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flappers   作者: さわきゆい
世界は混沌に満ちている
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世界を巡る者

 ミッキーこと、三木淳は不機嫌だった。

 このところ、何もかもがうまくいかない。物事の先を読み、人を利用し出し抜く。それは彼の得意技のはずだった。ところが最近は読みがことごとく外れ、予測した最悪のさらに斜め上をいく最悪の事態が起きている。


 エレナ・カーライル。彼女を預かったのがそもそもの間違いか。しかし、彼女は自分の手の上で転がされていたはずだった。

 室田光を見くびり過ぎたか。そう、翼を出した時のあらゆる能力の向上。それは性格の変化すらもたらす魔力があるらしい。しかし、それも織り込み済みで計画は立てたはずだった。まさか──彼がジャネットを殺すとは。

 ジャネット。そう、彼女が死んでしまったのは一番の誤算だった。

 暗示にかかりやすく、愛されていると信じて疑わなかったジャネット。単純そうに見えて、なかなかに抜け目なく、手足として、目や耳として優秀だった。


(あれほど忠実なしもべは……惜しかったな)

 胸を占める重苦しさはジャネットに対する愛情ではなく、今後、彼女の役割をはたせる人間がそばにいない、という苛立ちからだ。

 日本での失敗以来、ガブリエルからはしばらく目立つ行動は避けろ、と命じられたきり音沙汰はない。幹部連中は明らかに三木を避けている。触らぬ神に祟り無しということだろう。


 年が明けてからは、ダーウィン・ミッション全体がきな臭くなってきた。

 スポンサーだった富豪たちが次々と手を引き、数人の幹部が姿を消した。連絡のとれなくなったウィンガーもいる。

 何が起きているのかハッキリはしなかったが、三木の直感は「即時撤退」を告げていた。




「くそ、肩が凝るな……」

 不機嫌さを隠そうともしない足取りで指定されたホテルのエントランスへ向かいながら、三木は軽く首をそらした。

 そのまま素早く周囲に目をやれば、明らかに監視員と思しき人間がチラホラしている。ガブリエルの側近には顔見知りも何人かいるが……

(見たことのない連中だな。ウィンガー……でもなさそうだ)


 ここ数日、なんとかダーウィンから身を隠して逃亡しようと画策したものの、うまくいかなかった。

 ウィンガーの監視や身辺調査のためのノウハウはしっかりしている組織だ。それが自分にも適用されるなど、不本意でしかなかったが、この組織である程度の地位までたどり着いた人間を、そう勝手に手放してはくれないらしい。

 予想していた事とはいえ、その執拗さに三木が苛立ちを募らせる中、今日突然にガブリエルから呼び出されたのだった。

 直接会うのは、実に数ヶ月ぶりのことだ。


(監視していると悟られる時点で三流だな。ガブリエルのお付きとしてはお粗末だ)

 エレベーターのそばにいた男と目が合う。

 相手は分かりやすく目を逸らした。

「ふん、」

 聞こえるように鼻を鳴らしてボタンを押した。すぐにエレベーターの扉が開く。

 乗り込む三木の視線の隅で、おとこがスマホを取り出していた。

 待ち人が到着したことをガブリエルに伝えるのだろう。



 案の定、指定された部屋をノックすると、すぐに中からドアが開けられた。

「やあ、久しぶりだな」

 スイートルームのソファから立ち上がる様子もなく、ガブリエルは三木を迎える。

 すぐに三木を捉えたのは、奇妙な感覚だった。

 違和感──目の前の人物は、自分が知っているダーウィンのトップなのだろうか?


 元々、対してインパクトのある人間ではない。どこにでもいそうな、初老の男。だが、こんなに生気のない目をしていたか……

 やはりダーウィン内部で力の均衡が崩れつつあるのだろうか。ある程度予想はしていたが、この男に取って代わるとしたら誰だろう?最近、情報を遮断されていたせいで立ち回りに一歩遅れている感は否めない。

 さあ、ガブリエルはどう切り出してくるだろう……


「お掛けになっては?」

 背後からの声に三木は飛び上がった。

 そうだ、さっきドアを開けてくれた人物がいたではないか。

 なぜ、全く気にせずに部屋の中まで進んできたのだろう……付き人や使用人だとしても、どんな人間か確認しないなんて、普段の三木には考えられないことだった。

「紹介するよ」

 振り返る前に、覇気のないガブリエルの声が聞こえた。決められたセリフを棒読みしているような口調だ。

「息子だ。会うのは始めてだろう」









「状況が随分と変わってきたみたいだな」西崎がパソコンの画面越しにそう言うと、ヘンリーはいつも通りの爽やかな笑顔を見せた。だが、その表情とは裏腹に、

『ああ。こっちは政府や軍まで巻き込んで大騒ぎだよ。日本の方だって、飛び火がすごいだろう?』

 出てきた言葉はなかなかに物騒だ。西崎は小さく頷いた。

「人身売買のブローカーやら暴力団やら逮捕者は続出だな。まあ、そっちみたいに政財界の大物だの芸能関係者なんかは捕まってないから、思ったほど大きい混乱は起きていないよ」

 ここ数日のニュースを思い浮かべる。


 ダーウィン・ミッションによるウィンガーの人身売買の明確な証拠が提示され、それと共にダーウィンに出資していた各界の大物の名前が公表された。

 政治家、実業家、アーティスト……

 そのほぼ全ての人が、「自分はウィンガーの支援、保護のために出資したのであって、人身売買など知らない」と主張したが、ダーウィンが裏で何をしていたか、気がついていた者も少なくないらしい。


 ヘンリーの顔に思わせぶりな笑みが浮かんだ。

「大物、ね。どうかな。本当の大物はスケープゴートを差し出して、さっさと姿を消した、ってところじゃないかと思うけど」

「本当の大物?」

「僕の勘だけどね」

 ヘンリーは肩をすくめただけで、それ以上「大物」についての説明をしようとはしなかったが、スケープゴートが何を意味しているかは分かる。


「全部、ミッキーってやつに押し付けて終了か」

 つい昨日のニュースだ。その様子はライブで中継されていた。

「死人に口なしとはいえ、都合が良すぎるよね。取り調べで移送される途中に銃撃、即死なんてさ。犯人はすぐ捕まったけど、自称、人権擁護派の活動家ってだけで、全然情報が出てこない。まあ、ダーウィンはもう解散するしかないね。母体となった環境保護団体のレアライフにも捜査が入っているし」

 言いながら、ヘンリーは手元を操作している。カチッと、クリック音が聞こえた。

「現在、所在の分からないウィンガーのリスト送っといたよ。日本まで逃亡する奴はそういないだろうけど……なかには聖地に向かうウィンガーもいるかもしれない」

 西崎の憂いの表情を見てとったのか、ヘンリーはさらに続けた。

「一部にいるんだよ、あぁ、え〜と、──日本語で、オタクというやつかな。有名なウィンガーの足跡を辿ったりする趣味の」

「絵洲市は聖地じゃない」ぶっきらぼうに言い放ち、西崎はため息をついた。

「所在不明といえば、ミハイル・ブランもまだ見つからないだろ。どこかでウィンガーを集めている可能性はないのか?」


 世界中に手配書が回っているだろうミハイルの目撃情報が全くないとは不自然だ。よほど有能な協力者がいるか、あるいは捜査情報が秘匿されているのか……

 前者である場合、またなにか事件を計画している可能性が高い。


「今のところ、そういう話はない。もちろん、軍やアイロウもかなり警戒はしているよ。内々で移動制限も出ているし」

「そうなのか。日本ではまだ何もないな」

 ヘンリーは思わせぶりに視線を外して腕を組んだ。

「オトヤ、内々に、だよ。多分、日本のウィンガーも海外旅行に行こうとしたら、いつも以上に手続きに時間がかかるだろう。予定通りに旅行に行けないくらいに。精密な健康診断が必要になって、病院に隔離されている国もある。そういうことだよ」

「あ?」

 あからさまに不機嫌な声を出した西崎を宥めるように、ヘンリーはヒラヒラと手を振った。


「世界の現状はそんなもんさ。今のところ、僕たちにまでは適用されてないけど、動きづらくはなってるな。そこで、君たちの力を借りたいんだよ。えと、日本語では手を借りる、というんだっけ?今回の場合はどちらかというと、足、なんだけど」

 この頃、日本語に興味を持っているらしいヘンリーは、ちょいちょい妙なフレーズを挟んでくる。西崎はそこの部分は深く突っ込まなかった。


「どこかに行って欲しいってことか?エレナを引き取ってもらった借りもあるしな。オレで出来ることは協力する」

「エレナ?ああ、彼女は僕たちにとっても収穫だったから、気にしないでくれよ。数少ないアーククラスだし。でも、協力してくれるのはありがたいね」

 ヘンリーは神妙な面持ちで前に乗り出してきた。




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