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flappers   作者: さわきゆい
第4章 嘘と沈黙と憧憬
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夜の追跡

 結局その後、海人は愛凪に

「調子乗りすぎ!捕まったらどうするの!」と、一喝され、たちまちシュンとなった。

 だが、次の瞬間にはすぐに立ち直るのが海人である。

「あ、でも、このまましばらく行くぜ。確かによく見えるし、車両感覚もメッチャいいわ」


 ごきげんな鼻歌混じりの海人の運転で10分後、車は八川小学校の学区内まで来ていた。

「そろそろ限界〜」

 呑気な海人の声と共にその翼が消える。

「学校近くのファミレスってどこだ?てか、ファミレスなんてあったっけ?」


 凪はしばらく前に来た時の付近の街並みを思い出した。

「昔、銀行か信用金庫があったところだよ。学校に上がる坂道の少し手前」

 海人は少し考えてから

「あー、」

 と、頷く。

「ガソスタの斜め向かいら辺か」

「あ、そうそう。スタンドはまだあるよ」


 中学1年までこの辺りに住んでいた愛凪も、土地勘は残っているらしい。

「結構、マンションとか増えましたね。ここら辺ももっと小さいアパートとか、お店とかでしたよね?」

 窓の外の夜の街並みに目を凝らしている。ウィンガーなら、普段でも一般人より夜目は効くが、この大通り沿いはこの時間でもコンビニや大きな駐車場の外灯など、ところどころだいぶ明るかった。


 凪のスマホが鳴った。西崎だ。

 懐かしい景色を思い出している場合ではない。


『今、どこまで来た?』

「ファミレスの近くまで来てるけど」

『ちょうどさっき、2人が出てきたとこだ。学校に向かってるらしい』

「小学校?こんな時間に何しに……」

『わからない。今のところ、気づかれてないみたいだから、このまま追いかけてみる。花ちゃんに何かされたら困るからな。裏山神社の駐車場に、とりあえず来てくれるか』

「分かった」


 八川小学校の裏にある神社は、今は名ばかりの祠のような建物があるだけだ。

 それなりに広かった境内は、大部分が駐車場になっている。

 車で行くためには、小学校に上がる坂道を通り過ぎ、山の裾野を回るようにして西側の道路を登らなければならなかった。


 もしかしたらエレナと花を見かけるかもしれないと、凪は窓の外に目を向けていた。

「室チンも来るんだろ?」

「え、ああ、室田くんにも連絡したって言ってたけど。一緒にいるとは言ってなかったね」

 一緒にいるなら、先ほどの電話で西崎は言いそうな気がする。


「あれ、ここのドラッグストアなくなったんだ。うーん、ここら辺も結構、変わったなー」

 海人は右折する手前でややスピードを落とし、周囲を見回した。


「あ、」

 思わず凪は声を出した。

 ほんの一瞬だったが、見覚えのある後ろ姿が、左手の路地に入って行くのが見えたのだ。だが、100メートル近く離れていたため、すぐに確信が持てなくなった。

「え、なんだよー、いたのか?」

 海人が凪の見つめる方向に目を向ける。


「いや、チラッとだったから……花ちゃんかと思ったんだけど。あっちの信号のもう少し先、左に曲がって……」

「いや、正解じゃね?」

 海人は右折しようとしていた車線から、左車線へハンドルを切った。

「室チンが住んでたアパートがあったの、確かあの辺だよ」


 急いで凪は西崎に電話した。海人が一端、路肩に車を停める。途端に、路地から大柄な2つの人影が現れた。

 すぐに凪は電話を切った。

 おそらく誰の目にも明らかであろう、西崎と蝦名のシルエットも、気がついてこちらに来る。


「よう、来てくれてサンキューな。お前らも気がついたか?」

「やっぱり、さっきの花ちゃん?」

「そう、もう1人が森エレナだ。こっちの方に何があるのか知らんが」


 西崎が室田の住んでいた場所を知らないらしいことが、凪はちょっと意外だった。

「カイが、昔、室田くんが住んでたところがここら辺だって」

「なる!ほどな……」

 いつもの堂々たる調子で声を張った蝦名が、途中で慌ててトーンを落とす。

 それから、花たちが消えた路地の方へ目を向けた。


「よし、オレだけ追ってみる。みんな、ここで待機しててくれ」

 蝦名はノシノシと歩いて行く。

「え……いいの?」

 蝦名についていこうか、言われた通りにしようか隣を見上げると、西崎は頷いた。


「エビさんの感知ができるギリギリの距離で尾行してきたんだ。とりあえず、室田が来てからの方がいいと思ったんだが」

 その眼差しが曇った。

「さっきから、連絡が取れねえ」

「ええ?何やってんの、あいつ」

 口を挟んできたのは海人だ。


「今日は仕事にも行ってないはずなんだけどな」

 凪は嫌な予感がした。こんな時に、連絡が取れなくなるなんて、室田の身に何かあったか、それともまだ自分たちが知らない室田の事情があるのか……


「だけど、わざわざ前住んでたとこに、何しに来たんだ?カイもよく覚えてたな」

「いやぁ、何しにきたのかはオレも知らんけど。確か、もう建て替えらたかなんかで、建物もないんじゃないかな」


 海人は道路の向こうを見ながら、懐かしそうに笑った。

「オレらのうちもあっちの、5丁目の方だったから、通学途中によく室田に会ったんだよ」

 そばで愛凪がうんうんと頷いている。


「オレも室チンも朝ギリギリに来るタイプじゃん?一回、朝走ってきてぶつかりそうになったことあってさ〜、アイツ、ランドセル忘れてきてて、びっくりしたわ」

 緊迫した状況にも関わらず、海人は小声でそんなことを話し出した。


「そしたら、オレも体育着忘れてきててさ〜、2人でここで焦る焦る」

 声を顰めながら「ウヒャヒャ」と、1人おかしそうに笑う兄を、愛凪が心底冷めた目で見つめる。


「室田の妹、ここに住んでたのいつまでだ?」

 西崎は海人の話を聞いているのかどうか、路地の方へ顔を向けたまま、凪に聞いた。

 室田が引っ越したのが8年ほど前だから、と凪は花の年を計算してみる。


「小学校1年か、2年かそれくらいじゃない?」

「覚えてるか?それくらいの時のこと」

 それが、凪自身のことを聞いているのか、花が覚えているかどうかの疑問なのか、よく分からなかった。

 西崎も答えを求めたわけではないらしい。

「何しに、わざわざ来たんだ?」

 呟いて、首を傾げている。


 エレナがここへ花を連れてきたのか、花がここへ来たいと言ったのか、それも分からない以上、凪も何とも答えられない。


 不意に、路地から白い影が飛び出した。

 地上1メートルほどを音もなく滑空してきた、がっしりとした体躯は、言わずと知れた蝦名である。

 全員が慌てて周囲を見回す。幸いこんな時間のこともあり、人も車もいない。

 蝦名らしい大胆な行動だが、凪はヒヤヒヤした。


 街灯の灯りの下へフワリと足をついた蝦名は、すぐに翼を消し、そのままこちらへ駆け寄ってくる。

「戻ってくるぞ」

「よし、一回車に戻れ」


 そんなに急がなくてもよかったのだろうが、軽自動車に大の大人が5人ワラワラと乗り込んだ結果、

(なんで?なんなの、これ)

 凪は後部座席の中央で、蝦名と西崎に挟まれ、ひどく滑稽な状態に置かれることになった。

 なにしろ西崎はその長い手足をシートに納めるだけで窮屈そうだし、身長は西崎ほどではなくても、肩幅のある蝦名は1人でも後部座席の半分以上を占めそうだ。

 2人の間で肩をすぼめ、前屈みになっている凪は、長時間その体制を維持する自信はなかった。


 ルームミラー越しに後ろの様子を見た海人が、

「あのさぁ、エビさんが前に乗ればよかったんじゃねえの?」

 と、もっともな意見を出す。


「それもそうだったな、水沢さん、申し訳ない。なんなら、膝の上に乗ってもらって構わないぞ」

「い、いえ、結構です……」

 大真面目な口調で言う蝦名は、本当に真面目にそう言っているのは分かったが、「じゃあ」と言って、凪がそうするはずもない。


 助手席から凪を申し訳なさそうに見ていた愛凪が、吹き出しそうなのを堪えたのが分かった。隣の西崎もまた、口の端に浮かんだ笑みを誤魔化すように、窓の外に目を向ける。

「……」


「あ、」

 海人が顎で指し示す先から、2人の人影が現れた。


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