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flappers   作者: さわきゆい
第4章 嘘と沈黙と憧憬
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告白 ③

『はい、これが一件目の殺人の話でした』

 室田は飄々とそう言って、笑顔を見せた。

 画面を見ている方は誰も笑うはずもない。ただ全員、画面を凝視していた。


『それから―事件の後に、れい子先生の家でしばらくお世話になってたのは言ったよね?その後、すぐに転校しちゃったから、みんなとは会えなかったけど……家でのれい子先生って、なんていうか……ちょっと、変な感じがしたんだ』

 室田は言葉を濁し、少し考えるように言葉を切った。

『あの時は本当に、れい子先生がいてくれてよかったと思ったよ。警察の人との間に入ってくれたり、学校の連絡とかも全部先生がやってくれたし。

 ただ……先生の旦那さんは、オレたちのこと預かるの、乗り気じゃなかったらしくて。まあ、当たり前だよね、そんな厄介ごとに巻き込まれた他人の子供預かるなんてさ。けど、旦那さんは完全にれい子先生の言いなりって感じでね―オレと花には、声もかけてこないけど、別に文句を言ってきたりするわけでもなくて。でも、時々飲みすぎると、れい子先生に絡んでさ、そうすると、れい子先生がすっげえ嫌な顔して。

あんな顔、学校では見たことなかった。全然―いつもの先生の雰囲気と違って、旦那さんを見下してる感じ』

 頭をかきながら、室田は軽く咳払いをした。


『その後、オレと花は別々に暮らすことになって。オレは県外のばあちゃんに引き取られたんだけど、中3になる前の春休みに花の様子を見に行ったんだ。花はずっと絵洲市にいたんだけど、その頃には声が出せなくなってて、学校も休みがちだって聞いたから……その帰りに小学校の近くに行ってみたら、(ぜん)くんに会ったんだよ。覚えてる?高橋全くん。オレと結構仲良くしてた―それで、れい子先生が学校辞めたって、教えてくれたんだ』


「聞いたことあったか?」

 西崎が小声で聞く。本郷をはじめ、蝦名も海人も首を振った。

「全くんと親しくしてたのって……あんまりいないよな、元々大人しいヤツだったし、部活も入ってなかったし」

 海人の言葉に、今度は一斉に首が縦に振られる。


 凪は教室の片隅で、ボソボソと話をしている室田と高橋全を思い出していた。

 いつも集団の片隅で、中心にいる子たち―西崎や本郷、暦美といった―活動的で積極的な子たちを窺っている側の子たち。

 ふと、子猫を抱いた室田と全の姿が浮かんだ。

(そうだ、子猫をこっそり拾って学校の裏に隠してたの、あれ全くんじゃなかったっけ……)

 凪が全のことで思い出せるのは、それが唯一のエピソードと言ってよかった。


『オレたちのクラス受け持った後、担任外されたのが気に入らなかったんじゃないかって、全くんは言ってた。なんかねー、それ聞いたら確かめたくなったんだ。もしかしたら、れい子先生、逃げる気じゃないかなって。それで家まで行ってみたよ。もう、夕方になってたから、多分家にいるんじゃないかなって。そしたら、地下鉄の駅出た途端、先生と会えてさ。ていうか、先生の方から気付いて声かけてきた』


 パン!と室田は手を叩いた。

『これはもう、とことん聞いてやれ!って思った。もう、その時は、ウィンガーになったことも話そうって決心してたんだ』


「悪い展開しか予想できない」

 思わず凪は呟いていた。西崎がため息をつき、桜呼は目を閉じた。海人は助けを求めるように周りを見回していてが、誰もそれに応えることはなかった。


『ねぇ、みんな。先生のこと、疑ってたよね?オレ、実は本当のこと、とっくに知ってたんだ。この時、れい子先生が全部話してくれたんだよ。

 先生は喜んで、オレを家に入れてくれた。あの事件の後の生活のこととか、いろいろ聞いてきたよ。オレも聞いてみたんだ。なんで、あの時、オレたちを引き取って短い間とはいえ、面倒見てくれたのかって。もしかして、事件で不安な気持ちのオレらが、ウィンガーになることを期待してたの?って。

 先生は笑って受け流そうとしたけど、オレが翼を出してみせたら―黙ったよ。それから―笑ったんだ』

 室田はどこか遠いところを見る眼差しで続けた。


『笑ったんだよ。本当に……嬉しそうに。気持ち悪いくらい、嬉しそうに。「室田くん、素晴らしいわ。ああ、なんて美しいの!」だって。その後、興奮して英語でなんか喚いてたな。

 このテンションだと、簡単にペラペラ喋りそうだと思ったから、「この翼手に入れたのって、先生のおかげ?」って、思い切って聞いたよ。そしたらあっさり、「まあ、そんな感謝なんかしなくていいのよ」だって。

 ねぇ、みんな、どう思う?』

 室田の目が次第に見開かれる。その動きが止まった。


 再生を止めたのはエレナだった。

「ちょっと……待って。私……混乱してる。ヒカルは、私よりも先にレイコの秘密を知ってたの?私に、何も言わなかったのに?」

「ああ、俺たちの中で、1番先に真実を知ってたんだ。でも、言えなかった」

 西崎はその先の事実を、もう覚悟しているようだった。

「少し休むか?どうする?」

 西崎の言葉に、誰も頷きはしなかったが、かと言って積極的に続きを聞きたいという空気もない。

 再生をクリックしたのは花だった。


『―先生は、自分がやらかしたなんて、これっぽっちも思ってなかった。ウィンガーは、最高の生物なんだって。

 人類は一つ上の次元に行くんだとか、私はそれを導く役目を与えられたとか……はは、カルト宗教かっていうようなこと、得意そうに喋り続けてたな……挙げ句の果てに、宇宙だの、星の巡りがどうのこうのって。オレ、聞いてるうちにイライラしてきてさ。

 結局なんなんだよ、みんなに何をさせたかったんだよって問い詰めた。

 そしたら「世界に私たちの理論を証明するの」って言うんだ。

 ウィンガーを作る方法を先生は見つけたって言うんだよ。でも、思ったより時間がかかって、2年間で結果が出せたのは2人だけだった。

 同時にウィンガーになったっていうことで話題にはなったけど、偶然で片付けられてしまって、その後、安西さんと不動くんの弟が続いたけど、安西さんは殺されちゃって。その後は誰もウィンガーにならなかった。

 安西さんが殺されたことで、先生、自分の命の心配もしてたらしいよ。それで、ちょうど準備も出来たし、日本を離れることにしたって。

 そんな時にオレが「ウィンガーになりました」って現れたもんだから……先生のテンション爆上がりしたんだね……オレに、一緒にアメリカに行こうとか言い出した。それから、同じクラスだったみんなに面談しなきゃって……オレみたいに、隠れウィンガーになってる子がいるかもって……しまった、って思ったよ。

 もし、他にもウィンガーになってる人がいたら、どうするのって聞いたら……』


 室田が息を吸い込む。吐息が震えるのが聞こえた。

『世界中に公表するっていうんだ。「私が作り出した、最高に美しいものを、世界中にみせる」って。―冗談じゃない!!』

 室田の声量が上がり、全員がビクッとのけぞった。


『さんざん、勝手なことばっかり言ってた。公表した後、みんながどうなるかなんて、あの人は考えてなかった。生徒思いの、優しい先生なんていなかった。あの時、オレたちを助けてくれたのも、ウィンガーになるかもしれないって、下心があったからだ……ははっ……あの後、オレ自分が何言ったか覚えてないや。

 先生の首に手をかけて、最初に人を殺した時を思い出した。一瞬で殺せるって、もう分かってた。あっという間。先生、笑ったまま死んだよ』


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