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flappers   作者: さわきゆい
第4章 嘘と沈黙と憧憬
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エレナは語る ⑤

 ジャネットはエレナが思っとよりずっと多くのことを三木に報告していた。

 室田が隠れウィンガーだと知ると、彼の素性を調べ、八川小学校の、野宮れい子のクラスに在籍していたこと、そこに半年ほどではあるがエレナもいたことを、あっという間に調べていたのだ。


 普段のやる気のない仕事ぶりからはまるで想像できない機敏さだ。

 そこも、ジャネットに欺かれていたのだと、エレナは腹ただしかった。

 イライラしながら室田兄妹のパスポートの手続きやアメリカ行きの手配を全て押し付けたが、これもジャネットはテキパキとこなした。


「手続きは全部終わりましたよ。ムロタを説得するのは、もちろん、あなたの仕事ですから」

 ジャネットの嫌味に言い返したかったが、堪えた。この状況で、三木にさらに酷い報告を上げられてはたまらない。


 こうなったら、まずは言われた通りに室田をアメリカへ連れて行くしかなかった。

 室田は相変わらず経済的に困窮しているようだし、ちょっと金をチラつかせれば、すぐに従うと思った。だが、そう簡単には話は進まなかった。

「今は無理だと思う」

 室田はすぐにそう言った。

 妹の花が、家から出たがらないから、というのが理由だ。だが、室田なりに警戒している様子も分かった。


 それでもなんとか、室田兄妹をアメリカへ引っ張ってきたエレナだが、空港に着くとすぐ2人と引き離された。

 自分を取り囲む男性たちがいずれもウィンガーだと分かり、エレナは身構えた。


「皆さんに説明をしないといけない。一緒に来るんだ」

 一番大柄な男がエレナの腕を掴みながら言った。

 何度か見かけたことのある男だ。確か格闘技経験者だったはず―他の男たちも体つきからして恐らく……。下手に抵抗しない方がいい。エレナはすぐにそう判断し、おとなしく従った。


 そのまま、エレナはダーウィン・ミッションの本部の一室に、丸3日閉じ込められた。

 食事の時間さえまともに与えられず、質問攻め、というより尋問された。

「ここへ来たのはレイコの指示か?」

「レイコはどこにいる?」

「レイコから何か聞いているのか?」

 次々と浴びせられる質問は野宮れい子のことばかりで、エレナは混乱した。

「どういうこと?みんな、レイコ・ノミヤを知っているの?」

 エレナの問いには誰も答えてくれない。


 3日目の朝起きると、数人のウィンガーたちに押さえつけられ、無理矢理注射が打たれた。

 プラタミールだ、とすぐに察しがついた。


 ウィンガーに対して、強制的に翼を発現させる薬剤。意識が朦朧とし、自白剤の効果もある。

 エレナには実のところ、対して効かなかった。

 打たれた場所からじんわりと痺れる感覚が広がり、多少の眠気を感じたものの、それだけだ。

 エレナは一芝居打つことにした。

 自白剤が効いているフリをしながら、彼らの質問をうまくあしらったのだ。


 我ながらうまくいったと思った。この駆け引きはエレナの勝ちだった。幹部たちは、エレナが野宮れい子については何も知らないと判断し、今回のことを口外しないことを条件にエレナは解放された。

 日本で過ごしたのが一年にも満たず、れい子のクラスに在籍したのも半年だけ、ということもあったのだろう。

 酷い目にあった。正直、命の危険すら感じた。

 だが、この一件で、れい子がウィンガーの出現に関わっているのではないか、というエレナの疑いは立証されたのだった。


 はっきりしたことは答えてもらえなかったが、会話の端々から推察するに、れい子はダーウィンの研究者達と同様、人為的にウィンガーを作り出す研究をしていた。

 しかも、元々はダーウィンのメンバーと同じ組織で研究をしていたらしい。だが、ダーウィンの研究者達からすると、志を同じくする仲間、ライバルというよりも、ただの目障りな同業者といった関係らしい。


 どうも彼らは玲子が上の人間に色仕掛けで迫り、研究費や手柄を横取りしているような話をしていたが、エレナは信じられなかった。

 小柄で小太りで、見た目には何もパッとしたところのない中年女性のれい子が、色仕掛けで上司に迫るなど、滑稽というか……エレナには少々気持ち悪い光景だった。

 行動的で、エネルギッシュなところはあった。あの雰囲気でプロジェクトを引っ張っていたというなら分かる。


「どこにでもいそうな、おせっかいなオバサンだったわ。お陰で、なかなかアメリカに帰って来れなかったのよ」

 そう言ったエレナを三木は探るように見つめた。

 3日目の夕方になって現れた三木は、まだエレナの言っていることを、信用していない様子だった。


「神代れい子の行方が分からなくなってから、もう5年以上経つ」

 冷ややかに自分を見下ろす三木に、エレナは首を傾げた。

「カミシロ?」

 三木は無表情のままだ。知らないフリをしているのかどうか、エレナを見定めているようだった。

「父兄の信用を得て、余計な疑いを生まないようにと、偽装結婚したらしい。野宮という男にも断れない弱味でもあったんだろう」


「―偽装結婚って……そこまで……」

「どこにでもいるおせっかいオバサンか。その正体がこれだ」

 鼻先で笑う三木に、エレナは何も言えなかった。

「同じクラスにウィンガーの男子がいたな?知っていただろう?なぜ言わなかった?普通なら、すぐに言っているはずだ」


 他の幹部からも聞かれたことだ。何度も同じことを聞いて、発言に一貫性があるか確認しているのだろう。

 エレナは同じ話を繰り返した。

「あの子たちは、私みたいに飛べる翼じゃなかったわ。レイコだって、そんな関係があるとは思わなかったもの。それに……正直、日本にいたのって、私にはいい思い出じゃないのよ」

 これ見よがしに、物思わしげな、傷ついた表情をしてみせる。三木にどこまでこんな芝居が通じるか分からないが。


「室田光のことは?」

「さんざん、幹部のおじさま方にも喋ったんだけど!あのね、ハーフで日本語も下手クソで、私クラスで浮いてたの!ヒカルもそうだった。だからなんとなく仲良くなったのよ。しかも、アイツもウィンガーになったっていうから……お金に困ってるって聞いて、同情したのよ!」


 三木はしばらく黙っていた。

 軽薄さが鳴りをひそめると、その目つきはひどく威圧感を感じさせる。

(ビビってられないわ!コイツは普通の人間なんだから―)

 エレナは自分に言い聞かせ、三木を見返した。


 そんなエレナを嘲るように、三木は笑った。

「ふん……この3日間、観察させてもらったが、彼は普通のウィンガーと変わらないな。能力の上昇率は大したことはない。飛ぶこともできない。帰りたいというなら、兄の方は帰ってもらって構わないよ。ただし、妹は置いていかせろ」

「花?なんで、あの子を?」

「14歳なら、これからウィンガーになる可能性がある」

「なにそれ。ウィンガーに遺伝とか関係ないでしょ?」

「アイロウがそう発表しているからか?」

 三木の小馬鹿にした口調にエレナは言い返せなかった。


「レイコの子供たちだ。なにがあるか分からない」

「―いったい、レイコって何をしていたの?なんでそんなに警戒してるのよ?」

 三木もガブリエルも、ただれい子を嫌っているというより、どこか恐れている感じがした。

「兄貴は日本へ返し、妹は我々の調査に協力させろ。言われた通りにできるなら、ここから開放してやる」

 三木はそう言うと、立ち上がった。エレナの返事は聞く気もないようだった。


 上着を取り、ドアの前まで行った三木は、振り返った。

「もう5年も行方不明、にも関わらず、レイコの研究には今でも資金が流れている。これはどういうことだろうな?」

 いやらしい目つきだ。

「私が知るはずないでしょ!いい加減にしてよ!れい子の事なんか知らないって言ってるじゃない!」

 エレナはイライラと叫んでいた。


「お前は隠し事が多すぎる」

 日本語で「お前」と呼ばれたのは子供の時以来だ。無性にカチンときた。

「なんなのよ!ウィンガーを守るとか言っときながら、結局、あんたたちだって、いいように利用することしか考えてないじゃない!私は、世界初の飛行能力を持つウィンガーなのよ!こんなことなら、アイロウに登録された方がよっぽど大事に扱ってもらえるわ!」


 三木が、久しぶりに頬を緩めた。ただし、酷く気に触る笑い方だ。

 1人でクックッとしばらく笑ってから、哀れむようにエレナを見た。

「誰が世界初だと言ったんだい?少なくとも、10人はいるぜ?」

 エレナは背筋がざわつくのを感じた。

 同級生たちの顔が浮かび、手に汗が滲む。

「ま、確かにアイロウは把握してないし、ダーウィンが取り込めたのは君だけだ。だが、過分な特別扱いを期待されては困る。今までだって、十分な待遇を君には提供してるだろ」

 それだけ言うと、三木はさっさと部屋を出て行った。








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