告白 ④
室田の背中から翼が消えた。
どっと疲れが押し寄せたらしい眼差しで、室田は大きく息をつく。
『はあ……限界』
そう言いつつ笑った。翼を出している許容時間が過ぎたのだろう。だが、その笑みには、まだ不遜さを感じさせるほど得意げな様子が見て取れる。
『あの後、さすがにぼーっとして……気がついたら、暗くなってた。玄関のドアが開く音でハッとして……そしたらバタンって。そっと覗いたら、先生の旦那さんが倒れてたんだ。すっげえ酒臭くて、酔い潰れてた。
先生の家にいた時も、何回かそういうことがあったんだよ。その時はオレが酔っ払ったおじさんを寝室まで運んで……れい子先生は手伝わないんだ。室田くん、助かるわ〜なんて言ってさ。おじさん、次の日には全然、覚えてなくてね。そういう時は申し訳なさそうに、オレに謝ってきた。
多分、この時も、目を覚ましたら、どうやって家に帰ってきたかも覚えてないと思ったんだ。で、目を覚まして状況を見たら、って。
すごいチャンスだと思ったんだ。
リビングにおじさんを運んで、先生の死体の喉におじさんの手を当てて。
おじさんが本当に信じるかどうかはカケ、だったけど……なんとか押し切ろうと思って。
頃合い見て、声かけて起こしたよ。おじさん、パニックだった。そりゃあね、隣に先生の死体があるし、誰だか分かんない男はいるし』
室田は苦笑しながら頬杖をついた。
『オレのことは、なかなか思い出せないみたいだった。ちゃんと名乗ったんだけどね。酔っ払ってたせいもあるだろうけど……
とにかく、早く死体を始末しようって急かしたよ。おじさんも警察に通報しようなんて、思いもしなかったみたい。
先生は2日後にアメリカに行くことになってるって言ってたし、いなくなっても、しばらくはバレないからって。
どこかに運ぼうと思ったけど、おじさんは庭に埋めるって言い出した。ちょうど、庭に物置小屋か何か作ろうとしてて、コンクリートの土台を作る予定だからって。
2人で穴掘って、死体を埋めたんだ。
その頃にやっとおじさんは、オレのこと思い出してね。なんでここにいるのかとか、どうして死体を隠すのを手伝ってくれたのかとか、そこから質問が始まってさ。「友達から先生が学校辞めたって聞いて、顔見に来た。玄関が開いてたから、覗いてみたらあんなことに」って。割とスラスラと作り話が出てきたよ。
こんな事件に関わって、また大騒ぎになるのは嫌だ。オレがここに来たことを黙っててくれれば、オレも事件のことは喋りません、って。
おじさん、わけが分からないって顔してたけど、オレが写真も撮ってたしね。言う通りにするしかなかったんだ。それでも……ずっと心配だったよ。おじさんが警察に行って、死体掘り返されたりしたら、きっとオレの指紋とか出ちゃうしさ……
でも、何もなく一年以上過ぎて。
高校1年の夏休みに、また花に会いに行って、その帰りに……気になってまた先生の家の前まで行ったんだ。
インターホン鳴らしても出なくて……なんか雑草とか生えまくってるし、様子が変だなって思ってたら、急に後ろから声かけられたんだよ』
「元石か──」
西崎の呟きに凪はハッとした。
絵洲市に戻って来ていたことを知られたくなかった室田。
──そこにいたことを知られたくなかったから──
なぜ知られたくなかったのか。それは……
『若い男の人。その家の人はいませんよって。知り合いですか?って聞かれて……反射的に全くんの名前を答えてた。
さすがにあの家の前まで行くと、罪悪感っていうの?感じたからかな……
その人、れい子先生のことを知ってて、おじさんも行方不明になってるって教えてくれた。
それで……少し話すうちにその人が、れい子先生とウィンガーの関係を調べてるらしいのが分かってきて……オレ、思わず教え子だって言っちゃった。どうせ、全くんの名前出してるしって……
そしたら、すごく食いついて来てね、何かあったら連絡して欲しいって名刺までくれたよ。
まさかと思ったけど、アイロウの職員だったんだ。それで……思い出したんだよ、隠れウィンガーの調査にアイロウが乗り出すって、ニュースになってたの。
ホント、オレ、気がつくのが遅いよね……
先生の教え子だって言ったの、ヤバイ、ヤッちまった〜って。
その元石ってアイロウの人と別れた後も、焦って焦って……なんとかしなきゃって。
で、思いついたのが、早く殺しちゃおうって』
「ぅうん?」
凪は思わず頭を抱えた。
およそ、理解できない発想だ。
あまりにも短絡的で、愚かとしか思えない思考回路である。そして、室田はその通りに行動を起こしてしまったのだ。
『最近、れい子先生と連絡を取った同級生がいました。今からなら会えますって、元石さんに連絡したよ。地下鉄駅の近くの中古車屋、あの頃は周りにあんまり建物もなくてさ。元石さんが泊まってたホテルも近くて、呼び出すのに良かった。
この中古車屋でその同級生がバイトしてるんだって言って、道路から見えない場所まで連れ込んで──翼を出して、後ろから首羽交締めにして。
ははっ、そしたら、参ったよ。相手もウィンガーだなんて思わなかった。
向こうも翼を出して振り払おうとしたから……よく覚えてないんだけど……思いっきりあの人の翼を引っ張ったんだと思う。
すごい音がして……いや、実際に音が聞こえたと言うより……衝撃?指先から耳まで、ガーン!って。
すぐ元石さんの翼は消えたけど、すごい悲鳴あげて……黙らせなきゃって、そのまま思い切り首を絞めた。
動かなくなるまで、必死に締め続けたよ』
室田は深くため息をついた。
『これが3件目』




