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flappers   作者: さわきゆい
第4章 嘘と沈黙と憧憬
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話し合いへ

「あの外国人の方はいったい……?」

 移動の車の中で、凪はそっと西崎に聞いた。

 凪と西崎に挟まれて座るエレナも、一緒に西崎に視線を向ける。彼女もヘンリーのことは気になっているようだった。


 大きな左ハンドルのRV車は、3人が後部座席に座っても余裕がある。マイケルの車らしく、ヘンリーと2人でこれに乗って来たという。

 ハンドルを握るマイケルの隣の座席に、そのヘンリーはいない。エレナたちが乗ってきたレンタカーを運転して、後ろをついてきている。

 その後部座席ではジャネットがおとなしく座っているはずだった。



     **********

 エレナたちが乗ってきたという車に案内され、そこで見たのは、後手に縛られ、さるぐつわまではめられたジャネットの姿だった。素人目にも「手慣れた」と映るその仕事がヘンリーの手によるものだというのも、凪にはなかなかに衝撃だった。

 あまり笑って聞ける話ではない。


 パニック状態で暴れていた、ということだが、その時にはジャネットはだいぶ落ち着いた様子だった。

 エレナが捕まったのが分かると、余計に観念したのか、シートに背中を預けて目を閉じている。


「口―猿ぐつわくらい、とってあげたら?」

 思わず凪は言った。ただし、ヘンリーではなく西崎に。

 英語でどう言ったらいいか分からなかったし、真正面から顔を見て話す自信などなかった。


 西崎が通訳したが、ヘンリーはいい顔はしなかった。

 その様子を見た凪は、2人が話している間に素早くジャネットの隣へ乗り込んだ。

 ジャネットが目を開く。凪はその目を正面から覗き込んだ。


 ギョッとして、軽くのけぞったジャネットだが、

「具合、悪いとこあります?大丈夫?」

 凪の質問に、一呼吸おいて震えながらも、小さく頷いた。

「あたしを見て」

 そう言われた途端、目を逸らそうとしてもあがらえないのが分かると、ジャネットの目に涙が浮かぶ。

「何もしません!」

 凪がそう言って苦笑いを浮かべると、その目からやっと力が抜けた。


「静かにしていて。叫んだり、暴れたりしないで」

 ジャネットはコクコクと何度も頷いた。

 口にガッチリとかまされたタオルを取ってやるのは少々大変だった。

 西崎が手を貸そうとしてくれたのは分かったが、ジャネットから目を逸らしたくない凪は、自力でなんとか結び目を解いた。


 翼を出してしまえば簡単なのだが、せっかく落ち着いてきたのに、またヘンリーの前で荒ぶるモードになりたくはない。ジャネットに必要以上の威圧感を与えたくないこともある。どうも、ジャネットは他のウィンガーよりも特に自分を恐れているようだ、と凪は感じていた。


「お願いします。助けてください」

 喋れるようになるなり、ジャネットは震える声でそう哀願した。

「助けるって、誰から?何から?」

 意識してゆっくりと話す。ジャネットは戸惑い顔になった。

「ア……あなた、から。あなた、ワタシをクレイジーにさせますか?」

 思わず凪は吹き出した。

「何それ?どこからの情報?」


 ジャネットは戸惑ったようだ。ふた呼吸ほどおいて、ますます小声で

「エレナ……エンジェルが言いました。それから―」

 唇がわなないた。続きを言うか言うまいか葛藤しているらしい。もう少し押せば喋らせられそうだったが、凪は無理はしないことにした。


「後で、ゆっくり聞きます。その時は、全部話してもらいますからね。今はおとなしくみんなについてきて。疲れたなら、寝ててもいいよ」

 真っ直ぐに目を見て、一言ずつ、ゆっくりとそう告げる。

 ジャネットは静かに2度ほどまばたきをした。

「はい……わかりました……」

 ジャネットはそのまま目を閉じると、ズルズルとシートに倒れた。


「え……マジ?」

 思わず凪は呟いた。寝ててもいいよ、は冗談半分で付け足した言葉だ。翼を出していない状態で、そこまで言うことに従ってくれるとは思っていなかった。

 車の外からは西崎とヘンリーが覗き込んでいる。その後ろには蝦名とマイケルもいたが、前の2人のせいで中の様子は見えなかったようだ。


 車から降りた凪をヘンリーが興味を隠さぬ眼差しで迎えた。そちらの顔は意識して見ないようにし、

「まさかホントに寝ちゃうと思わなかったんだけど」

 と、西崎を見上げる。


 西崎の顔にはなぜか笑みが浮かんでいた。

(……?)

 あまり見たことのない表情だ。嬉しそうな―懐かしそうな微笑み。

「すげぇな」

 そんな風に笑いながら西崎から出た言葉は、短いが偽りのない賛辞に聞こえて、凪は不思議と安心した。


 勝手な行動を注意されるかと、内心思っていたが、問題なかったようだ。

 こうして2台の車に別れ、ゆっくり話ができる場所へと向かうことになったのだった。


     **********




「ヘンリーはマイケルの友人で―」

「友達デハ、アリマセンネ。アー、アンナ気取リヤノ友達、私、イマセンネ」

 西崎の言葉をマイケルが速攻で遮る。西崎は苦笑いした。

「まぁ、そんな感じの関係で、マイケルと同じ組織、というかグループで活動してる。あの通りアーククラスで、かなりキレる」

「……キレる?」

「ブチ切れるって意味じゃないぞ」

 凪がキレる、の解釈に戸惑ったのを分かったのか、西崎はそう付け足した。


「頭がいいって意味。いろんな意味でな。もちろん、運動神経もずば抜けてる」

 西崎が100パーセントの賛辞を送る存在がいるとは、凪は驚いた。

 頭がよくて、運動神経もずば抜けてる、とは西崎そのものではないか。つまり、ヘンリーは西崎を上回るポテンシャルの持ち主ということ……

(その上、あの容姿!)

 ヘンリーの顔立ちを思い浮かべながら、それについては口にしないでおいた。


「あの……今まで、あんまりマイケルさんたちの活動って、詳しく聞かないようにしてたんだけど」

 恐る恐るそう前置きしてみた。

 ウィンガーには関わらず、静かに生活する。が凪の心情だったから、マイケルの仲間だというウィンガーの人々に紹介されても、敢えて関わろうとしなかったし、本郷と話す時も、そういう話題は意識して避けてきた。

 だが去年、須藤の事件に関わってからは、そうもいかなくなっている。

 諦め半分とは言え、ウィンガーの友人たちと親密に交際するようになった以上、様々な情勢を知っておく必要はあった。

 洸がいたら、

「今更?!」

 と怒られそうだが。


 エレナが息を吐いてシートに寄りかかった。

「知らないフリ。できないフリ。優しいフリ。あなた、いつもそう」

 前を見たまま言った言葉は、明らかに凪に向けられている。


「さっきも、そんなこと言ってたよね」

 心がざわつくのを感じながら、凪は言った。

「具体的に……どういう意味?あたし、エレナちゃんに何かした?優しいフリもなにも……あたし、優しくないよ?」


 西崎はエレナの様子に警戒しつつも、口は出さず黙っている。

 エレナは前を見つめたまま言った。

「じゃあ、なんで私に声かけたの」

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