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flappers   作者: さわきゆい
第4章 嘘と沈黙と憧憬
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こじれ女子

「黒の女王」

 その単語を聞いたのは久しぶりだった。

 マイケルの顔を見た時に、チラッと脳裏をかすめはしたが、凪も忘れかけていた呼び名だ。

 凪としては、気に入らない、不本意な呼び名で、早く忘れ去られればいいと思っている。


 そんな様子が顔に出ていたらしい。

 西崎が気の毒そうな笑みを浮かべ、マイケルは気まずそうに凪を見た。


「黒の女王。噂の出所を探ると、アメリカかカナダ辺りなのは分かったんだけどな。まさか、お前かよ、何のために―」

「決まってるでしょ!」

 西崎の言葉は、とんがったエレナの言葉に遮られた。

 隣のジャネットがピクリと体を震わせる。


「この人を引きずり出すため。ヒカルに頼んでも、全然!なんの手がかりも持ってこなかった」

 凪を見ながらそう言ったエレナは、フッと鼻先で笑った。

「そうよね、ヒカルは私と同じ。仲間ハズレ。なんにも教えてもらえない」


 室田の言葉を信じれば、敢えてエレナに情報がいかないように分からないフリをしていた、ということだが、エレナはその魂胆に気づいてないらしい。


 ヘンリーが何か言うと、エレナの顔に自嘲の笑いが浮かんだ。

「ええ、そうよ。エンジェル。空を飛べる天使ね。みんな、私のこと大事にした」


 そこからの会話はまた英語になって、凪は部分的に聞き取れる単語をつなぎ合わせていたが、どうもちんぷんかんぷんだ。


「神秘性というか、カリスマ性っていうのか、とにかく限られた人間にしか姿を見せないように、どっかの山の中に隔離されてたらしい。おかげで必要な情報を手に入れられなかったって言ってる。その気になりゃ、ネットもあるし、顔を知られてないなら、かえって出歩けたと思うけどな。要するに本人も承知で、教祖様みたいに崇め奉られてたんだろ」

 西崎が自分の見解を述べると、エレナはジロリとそちらを睨んだ。


「あなたは、いつもみんなのリーダーだった。分かるでしょ、リーダーでいるためにはみんなに、すごいって、認められないと、ダメね」

 西崎は眉をひそめ、小さく首を振った。


「違うだろ。みんなをまとめて、同じ方向に引っ張っていけるやつがリーダーになれるだけだ。そういう意味では、オレは向いてない」

 凪は思わず西崎の顔を見上げていた。

 エレナは歪んだ笑みを漏らした。

「あら、残念ね。期待ハズレね」


 2人はそのまま睨み合っている。

 沈黙がたまらず、凪は口を挟んだ。

「……エレナちゃん、ウィンガーの誘拐とかさせてたの、エレナちゃんなの?」

「さっきも言ったけど、」

 エレナは凪に向き直ると、苛立ちを隠さずに言った。

「私、ウィンガーを売ってることなんか知らない。私じゃない人たちがやったこと」

「じゃあ、なんでオレたちのことを探ってた?なんで水沢を引っ張り出そうとした?」


 ヘンリーがため息をついて肩をすくめた。自分が話をするはずなのに、と言いたげだ。

 ジャネットがゆっくりと床に這わせていた視線をエレナへ向ける。


「それは―」

エレナは唇を噛み締めた。

「言いたくないなら、水沢に頼んで言いたくなるようにしてもらうか?」


「YES、Ma'am!」

 突然大きな声を出したのはジャネットだった。その目はしっかりと凪を見つめている。

 そのまま、二言、三言付け加えたが、突然のことで凪は英語を聞き取れなかった。


「なんか……知ってること全て話しますって、言ってるぞ?」

 さすがに呆気にとられた様子の西崎がそう通訳してくれて、凪はハッと気づいた。

(さっき、移動する前に……後で聞かせてもらうって言ったの、覚えてたのかな)


 落ち着かせて移動させるためにかけた言葉が、結構効いていたようだ。

(翼出してなかったのにな……暗示にかかりやすいタイプなのかな?)


 凪がどう対応しようかと迷ううちに、ジャネットは立ち上がっていた。

 凪を真っ直ぐ見つめ、まばたきも忘れたように話し出す。身振り手振りも加わり、さながら独演会のようになりかけたのを、凪は慌てて止めた。


「あ、あのね、英語、ムリ。ジャ、ジャパニーズ、プリーズ」

 そばで西崎がふっと、息を殺して笑ったのが分かった。

「ちょっと!何よ!勝手なこと、しない!」

 立ち上がり、ジャネットに詰め寄ろうとしたエレナは、ヘンリーに止められた。


 それほど力を入れた様子はなかったが、腕を掴まれたエレナは電気でも流されたかのように、ビクンと固まる。

 異様なものを見る目でヘンリーを見たエレナは、それ以上抵抗もせず黙り込んだ。


「別々に話を聞いた方がいいな」

 西崎の提案に、ヘンリーとマイケルも頷き、エレナを部屋から連れ出した。

 チラリと凪の方を見たものの、エレナは何も言わずに2人に従った。


 その間、ジャネットは凪を見つめたままだ。

 その様子は楽しげですらある。

(なんだろ、この人。ちょっと……変)

 凪の方は落ち着かない気分だ。西崎がいてよかったと思った。こんな、よくわからない状態の、知らない外国人と2人きりなんて、何を話したらいいか分からない。

 だが西崎は、

「水沢が話した方がいいだろ?」

 とだけ言うと、床に胡座をかいて座ってしまった。


「え……ええと……」

 とりあえず、ジャネットにも座るよう促し、3人で輪を作って座り込むことになってしまう。

 相変わらず、ジャネットはなんだか嬉しそうに凪を見ているし、西崎も興味深そうに2人の様子を見ている。

 凪にとっては居心地の悪い、奇妙な状況だった。


「あの、じゃあ……知っていることをとりあえず、教えて……?」

 なんとか平静を装って、そう切り出した。

「あ、日本語で、ね」

 ジャネットは待ってましたとばかりに話し始めた。


「私はエンジェルの監視役です。彼女は素晴らしい能力者ですが、勝手なこと、いっぱいします。ガブリエルは心配しています」

「ガ、ガブ……?」

「ダーウィン・ミッションのリーダーだな」

 西崎の言葉に、ジャネットは躊躇いなくうなずく。


「ガブリエルはエンジェルのそばに、誰かいないとダメ、言いました。私、女で、日本語できる、ピッタリの仕事だとミッキーが言いました」

「ミ、ミッキー……って、誰?」

 某ネズミのキャラクターを頭に浮かべつつ、凪は西崎を見たが、今度は西崎も知らない人物だったらしい。

「ミッキーは私の彼氏です。ステキな人ですね」

 すぐにそう言ったジャネットが、ちょっと照れくさそうに笑うのを見て、凪は思わず西崎と顔を見合わせた。

(……なんだ、この展開……)

 頭の中では状況整理が忙しい。


「ウィンガーのそばにいるの、危険な仕事です。私ならできると、ミッキーは言いました」

 どうしてもネズミのキャラが甲高い声で

「君ならできるよ!」

 と、脳内で笑顔を振り撒くのを払いのけつつ、凪はジャネットの話に集中しようと自分に言い聞かせた。

(なんか、疲れておかしくなってるな……)


 深夜を通り越し、バイトがある時でさえ、とっくにベットに入っている時間だ。それほど夜更かしするタイプでない凪は、自分でも限界が近いのを感じていた。


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