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flappers   作者: さわきゆい
第4章 嘘と沈黙と憧憬
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こじれ男子

 マンションへ着いた花は、本郷に支えられながらも、足取りはしっかりしていた。

 本郷も花も何度となく室田に連絡をしてみたが、相変わらず応答はない。仕方なく、自宅まで送ってきたのだが、花は不安そうだった。


 本郷としても、そんな花1人を置いて帰ることはできなかった。海人と愛凪も何も予定はないからと、結局3人で室田の部屋へ上がり込んだ。

「オレたちも室田に会いたいから、待たせてもらうよ。少しお兄ちゃんに説教してやらないとな」

 そう言った本郷に、花はかすかに笑った。


「あ、大丈夫。ペットボトルのお茶とか、持ってるから」

 電気ポットに水を入れ始めた花を、愛凪が制した。

「疲れてるだろ?少し寝たら?室田から連絡あったら起こすから」

 本郷にもそう言われ、花は頷いた。

 だが、部屋に行くとすぐに引き返してくる。

 手には毛布があった。


「ありがとう」

 愛凪が受け取ると、花はペコンとお辞儀をして部屋へ引っ込んだ。


「いい子ですね。お兄さん、早く連絡くれるといいんですけど」

「だよなぁ。何してんだか」

 ため息をついた本郷の後ろから

「ふガァーッ」

 と、重低音が響いた。

 海人がソファにひっくり返って既に爆睡していた。


「……さっきからおとなしいと思ったら」

 笑いながら本郷が毛布をかけてやろうとするのを愛凪が止める。

「ちょっと!ソファ独占しないでよ!」

 容赦なく、愛凪は兄をソファから転がり落とした。

「ん、ん〜」

 海人は起きる気配はない。体の向きを変え、再び高鼾が始まる。


「すいません。うるさくて」

 海人に毛布をかけてやった愛凪は、ふうっとため息をつき、ソファに腰をおろした。

「家でもしょっちゅうリビングで寝てて、邪魔なんですよ」

「あぁ、はは。急に呼び出されて、疲れたんだろ」

 愛想笑いを浮かべつつ、

(妹、怖ぇー)

 足元の海人に同情の視線を向けながら、本郷もソファに腰を下ろした。


 ちょうどその時、、本郷のスマホが鳴った。

 画面を確認した本郷は

「……ふうん、」

 ため息をついて、愛凪を見る。

「エビさんから。途中、室田の住んでたアパート付近とか、行きそうな場所、見回りながら帰ったけど、室田の気配はないって」

「そうですか。どこ行っちゃったんでしょうね……室田さんって、どんなかんじの人なんですか?」

「うーん、室田ね、昔はおとなしくて、目立たない奴だったけど、今はお客相手の仕事してるせいか、結構しゃべるようになったかな……見た目もチャラい感じになったしな~あ、でも実際は真面目な方だと……」


 海人のイビキの隙間を縫って、しばらくとりとめない話をしていたが、いつの間にか2人も眠っていた。


 本郷が目を覚ましたのは、スマホのバイブレーションでだった。

 時計は5時過ぎ。外はまだ薄暗い。

 メールだから後から見てもいいか、と思ったが、一応確認しておくことにした。


(音十弥か……)

 ぼやける目をこすりながら文面を読み、首を傾げる。部屋の中を見まわし、

「うーん?」

 1人呟いた時、遠くにメロディが聞こえた。

 花の部屋の方からだ。

(誰かから電話か?こんな時間に……もしかして?!)

 本郷が思うと同時に、花の部屋のドアが開く音がした。


 寝ぐせのついた髪のまま、リビングに飛び込んできた花は、本郷にスマホを突き出した。

「あ、」

 着信の名前に、やっぱりと思いつつ、スマホを受け取る。


「もしもし、室田か?本郷だけど」

 息を飲むのが聞こえた。少し間が空いて、

『―本郷くん、あ、あの……いたんだ……あの、ごめんなさい、いろいろ……』

 決まり悪そうな室田の声が返ってくる。

「お前、今どこなの?花ちゃん、見つけてからずっと連絡してたんだぞ?」


『ごめん、ちょっと用事があって……』

 すぐに嘘とわかる言い訳だ。

「妹連れ去られた時に、それより大事な用があるのかよ。今、お前のマンションにいるから、早く帰ってこいよ」

『あ……うん、』

 室田の返事は歯切れが悪い。


『今って……誰か他にいるの?』

「え?ああ、カイとその妹がいる」

 話し声に、当の高野兄妹も目を覚ましていた。

『西崎くんと水沢さん……蝦名くんは、いないの?』

「エビさんは仕事があるからって、帰ったよ。音十弥たちはエレナとジャネットから話聞いてる。大変だったんだぞ!花ちゃん、下手したらケガどころじゃ済まなかったんだぞ!」

『えっ……』


 さすがに室田もそこまでの事態になっていたとは思わなかったらしく、花が空中から突き落とされた話を聞くと絶句した。

「とにかく、詳しい話したいから、急いで帰ってこいよ」

 ところが、そう言われても室田はうんとは言わない。


 帰って来れない理由を聞いても、

『まだ用事があって……』

 と、言葉を濁す。

 声を荒げたくなるのを、花の手前グッと抑えて本郷は続けた。

「音十弥たちも、朝メシ食べたらジャネット連れてトランク取りに来るって、連絡きてる。音十弥と話したいなら―」

『ジャネット?エレナも来るってこと?』

「あ?ああ。来るんじゃないか?しばらく、あの2人監視しておける場所に移動する予定らしいし」

『……そっか』

 ふと、室田の口調が変わった感じがした。


『ごめん、できるだけ早く帰るから。ジャネットのトランク、玄関のとこの物入れに入ってるから、間に合わなかったら、渡しておいてくれる?』

 どこか、吹っ切れたような雰囲気を感じながら、本郷はなぜか不安になった。

「分かった。本当に、早く来いよ?花ちゃんも心配してるんだ」

 花も、海人も愛凪も、揃って何度も頷いていた。




 ピピピ、ピピピ、ピピピ……

 高く低く、また高く……鳴り響くアラームに凪はやっとのことで目を開け、ストップを押した。

 体は強張っている。

 一応、どこかからマイケルが持ってきた、長椅子で横になっていたものの、ゆっくり眠れるはずもない。



 

     **********

 

 ジャネットの話を一通り聞き終え、エレナの方はまた後で話そうということになった。

 なにしろ深夜もいい時間である。一度、自宅に帰りたかったが、もちろん終電は終わっている。

「タクシー呼ぶか?」

 西崎に聞かれたが、朝まで待って始発で帰ることにした。

 数百円で帰れる距離を数千円かけたくないからだったが、とにかく眠い、ということもあった。


「水沢、ジャネットをもう一回、眠らせられるか?朝まで眠っててくれりゃ、その分監視が楽だ」

 西崎にそう頼まれ、

「疲れたでしょう。ゆっくり眠ってて。朝になったら起こすから」

 ジャネットの顔を覗き込んでそう言うと、ニッコリ微笑み、ジャネットはすぐに横になった……


     **********



 体を起こした凪は、隣の長椅子にいるジャネットを確認しようとし、先に西崎の姿を見つけた。凪の足元の方で床に座り、スマホをいじっている。

「おう、おはよ」

 チラッとだけこちらを見て、視線を戻す。

「5時半、か」

 スマホの画面を見て、西崎は呟いた。


(うわ、寝起きの顔とか見られるとか、最悪だな)

 そう思ってから、隣でまだ熟睡しているジャネットに目を止め、万が一に備えてそばにいてくれたのかもな、と凪は思い直した。

 とりあえず、髪を整え、一つに結び直す。


「西崎、寝てないの?」

 スマホの画面を見ながら、何か考えていた様子の西崎はそう言われて顔を上げた。

「いや、1時間くらいは仮眠とった。マイケルたちもまだ寝てるんじゃないか」

「そっか、」

 凪は少し考えた。


 ホテルのフロント裏の小部屋にエレナは閉じ込められ、ヘンリーとマイケルが交代で見張っているはずだ。

「じゃあ、エレナちゃんに会わないで、一回帰ってもいいかな?」

「ああ。マイケルたちが使ってるシェアハウスに移動することになったから、そっちでゆっくり話せばいいんじゃないか。―今日の夜か、夕方、時間あるか?」

 凪は頷いて立ち上がった。


「ここ、離れられないから送って行けないけど。気をつけて行けよ」

 そんな心配のされ方をするなんて凪はちょっと意外な感じがして面白かった。地下鉄の駅まで歩いて5分ほどの場所だ。

「うん、大丈夫」

 伸びをすると、あちこちでポキポキ音がした。


「花ちゃんのところに、室田から連絡きたってさ」

 一緒に立ち上がりながら、西崎が言った。

 その顔が、あまりいいニュースを語る顔でないことはすぐに分かった。

「宙彦も話したらしいんだけど、どこにいるかも言わないし、なんか様子がおかしいみたいだ」

「室田くんが?まだ、何か隠してるってこと?」

「多分な」


(あれだけ、何回も言ったのにな……)

 凪は、室田に対して、今までだって特に好印象を持っていたわけではなかった。仕事を持ち、妹と2人の生活を支えているのはすごいと思ったが、お人好しで、ちょっと頼りない「男の子」という感覚の方が強い。それに加えて、正直、今は幻滅していた。


「後で、ジャネットのトランク取りに室田のマンションまで行ってくる。宙彦とも、この後どうするか相談してみるよ」

 西崎の言葉にため息と共に頷き、凪は廃ホテルを後にした。





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