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flappers   作者: さわきゆい
第4章 嘘と沈黙と憧憬
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告白 ⑤

『これが、オレがやってしまったことです。……黙ってれば、バレないで済むかな?』

小首を傾げてそう言った室田は、軽く目を閉じ、

『ん……と、』

と少し間をおいてから、また真っ直ぐにこちらを見た。

『さっきさ、ニュース見たんだ。先生の遺体が見つかったって。まだ身元不明の白骨死体、ってなってるけどね。多分、身元はすぐに分かる。

 あー、きっと詰んでるよね、オレ。だから、みんなに本当のこと、話しておきたくて。


 一応ね、これからも、もうちょいジタバタしてみるつもりだけどね。

 ジャネットが色々嗅ぎ回って、オレのこと調べ上げるの時間の問題だと思った。だから、早めに行動したんだけど。

 でもまだエレナがいるんだよね。


 エレナがジャネットからどのくらいのこと聞いてるか、分からない。あの2人、あんまり仲良くないみたいだから。でも、時間の問題かな……

 エレナも、花に喋れなくなった頃のこととか聞いてるっていうし、結構勘づいてるんじゃないかな。うん、だからね、エレナのことも早くなんとかしなきゃって…。今、思ってる』


「やっぱり私のこと、殺すつもりだったのね。でも、それがヒカルだとは私、思わなかった」

 エレナは呆然と呟いた。

 実際に銃撃され、本人の告白を受けてもまだ、信じられない様子だ。

 画面の中の室田は不満気に眉を寄せていた。


『アイツ、そのダーウィン・ミッションとかいう人たちの中でのし上がるのに必死みたいでさ。

 人になんだかんだ命令する割には、ちっとも言うこと聞いてくれる人間なんか周りにいないんじゃないかな。

 いっつもエラそうにして口出して来てさ、完全にオレのこと見下してんの』


 エレナが文字通り口をぽかんと開けたまま固まっているのは気の毒なほどだった。

 室田の言う通り、彼女は自分を人を利用する側の人間だと思っていたし、そうして思い通りに室田を操っているつもりだった。


『エレナは生かしておいたら、絶対、西崎くんたちの邪魔になる。だから、オレ絶対、エレナのこと殺すよ』

 室田は画面を真っ直ぐ見て、ハッキリと宣言した。

 その眼差しは、凪には衝撃だった。

 翼のない状態の彼が、こんな話し方をするのを、生きている間に見たことはない。

 言ってから照れくさくなったのか、視線を落とし髪の毛をいじる姿が、どうにも憐れに思えてしかたなかった。


「何言ってんの……ねえ、室田、何言ってんのか、オレ、分かんねえよ」

 それまでじっと黙っていた海人が搾り出すように声を出す。

「オレも分からん!まったく分からん!」

 即座に蝦名が続いた。


『でも、さすがにアーククラスを正面から相手はムリだからさ。エレナ、飛べるし。これ、見られてるってことは、オレが拳銃持ってるのもみんな知ってるよね。これなら、遠くから狙えるから……あ、入手経路は……言わないでおくね、いろいろあって……多分、すぐ分かっちゃうけど……え、と、なんだっけ……あ、つまり、その……エレナを狙うつもりで手に入れたんだ、これ』 

 室田の手が画面に映らないテーブルの端の方を叩く。そこに銃が置いてあるらしい。


『練習とか、さすがに出来ないけど……翼を出せば、なんとか扱えるかなって。オレ、翼を出すとなんでも器用に使えるようになるから……

 じゃあ、これから西崎くんたちと合流したいと思います。

 もし、失敗したら……その時はオレ、もうアウトだよね。

 今までの人殺しも、全部バレると思うし』

 室田はしばらく沈黙した。


『みんなの役に立てればいいんだけど……もしかしたら、迷惑かけるだけになっちゃうかも。ごめんなさい。

 あと……こんなこと頼める筋合いじゃないんだけど、花のこと、お願いします。

 お金とか、通帳とか、そういうのは全部花がわかる場所にあるから。できれば母さんのところに引き取られないといいんだけど……

 もし、母さんと暮らすことになったら、なんとかお金だけでも……母さんが自由に使えないようにしてください。お願いします』

 室田は深々と頭を下げた。

 それから、録画を停止しようとする動きをしたが、途中でもう一度画面を正視した。


『あ、これも……言っておかなきゃいけなかった。もう1人、オレ、殺しちゃってます。

 渡辺さん、っていう人。ジーズ・バーに来てたお客さん』


 全員が息を飲んだものの、それほどの驚きはもうなかった。

 西崎や本郷はすでに予想していたらしく、今日何度目になるか分からない長いため息をついている。

 凪も今までよりもその告白に衝撃を受けることはなく、むしろ納得している自分に気付いた。ただ、相変わらず「なぜ」という疑問はつきまとう。

 だが、今回については、室田はあっさりとその疑問を解消してくれた。


『あの……ごめんなさい。オレ、ジーズに盗聴器仕掛けてて。カウンターの下。後で外して……ください。

 エレナに情報流すために。あ、でも、知られても良さそうなことしか教えてないよ……

 正直、仕事で嫌なことあった時とか、ジーズの近くまで行って、みんなの会話聞いてるとホッとしたりして……

 あの日は……だいぶ遅い時間だったけど、誰かいるかなって……盗聴してみたら、元太さんと渡辺さんの会話が聞こえたんだ。

 なんか、変な空気なのは聞いてすぐ分かった。もしかしたら、元太さんが何かされるんじゃないかって……そのまま聞いてたら、あの人、れい子先生の失踪とか、元石さんの事件とか調べてることが分かって……この人、ヤバいって……

 店を出たところを追いかけて、人気のないところで首絞めた。

 危なかったよ。オレが尾行してるのに気付いてたみたいでさ。格闘技とかやってたのかな……動きがオレが見ても違うって、分かるくらいだった。先に翼を出してなきゃ投げ飛ばされてたかも』

 室田は目を伏せて、しばらく考えてから、ノロノロと口を開いた。


『あとは……言っておくことはないと思うんだけど……多分。

 なんとか……この状態乗り切って、また今まで通りに暮らしていければなって思ってる……そんな都合よくいかないかな……』

 自嘲気味の殺伐とした笑みが浮かぶ。頼りな気に揺れる瞳は、子供の頃の室田そのままだった。

 この状況を乗り切って、とは言っているものの、その顔には悪い意味で吹っ切れた相が出ていた。

 諦めと、無気力。そのくせ、エレナを殺すことには執着があるらしい。

 凪にはその思考は理解できなかったし、ここにいる誰も理解できるとは思えなかった。


『じゃあ、みんなありがとう。西崎くんや本郷くん、小宮山さん、一ノ瀬さん、蝦名くん、真壁くんや高野くん、伊達守くん、それに水沢さん。こんな人たちと、一緒に喋ったり、相談に乗ってもらったりできるなんて、オレ、嬉しくて。みんなの仲間になれたみたいで、すっげえ楽しかった、です。

 オレのしたことが、少しはみんなの役に立ってるといいんだけど……

 あ、あと元太さんにもよろしく。盗聴機のこと、謝っておいてください』


そうして画面は動かなくなった。



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