か受賞したとかで、祝賀会の席に招待されたのだ。

 帰りも遅くなるという。

 弟もスポ少の遠征で、出かけることになっていた。


 ここまで都合よく条件が整うと、

(行けってこと…なのか?)

 決めていたはずの気持ちが揺らぐ。


 ウィンガーとは関わらない。そう決めたのだから、その決定に従えばいいだけだった。

 なのに…


 約束の日、使わずに貯めていたお年玉を財布に入れ、駅に向かう凪の姿があった。

 絵州駅の待ち合わせ場所には、満面の笑みの暦美と吉川美実(よしかわみのり)が待ち構えていた…

 **********



「あれって、みんなで相談して行くことに決めたのかと思ってたんだけど…」

 言いかけてから、暦美たちを非難することになるかと、凪は言葉を濁した。


「あの2人の独断だよ。だから、口止めされただろ」

 そう、あの日、他にも誰か来るのかと聞くと、暦美はあっけらかんと首を振った。

 どうも他の同級生には反対されたらしい。

 結局、先生のご主人には会えたものの、これと言った話は聞けず、今回の件はなかったことにしようと3人で決めた。というか、暦美と美実の決定に凪は従っただけだ。

 彼女たちに意見する気はなかったし、ご主人に会った時点で凪の後悔はMAXに達していた。


「あたし、行った意味なかったしね…」

 話すことは2人に任せていたものの、元々人見知りの凪はガチガチに緊張し、隙を見てご主人に丸秘ネタを喋らせるなんてこと、できるはずもなかった。


「いいんじゃないの。あいつらもお前に会いたくて、理由こじつけたとこ、あったらしいし」

「?ぇ」

 そんなことは初耳で、凪は大きな瞬きをした。

「連絡先、交換しようと思ってたのに、スマホもなんにも持ってなくて、ガッカリしたってよ」

 本郷はちょっとした暴露話に、嬉しそうな表情を見せている。


「こっちで久しぶりに会ったの、オレが最初だろ?羨ましがられたわ」

「なにそれ」


 凪としては、羨ましがられる理由も、本郷がちょっと得意げにしてる理由も分からない。

 ……なにかがおかしい。

(なんか、あたしと会うといいことあるっけ?あたしに、なんかさせようとしてる?でも、本郷はあたしに関わらないように、注意してくれてたみたいだし…)


「それでさ、」

 思案を巡らせる凪のことは全く気にせず、本郷は話し続けている。

「一回、絵州市内にいるやつだけでも集まって、今後の相談しようと思うんだけど」

(この間も集まったよね、あんまり頻繁に連絡取らないようにしようって、言ってなかったっけ?)とは言わず、凪は曖昧に相槌をうった。

 この間、一度は顔を出しているし、今回は断ってもいいだろう。だが、

「来週、音十弥が帰ってくるし」


 その名前に、途端に悪い予感がした。

「水沢とも直接話したいってさ。悪いけど、また顔出してくれない?」

「え…あ…用がなければ…」

 対して悪いとも思ってなさそうな口振りが勘に触る。

「ああ、都合は水沢に合わせるよ」


 凪は、顔がこわばるのを感じた。


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