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flappers   作者: さわきゆい
第4章 嘘と沈黙と憧憬
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日々は続く ③

「ここの何人かは会ってるけど、ヘンリー・ってやつが身柄を引き受けてくれた。あいつらも隠れウィンガーの集まりでな。ただ、オレたちと違って、明確な目的を持った組織だ」

 様子からして、ヘンリーたちの「組織」について、すでに知っているのは本郷だけだ。


 凪は隣のマスターのグラスを磨く手が止まったのを見た。

(そうだ……ダーウィンと莉音ちゃんのことも、全然解決してない……)


「正直、バックについてるのがヤバくてな。あまり深く関わると、伊達守さんでも手に負えなくなる。接触するのは、オレと宙彦だけにしておくつもりだった」

 西崎の言葉に、莉音のことに思考を取られそうになっていた凪は、ハッとした。

 言っている内容よりも、その声音に含まれた響きが脳をざわつかせた。


 西崎が悩んでいる。それは、凪の感覚的には、もっとも西崎に似合わない姿だ。

 カウンターの中からは、西崎の表情は見えない。伸ばした背筋に緊張は見えなかったが、容易に人を―本郷さえも―近づけさせない空気があった。


「え、なに?はっきり言ってよ。なんなの、その人たち」

 暦美の口調には、明らかに強がる響きが出ている。チラリと凪の方を振り返った目には不安の色があった。


「コミはマイケルと会ってなかったよな」

 西崎はそう言ってから、千坂の方にもうなずいてみせる。

「誰だっけ?」

 首を傾げる千坂に、

「デカい黒人の人でしょ?話だけは聞いてるけど?」

 暦美が言うと、千坂も

「ああ〜」

 と頷く。

「思い出した。アーククラスのウィンガー集めてるとかいう人だろ。オレも会ったことはないけど」

「そう。マイケル・ガードナー。実は、向こうの軍と繋がりがある」


 一瞬の沈黙の後、

「ぐん?」

 首を傾げて乗り出したのは海人だった。

「Army」

 言い直された言葉に、パチパチと瞬きをした海人の目が見開かれる。

「嘘だろ?」


「え、なに、国が隠れウィンガーの組織を認めてるってことか?」

「ちょっ……私たちのこともバレちゃってるってこと?!」

「軍が関係してるって、どういうことだ?」

 ざわつきと共に一斉に質問が上がった。

 西崎は無言のまま、それが落ち着くのを待った。


 本郷は今日は口数が少ないまま、ノートパソコンの画面を見ている時間が長かったが、その画面をみんなが見やすいようにカウンターの中央へ押し出した。

「うぅわ……」

 すぐに声を発したのは暦美。

 画面には大きく映し出されてた顔は伊達守進之介だった。


 凪は画面の後ろしか見えなかったから、カウンターを回って出て行こうとしていたが、

『Hi,Everyone!』

 と発せられた声が進之介だと気付き、移動するのをやめた。わざわざ見たい顔ではない。

「なんか、相変わらずムカつくな」

 真壁の呟きに、大きく頷きそうになるのを堪える。


 テレビ電話ではなく、録画らしい。進之介は一方的に喋り出した。

『うちのダディ経由で話は聞いてるぜ。あの室田が連続殺人犯とは、アンビリーバボー。ビッグ・サプラーイズ!だ』

 暦美の顔が険しくなり、その拳がプルプル震えた。

『で、そこにアメーリカンのウィンガーも関わってるって?だから急いで帰国しろってオーダーがかかったけどさ、そんなことに動じるシンシンではなーい!』


「これ!最後まで見なきゃダメ?!」

 立ち上がった暦美が画面を指差す。声を聞くだけでも、凪もゲンナリしていた。

「耐えろ」

 だが西崎にあっさりいなされ、暦美はため息をついてカウンターに寄りかかる。

 他のメンバーも、なんとも微妙な表情で画面を見ていた。


『我らがティーチャー、レイコ・ノミヤについて、全てを暴く絶好のチャーンス!オレの存在を奴らに知られちまう?オーイェイ、むしろこちらから出向こうぐらいの、気概がオレにはあるぜ!フー!』

 進之介の高笑いが響く。

『で、オレ、それっぽいところにメールしてみたわけよ』


「マジかよ」「バカじゃない?」という囁き声が漏れた。


『レスポンスは早かったぜ〜、もう、会ってきたぜ、ヘンリーとマイケル!』

 ところどころ、妙に発音のいいところが、凪には気に障った。

(昔から―こういうヤツではあるけれど……恐ろしいマイペースだな)


『早い話が、協定を結んできた!うちのダディの了解も取り付けてある!ニッシーもいずれ、そういう取引をするつもりだったんだろ。というわけで、America側の窓口はオレがやらせてもらうぜ。じゃあ、またな!』

 録画はそこまでのようだった。


「一昨日の夜、いきなりこれが送られてきてな……向こうは、ダーウィンやれい子先生についての情報をオレたちよりも持っている。実際に、何が起こっていたのかも、おそらく掴んでる。オレとしては―オレと宙彦のウィンガーとしてのデータと引き換えに、その情報を手に入れる交渉をするつもりだった。それが―」

 西崎の長い指がコツコツとパソコンを叩いた。


「シンシン、大暴走」

 千坂が苦笑いしたが、凪のところから見えた西崎の横顔は苛立ちよりも、沈んで見える。

 それは本郷も同様だった。


「シンシンはああいう言い方してたけどな、実際は伊達守さんの意向だと思う。マイケルたちから出された提案は、れい子先生のアメリカでの研究内容、その共同研究者たちに関する情報を提供する代わりに、野宮れい子クラスのウィンガーたちのデータが欲しい、ということ。ただし、協力を望まない者に関しては強要はしない。もちろん、ウィンガーであることを公表したり、生活に支障が及ぶようなことはしない。今まで通りの生活が保障されることが大前提だ」


「それって……かなり私たちに有利な条件じゃない?嫌なら嫌って言えばいいんでしょ?」

 暦美に向かって頷いたのは本郷だった。

「オレと音十弥、シンシンが協力することはもう伝えてある。それに、エレナ。あと悪いけど、登録者に関してはアイロウに登録されたデータが全て向こうにも提供される」

 海人は少し顔を引き攣らせたが、真壁はフン、と鼻を鳴らしただけだった。


「だから、それ以外のみんなに関しては、今までと変わらずに過ごして、それで構わない。伊達守さんが、これに関して、日本国内の問題を全て処理することを条件に、ここまでの譲歩を引き出した」


 そう聞くと、さっきの進之介の騒がしい動画も、別の見え方がしてくる。自らと父親が盾になって、同級生たちを守ったわけだ。

 ただそれでも、進之介のスタンドプレーは走りすぎのきらいがあった。

「もう少し慎重に駆け引きするべきだと思うけどな……まあ、ここまで決まってしまったのはしょうがない」

 本郷はパソコンを閉じ、自分のそばへ引き寄せた。


「本当に、私は関係ありません、知りません、でいいの?というか、それで通じるワケ?」

 暦美は凪の方へ同意を求める視線を送りながら言った。凪はあやふやに首を傾げるしかなかった。

 暦美の視線の先を追うように、西崎が凪の方を見る。かすかに、憂いの表情が見えた気がした。

「誰がウィンガーになっているか、向こうには教えてない。エレナにもそう言ってあるが―あいつが本当に黙っているかどうかは疑問だ。あいつ、当時のクラスに不満が相当あったみたいだからな」

「エレナ・モリィ?今回のことで、いろいろ話は聞いたけど、嫌な女になったわね。まあ、昔から私はあんまり好きじゃなかったけど」


 口を尖らす暦美を見ながら、

(その感じが、昔もエレナちゃんに伝わっていたんだと思うな……)

 凪は確信した。再会しても、暦美とエレナが仲良く語り合うには時間がかかりそうだ。

 エレナが他の同級生たち会わないままでアメリカに帰ったのは、正解だった気がした。


「今のところは伊達守さんが間に入ってくれたこともあって、向こうはオレたちの希望には沿ってくれるようだ。それが続くように願うしかないな」

 西崎の言葉に、ため息混じりに全員が頷く。今はそれで納得するしかない。全員がそう理解した。

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