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flappers   作者: さわきゆい
第4章 嘘と沈黙と憧憬
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急展開 ③

 あまりに滑らかで.素早い動きだったので、凪も動くことすら出来なかった。

 翼を出した状態なら、対応出来ただろう。だが、室田がここで翼を出すなど予想できなかった。


 店員が顔を出した瞬間、全員がそちらに意識を向けたのタイミングを室田は逃さなかった。

 翼を出すと同時に右手を上着の中に滑り込ませ、拳銃を取り出す。マイケルの手にあるものより小型で、手の平に収まりそうな物だ。さっきの発砲がなければ、オモチャだと思ったかもしれない。

 銃口はピタリと女性店員へ向けられていた。


「もう一挺あったのかよ……」

 流石に西崎もそこまでは予想してなかったのだろう。だがすぐに振り返り、

「水沢、中に戻れ!」

 低くそう言うと、動けずにいる凪の前に立ち塞がった。


「え……あ……」

 翼を出せば、室田からあの銃を奪えるだろうか……

 パニック気味の頭で凪は必死に考えた。

(多分、五分五分……)

 翼を出した瞬間に、室田へ飛びつくなり、体当たりすることは可能だ。だが相手は翼を出した状態のウィンガー。


(室田くんの反応スピードがどのくらいか予想できない……)

 自分が撃たれる分には―なんとか致命傷にならないくらいには躱せる。だが、他の人なら……まして、今狙われてるのは普通の人だ。無傷で救出できる可能性は低い。そんなリスクは犯せない。


「室田くん!なんで?!」

 気がつけば叫んでいた。

「どうしてこんなことになるの!もう、やめてよ!」

「水沢!」

 前へ出ようとする凪を西崎が腕で押し留める。


 銃口はそのままに、室田が凪を振り向いた。

 その顔に、ふっと笑顔が浮かぶ。

(え……?)

 その笑みはひどく場違いに穏やかで、幸せそうで、そのくせ悲しそうだった。

 言葉を飲み込んだのが自分だけではないことを凪は感じた。それは、ほんの一瞬のこと。


「本当にごめん。花のこと、お願い」

 室田の言葉を、凪が理解する暇はなかった。

 パン!

 先ほども聞いた破裂音。

 次の瞬間起きたことは、凪には全てが同時にスローモーションで進行していくように見えた。


 倒れていく室田。

 駆け寄る西崎と本郷。マイケルとヘンリーも続く。

 店員の悲鳴。

 誰かの怒号。

 室田の体の下に広がっていく赤黒い液体。


 目の前が、その黒ずんだ赤に覆われていく。

 気がつくと。凪は地面に座り込んでいた。

 体が―肩が重い。エレナが抱きついているからだと分かるのに、数秒を要した。彼女は声を出さずに泣いていた。


 エレナの肩越しに見える地面に、跪く西崎と本郷がいる。2人の間で、かすかに動く手があった。

「室田!すぐ救急車来るから!しっかりしろよ!」

 室田の右脇腹を抑える本郷の手は、赤に染まっている。


「ムリ。ちゃんと……肝臓撃ったもん」

 不思議とはっきりとした口調の室田は、むしろ得意げに笑った。

「頭……頭やると、後で花が……見た時、ショック受けるかと……って」

 室田はそこで精一杯息を吸った。

 西崎が起きあがろうとする室田を制する。

「今はいい。喋るな、動くな」

 だが、室田は西崎の手を振り解くようにして、人差し指を伸ばした。


 指の先には、凪とエレナ。

「もしかして……オレだって……気づいてなかった……?」

(そりゃそうだよ。室田くんがこんなことするなんて、思ってるわけない―)

 凪は言い返そうとして、うまく声が出なかったが、ふと室田の視線はエレナに向いていることに気がついた。


「オレ……オレが……ここまで出来るなんて……思ってなかったでしょ……」

 室田の顔は白を通り越してくすんだ青になっている。生きている人間の顔色ではなかった。

 クスクスと、室田は笑った。肩が震えて、血が吹き出す。

「室田、もう……」

 声をかけた本郷は、その目の焦点がすでに合っていないことに気付いて声を詰まらせた。


「オレだって……」

 室田の声が急速に細くなる。

 力を失った瞼が落ち、半眼のまま、首がカクンと落ちた。

「室田!」

「室田!しっかりしろ!」

 必死に呼びかかていた西崎が、一瞬上体をふらつかせ地面に手をついた。


 何人もの叫び声、悲鳴。

 その中に自分の声も混ざっていたはずだが、何を言っていたのか凪はよく分からなかった。


 室田光は二度と目を開けることはなかった。

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