繋がりたい世界 ②
ああ、まず生理的な嫌悪感が先にきているのだな、と凪は納得した。
進之介の下心丸出しの言動は実際にあったことなのだろうが、これがヘンリーのような見た目からしてスマートな人間だったら、アンジェリーナの心象は違ったと思われる。この前会った時も、議員のご子息とは思えない、むさ苦しい出立だったことを思えば、アンジェリーナの気持ちも理解できなくはない。ただ、アンジェリーナの話は友人や周りの人から聞いた話ばかりで、彼女自身の進之介との関わりは、ほとんどないようだった。
「一度、ボディタッチしてきたから、アタックしましたね」
アンジェリーナはそう言って、グィッと右肘を突き出して見せる。
「それ以来、私には近づいてきません。多分、怖がられてます」
ちょっと誇らしげな言い方だが、誰も賛同はしなかった。
「シェイラ、レベッカ、他ノ人カラモ、私ハ何モ聞イテナイ。確認ガ必要ダナ」
少し疲れた顔でマイケルが言うと、
「ええ、聞いてみればいいわ。みんな、同じこと言うから」
好戦的な口調でアンジェリーナは言い返す。部屋の空気はピリピリしていた。
凪は、ここは自分が口を開くタイミングではないと、じっとしていた。
西崎が深いため息と共に口を開く。
「で、結局どうして欲しいんだ?オレたちにもっと協力しろと?」
「それは、そうね。でも、あなたたちの気持ちも分かるから、無理にとは言わない。ただ私はシーンを連れて帰ってほしい。彼は周りに迷惑をかけるだけで、役に立たないわ」
飛ぶのも下手くそだし、とアンジェリーナはボソリと付け加えた。
ゴツゴツと机を叩く音がした。マイケルの太い指が机の上で神経質な動き方をしている。
「ソレハ君ノ決メルコトジャナイ。ソンナ決定権ハ与エテナイ」
そこからまた英語の言い合いになったが、耳が慣れてきたのか、凪にもおおよそのことは理解できた。
進之介は数々の空気の読めない言動でアンジェリーナたちを振り回している。マイケルたちの組織を探るような様子も見られる。進之介のウィンガーとしてのデータは提供してもらったので、もう、お引き取り願いたい、というのがアンジェリーナの主張。
それについてはアンジェリーナの主観が強すぎ、権限を逸脱した行為に及んでいる。というのがマイケルの見解。そこに西崎が、
「シンシンのことを理由にして、不動のことを探るのが目的だろ。マイケル、あんたもそれは分かってたんじゃないのか?」
日本語でズバリと切り込んだ。
「不動兄弟がウィンガーであろうがなかろうが、協力する気がないやつには手を出さない約束だ」
「OH!No、No」
マイケルは目を見開き、大袈裟に首を振ってみせた。
「約束ハ守ル。私、アナタタチ、大好キデスカラ」
なんだか、かえって怪しく聞こえる、凪は苦笑いを浮かべたが、西崎は厳しい顔つきのままだ。
「シンシンが気に食わないってんなら、すぐに引き取る。でも、野宮れい子の情報提供はしてもらうぞ。そして、関係ない奴には二度と接触するな」
不動に関する西崎の指摘は当たっていたらしく、アンジェリーナは悔しそうに黙り込んだ。ジロリとそのアンジェリーナをねめつけてから、マイケルは頭を下げた。
「迷惑ヲカケマシタ。彼女ハ、シバラク日本二来サセナイ」
「ア、ちょっと、私、仕事だってあるのよ!」
「代ワリガイル。明日、アメリカニ戻レ」
マイケルの口調は有無を言わせないものがあり、アンジェリーナはそれ以上言い返せず、肩を落とした。
「ダイタイ、絵洲市ニハ来ナイヨウニ、言ッテマシタネ?ココハ特殊ナ場所デ……」
凪が小さく声を出したのをマイケルは聞き逃さなかった。向き直った目が、何かあるのかと聞いてくる。
「いや、あの、絵洲市に来るたびにトップサインに来てるって……さっき、聞いたもんで……」
アンジェリーナには悪いと思いつつ、正直に言うと、マイケルの眉が吊り上がった。




