エレナは語る ⑦
そうしているうちに、コロラドの家に三木が突然訪ねてきた。
強引に花を連れて行く気かと身構えたエレナだったが、三木が口にしたのは、
「その子を連れて、日本へ行ってこい」
という、予想外の言葉だった。
「我々のことを嗅ぎ回っていた男が殺された。その兄妹の地元、君の故郷で起きた事件だよ。去年、同じ場所で起きた事件のせいで、我々の日本での活動が思うようにいかなくなったのは知ってるな?」
「知らないわよ!何も教えてくれないくせに!」
エレナは鼻先で笑った。
ダーウィン・ミッションがウィンガーの人身売買関わっており、その仲間内のトラブルで殺人事件に発展した、というニュースは世界的に大きく取り上げられていた。当然エレナの耳にも入っている。
しかし、この件に関して三木は、
「そんなことをやってた連中がいるのは確かなようだな。幹部たちも制裁を考えている。組織として関与していることはない」
と、言うのみで、それ以上のことは聞いても何も教えてはくれなかったのだ。
「今回殺されたワタナベというのは、前の事件で殺された奴らと一緒に仕事をしていた男だ。どうもバックに誰か付いてる可能性もある。調べてきてくれ」
エレナの言葉など聞いていないかのように、三木はそう言うと、封筒とUSBをテーブルへ置いた。
「はあ?!何をどうやって調べろっていうのよ。日本の警察の仕事でしょ?なんにも関係ない外国人が行って、何を調べられるっていうのよ?」
「そこの中にある程度の資料は入っている。すぐにカリカリしないで、人の話を聞けよ」
三木の薄ら笑いは余計にエレナをいらだたせた。
「去年、日本で登録されたウィンガーに、君の同級生の妹がいただろう。その兄貴も何年か前に登録されてる……確か、高野、という兄妹だ。妹の方は公表されてないが、シーカーの能力もあるらしい」
「ああ、アーククラスではなくても、ウィンガーかどうか判別できるっていう……」
三木は頷いた。
「この妹が、殺されたワタナベと短期間だが一緒に仕事をしている。何か見たり聞いたりしているかもしれない」
エレナは眉を顰めた。たとえその妹が何か知っていたとしても、警察に話しているだろうし、警察にも話さない内容を突然現れた外国人に話すとは思えなかった。それに、
「相手はシーカーなんでしょ?私が隠れウィンガーだって、バレちゃうじゃないの!」
「だから室田を使うんだよ。彼はクラス会に参加したり、同級生とコンタクトをとってるんだろ?しかも、女性から話を聞くなんて仕事、彼の得意分野じゃないか」
「だから、シーカーってのが相手じゃ、ヒカルだって……」
「彼はシーカーのことを知らない。日本のアイロウは彼女の能力のことを隠しておきたいようだ。世界中から狙われる能力だからな」
エレナは息を飲んだ。
「―ちょっと待ってよ。ヒカルを登録させろってこと?」
「彼だって、その方がいいんじゃないか?ウィンガーだとバレたからって出来なくなる仕事をしてるわけでもない。むしろ、ああいう商売には、いい客寄せになるかもしれない」
あっさりと三木は言った。
「そんな……私のことまでバラされるかもしれないじゃない!」
「そこは、花を使えばいい」
三木はエレナの言うことなどお見通しのようだった。
「妹を預かっていれば、こっちの言う通りに動いてくれるだろ?君と違って、策を練るタイプじゃなさそうだし。妹のこととなると、あまり冷静に物事を考えられなくなりそうだ。だろ?」
面白そうに話す三木だが、大真面目なのは分かっている。ここで必要以上に反論すれば、また疑いを持たれることも分かっていた。
もう、話の流れは出来上がっているのだ。それに従うしかない。
妹を日本へ帰すと連絡すると、光はもちろんすぐに承諾した。
どこか手放しで喜んでいない様子は気になったが、いつもはっきりした物言いをしない光のことだからと詮索はしなかった。
エレナが自分の計画で頭がいっぱいになっていたこともある。
野宮れい子の情報をもっと引き出したい。
それにはカードが必要だった。
西崎音十弥、本郷宙彦、蝦名茂秋、小宮山暦美、そして水沢凪。
今、絵洲市には未登録のアーククラスのウィンガーがこんなにもいる。
悔しいが、運動能力の点では、自分より高い。光もそのくらいの情報は仕入れてくれていた。
だが、それこそガブリエルや三木が望むサンプルではないのか。
彼らは取り引きの材料にできる。
しかも、西崎は昔からずっとれい子に疑いを持っている。彼にとっても、悪い話ではないはずだ。
うまく彼らを味方につけられれば……
主導権を同級生たちに与えず、かつダーウィンとの取り引きにうまく乗ってもらうにはどうしたらいいか。
エレナはひたすらに考えを巡らせた。




