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flappers   作者: さわきゆい
第4章 嘘と沈黙と憧憬
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惑い、疑い

「みんなのこと……小学校で一緒だったみんなのこと、今どうしてるか調べて欲しいって。その時に、エレナがウィンガーの研究に協力していることも聞いた。きっと、いいことなんだと思ったんだよ。ウィンガーのためになることだって……」

「ダーウィンは、オレたちが隠れウィンガーだってこと、全部知ってるってことか」


 さすがに苦渋の色を滲ませた西崎に、室田はハッと顔を上げた。

「ううん、それはまだのはず!」

「なんで、そう言える?」

 室田は肩で大きく息をした。


「エレナ……言ってたんだ。みんなのこと、自分がのし上がるためのカードにするんだって」

「え?」

 凪も思わず声が出た。エレナがダーウィンと繋がっているという時点で、自分たちの情報も筒抜けなのだと思っていたのだ。


「これは……エレナが言ったわけじゃないんだけど。ダーウィンの中でも派閥争いがあるみたいでさ。エレナは……女王様になりたいんだ。誰にも文句を言われない、ナンバーワンになりたいんだ……」

 少々チープな文言だが、ホストをしている室田が言うと、妙に説得力はある。だが、凪は納得はできなかった。


 エレナとは半年しか過ごしていない。どんな話をしたかも覚えていない。それでも、あのニコニコ笑っていた女の子が、野心まみれの女性になっていることは想像し難たい。


「できれば、みんなを味方にしたいんだと思う。あの……オレはそう、思ってて……」

 確信を持っているのか、そうでもないのか、肝心の語尾があやふやになる。


「室田、質問に答えろ」

 スッと上半身を乗り出して言った西崎の声音に、凪まで背筋を伸ばさなければならなかった。

 室田は顔を上げ、ぎこちなく頷く。


「オレたちのこと、調べろって言われたくせに、水沢に会うまで誰にも連絡とってないよな?どうしてだ?」


「それは―」

 室田は助けを求めるように凪を見る。

(え、いや、そんな目で見られても、なんにも助けようがないよ……)

 凪としても初めて聞く話だし、室田を擁護する理由もない。

 諦めたように、室田はまた下を向いた。


「調べたよ。できるだけ。真壁くんと、ノッキくんのことはすぐに分かった。でも、登録者には協力してもらいずらいから、その情報はいらないって言われた。あっさりね。あとは、実家がそのままで、そこにまだ住んでる人たち。本郷くんとか、小宮山さんとか……分かる範囲で、今何してるか、報告してた。でも……オレじゃなくても調べられることばっかりだって言われてさ。でも、急に声かけれないじゃん……オレ、そんなに仲いい友達いなかったし」

 室田の唇が自重気味の笑いを漏らす。が、西崎の微動だにしない視線と出会って、その笑みを消した。


「だって、その……信じてくれないかもしれないけど……オレ、みんなのことを売るようなこと、したくなかったし……でも、お金もらっちゃってるし」

 室田の声が震える。

 西崎は小さく息を吐いた。


「あと、お前もウィンガーになったこと、いつエレナに言った?」

「えっ……ああ、割とすぐ……だったと思う」

 予想外の質問に、室田は目をパチパチさせたが、西崎は構わず続けた。


「自分で言ったのか?」

「あ、う、うん。誰かには……聞いて欲しかったし。というか、エレナしか言える相手は……」

 ドサッとソファに寄りかかり、西崎は明らかに不満そうな表情を隠さない。


「なんで、そこでオレらに話に来ないんだよ」

「え?」

「オレらがウィンガーなの知ってたんだろ、何年も。神社の裏で、翼出す練習してたのも見てたんだろ!相談するなら、まずオレたちじゃないのかよ」

「あ……」

「なんで、金で縛ってくるような相手を信用したんだよ。頼る相手をよく選べ」


(うわぁ、そう言われたって……)

 凪としては、狼狽える室田の方が共感できた。

 2年間、同じクラスで過ごしていたからと言って、なんでも相談できるわけがない。例え、ウィンガーという共通点があったとしても。

 まして、室田は中学1年で転校し、誰とも連絡をとっていなかったというし、いきなり「オレもウィンガーになりました!仲間に入れてください!」と、名乗り出てくるようなキャラでもない。


「で、エレナはなんでオレたちに直接接触してこない?」

 室田の明確な返事を待たず、西崎は続けた。

「室田、お前、ダーウィンが何をしているか、知っているのか?」

「え、あの事件のこと……?あの事件は、エレナとは別のグループのやっていることだって……エレナは人身売買とか、そういうのには関係してないって。すげー迷惑してるって」

「エレナがそう言ったのか」


 西崎が何を言いたいのか、凪も分かった。

「本当にウィンガーのための研究なら、堂々とそう言って交渉すればいい。コソコソ動き回るのは、そうしなきゃいけない理由があるんじゃないのか?研究と名目をつけても、誘拐同然で集めているなら、人身売買の連中とやっていることは同じだ」


 室田はグッと唇を噛み締めた。

 エレナを信じているというより、信じていることにした方が、余計なことを考えなくてよかったのだろう。

 室田の考えでいることが、なんだか手に取るように分かって、凪は自己嫌悪に陥った。自分が室田のような立場だったら、同じような行動をとっている可能性は高い。


「花ちゃんも信じているんだな。エレナのこと」

 室田はゆっくり頷いた。

「多分……」


「もしかして花ちゃん、エレナちゃんのところに行ったの?」

 ふと、そう思いついて凪は言った。

「だろうな」

 西崎はとっくにそれを考えていたらしく、あっさりと頷く。


「え、でもエレナが来てるって、花は知らないはずだし、それにいつ―」

 室田はそこで言葉を切った。彼の中でもいろいろと状況がつながったらしい。

「トイレに行くって……連絡してたのか―」


「じゃあ、あそこで逃げ出したの、エレナの指示か……」

 西崎の目はその言葉に同意していた。


「花ちゃん、悪気はなかったと思うよ。ただ、お兄ちゃんがピンチだと思って……相談したんじゃないかな」

 西崎が気を悪くしなければいいが、と思いながら、凪は室田へそう言った。もっとも室田はあれこれ思い巡らせているようで、あまり耳に入っていない様子だ。


「どう……す―」

 西崎にそう聞こうとした時、室田の着信が鳴った。

「―エレナだ……」


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