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flappers   作者: さわきゆい
第4章 嘘と沈黙と憧憬
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出発

 全員に気だるげな空気が広がっていた。精神的な疲労がだいぶ溜まっている。

 まだ他にも盗聴器や発信機が仕掛けられているのではないかと疑うのは当然のことで、エレナと凪は庭にいた。

 雰囲気とは裏腹に、穏やかな天気で日差しが心地よい。


 マイケルはもう一度、盗聴器チェックをすると言って、家中を歩き回っていた。

 ヘンリーは凪たちから少し離れて、相変わらずパソコンをいじっている。だが、そうしながらも油断なくエレナの様子を窺っていることに凪は気付いた。

 エレナの動きを警戒しているのか、エレナに何か起こることを警戒しているのかは分からない。

 顔を上げたヘンリーと目が合って、凪は慌てて視線を逸らした。


 外で警察に状況を説明していた本郷と西崎が戻ってきた。

「パトロール強化してくれるって。被害があったわけじゃないから、積極的に捜査は難しいらしいけど」

 本郷はやれやれといった様子で、凪のそばにしゃがんだ。


「いいじゃない。犯人が捕まったら、この家がウィンガーの隠れ場所ですって話されちゃうわ。ねぇ、今のうちに逃げましょうよ。もう出られるんでしょ?」

 エレナが苛立った声をあげる。

「お前、殺されるかもって心配してるくせに、それでいいのか?相手をなんとかしないと、一生逃げ続けることになるんだぞ」

 そう言う西崎をエレナは睨んだ。


「あなたたちのために言ってるのに。ここのことがバレて困るの、あなたたちでしょ」

「恩着せがましいな。オレは、逃げるだけで終わりにしたくないなら、反撃の手段を考えろって言ってるんだ」

「反撃なんて―」

「ほらほら、大きい声出さない。周りに聞こえるぞ」

 本郷が西崎とエレナの間に割って入る。


「あのさ、あのバイクの人、ここにいる全員がウィンガーだって、分かったかな?」

 凪も話題を変えようと、そう問いかけてみた。相手はマイケルクラスのウィンガーだ。翼を出していない状態でウィンガーだと判別できるのは、アーククラスかシーカーの能力を持つ者だけのはず。


 少し考えてから、西崎は口を開いた。

「どこまでここの情報が向こうの手に入っているかだな。昨日今日で、ここの正体がバレるとは考え難いが」

 意見を求められたヘンリーの答えは、

「知り合いの英会話教師のところに転がり込んだと思われてるはず。私達の正体はそんな簡単にバレない、とさ」

 と、西崎がら通訳してくれた。ヘンリーは当たり前の返事を返した、という顔だ。


「そういやお前、翼、なんで隠しておかないんだよ」

 本郷に言われたエレナは、最初、言われた意味がよくわからないようだった。


「あ……もしかして、エレナちゃん、知らない……?」

 遠慮がちに言った凪は、あからさまに顔を歪めたエレナに、慌てて言葉を繋いだ。


「あのね、今の状態だとあたしたちエレナちゃんがウィンガーだつて、分かっちゃうんだよ。エレナちゃんは、あたしたちがウィンガーだって、分からないでしょ?」

「え……なんで……」

 やっと意味を理解したエレナが、絶望的な表情になる。


「もしかして、アーククラスだったら自然に翼が隠せるっていうか、アーククラス同士でもバレないって、思ってた?」

 凪を見るエレナの顔は、絶望から怒りの表情を刻み、それから力なく俯いた。

「ウソでしょ……私、あなたたちの翼……普通にしてれば分からないから、私もそうなんだって……だって、だって私の周りには他にアーククラスなんて―!」

 次第に声が震え、エレナは唇を噛んだ。


「私だけ……結局、私、出来損ないなの……」

「違う違う!」

 凪は急いで遮った。

「練習―というか、コツ掴めはすぐだから―多分」

「コツ?」


「はは、まぁ、そうだな。オレたちも最初は水沢に教わったし」

 本郷が慰めるように言うと、またエレナはひどく虐げられた眼差しで凪を見た。

「うん,いや、あの、教えたっていうか、なぜかあたし、最初からやり方が分かって……」

 エレナは完全に諦めたように肩を落とした。

「あなたは、最初から特別なのね」



 スマホが鳴り出し、本郷が立ち上がった。ポケットから取り出したスマホ見て、ちょっと目を見開く。

「ムロタンだよ」

 電話をとる本郷を、凪たちは注視した。

(気まずくなって、連絡よこさなくなるかと思ったけど……どうしたんだろ)

 西崎やエレナも同じことを考えていそうだった。


『室田ですけど』

 敬語に遠慮がちな響きは感じるものの、室田は意外にサバサバしていた。

『あの、やっぱり考え直して、エレナと話しに行こうかなって』

「お前な、判断が遅いよ!」

 呆れて言い返す本郷だが、顔に安堵の表情を滲ませる。

『ごめん。それで―あの、みんなどこにいるの?』


 本郷は西崎とヘンリーの顔を見比べながら、

「ああ、じゃあさ、ちょうど今からどこでお昼食べに行こうかと思うんだ」

 西崎がヘンリーに通訳し、ヘンリーと共に頷く。

「ムロタン、今どこ?―うん、駅か。じゃあさ―」


 本郷が室田と待ち合わせ場所を決める間、凪は黙って会話を聞いていた。

 エレナは室田と話すか聞かれたが、むすっとした顔で首を振った。




「よし、行こうぜ。マイケルのチェックも終わったみたいだしな」

 本郷が通話を終えると西崎が立ち上がる。その言葉を待っていたかのように、マイケルがリビングのガラス戸から庭へ出てきた。


「新シイ盗聴器、発信機ハ見ツカリマセン。今ノトコロハ」

「OK!」

 ヘンリーがにこやかに立ち上がる。マイケルに労いの言葉らしきものをかけたが、マイケルはちょっと首をすくめたくらいでスルーした。


「ねえ、」

 荷物を積み込む本郷にエレナは声をかけた。

「ヒカル、翼を出しているみたいじゃなかった?」

「は?そんなの分からないだろ」

 エレナは小さくため息をついてヒラヒラと手を振った。

「そうね。なんか翼を出してる時の話し方みたいって思ったのよ」


 本郷は眉を寄せて訝しげな顔をしていたが、凪にはエレナの言いたいことがなんとなく分かった。

 翼を出した時の、あの普段は感じられない、自信に満ちた高揚感。それが性格や話し方まで変える。


(確かに室田くん、いつもはもっとオドオドした感じの話し方するよな……)

 本郷と場所を決める話をする時、言われてみればいつもよりハキハキしていた気がする。だが、自分のように別人のような話し方をしていたわけではない。今までも、何度か室田が翼を出したところは見たことがあるが、別に話し方が変わった印象はない。


 マイケルが運転席に乗り込むと、

「オレとヘンリーが後ろに乗る。水沢とエレナが真ん中な」

 西崎が座席の指定をする。いざという時は自分がエレナを第一に守らなければならないのかと、凪はちょっと緊張した。

 エレナもこの場所を離れられる安堵よりも、緊張感の方が勝るらしい。口にはしなかったが、表情が硬い。


「忘れ物、ないなー」

 本郷が助手席からのんびりと声をかけたのを機に、車は動き出した。

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