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flappers   作者: さわきゆい
第4章 嘘と沈黙と憧憬
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ある日の西崎

「何か分かったか?」

 西崎は挨拶もそこそこに、パソコンの画面のの相手へ尋ねた。

 モニターの向こうのマイケルは、珍しく気難しい顔をしている。

 日本語で答えようとしたが、やはり英語の方が話しやすいと思ったらしい。そこからの会話は英語で進んだ。


 須藤の事件以来、マイケルはダーウィン・ミッションの調査を独自で続けていた。

 事件後になりを潜めたきり、表だった活動をしていなかったダーウィン・ミッションだが、夏頃から色々と情報が漏れて来たらしい。

 その中に、彼らの仲間にアーククラスのウィンガーがいる、という情報があった。


 須藤たちだって、ウィンガーであるにも関わらず、ウィンガーの売買取引に関わっていたわけだから、組織の中に、他にもウィンガーがいるのは不思議ではない。だが、マイケル曰く、

「アーククラスのウィンガーはそうそういるもんじゃない。お前たちの仲間が異常なんだ」

 ということらしい。


「空を飛べるウィンガーなんて、アメリカでは2人しか知らない」

 そのうちの1人がマイケルというわけだ。

「情報が真実なら、ダーウィンのウィンガーが3人目だ」

「オレたちみたいに隠れている可能性だってある。ウィンガーの実際の数なんて、」

 西崎が反論しようとした時、画面にもう1人の顔が割り込んできた。


「ヘイ、ブラザー、熱くなるなよ」

 青い目がウインクする。

「ヘンリー、いたのか」

「今、来た」

 あともう1人のアーククラスのウィンガー。ヘンリーは爽やかな笑顔を見せた。


 マイケルを押し除けるようにして、画面の前に座る姿は子供っぽさを感じさせるが、西崎と同い年である。

 大半の女性はおろか、男性の視線も惹きつけるほどの端正な顔立ち。長い前髪をかき上げながら、真っ直ぐにこちらを見てくる顔はグラビアの表紙のようだ。隣のマイケルは完全に引き立て役になっていた。


「ま、君らのそういうところ、オレは嫌いじゃないけどね。でもダーウィンの情報は信ぴょう性高いんだ。そのアーククラスがダーウィンに加わってから、どうも商売気が強くなったみたいでね。それが原因で、ダーウィンを離れた連中がいるんだ。そこと接触して得た情報なんだよ」


 ヘンリーは横目でマイケルを見る。マイケルの方は少々面白くなさそうな顔になっていた。自分が話すつもりだった内容を横取りされて気に食わないらしい。


「実際に、そのウィンガーに会った連中ってことか」

「いや、それなんだが」

 マイケルがずいっと乗り出してくる。

「実際に彼女に会っているのは、上層部のごく一部だというんだ。下っ端の奴らはビデオで、その()使()が飛んでいる姿を見て、声も聞いたと言っているが」


「彼女?女なのか」

「そう。プラチナブランドに、ブルーの瞳。美しい声」

 笑い声混じりに、ヘンリーが言う。

「どこまで真実かわからないけどね!」


 マイケルがわざとらしくため息をついて続けた。

「通称はエンジェル。本名は分からない。熱狂的に信奉する人間がいる一方で、反感を持つ人間もいる。謎のウィンガーだ」


(謎ね。それで片付けられたら楽だけどな)

 軽い不快感を感じながら、西崎は頷いた。

 マイケルは陽気で気のいい男だが、少々、大雑把なところがある。都合のいい方に思い込むところも。


 西崎の思っていることを知ってか知らずか、ヘンリーはマイケルの肩に手を置いて、愛想のいい笑みを見せる。マイケルはジロリとヘンリーに視線だけ向けたが、大きな体の割にあまり迫力はなかった。


「一度、この目で見てみたいね。そのウィンガー。ダーウィンの意図が金儲けだけなのかどうか気になるとこだし。もう少しボクたちは彼らの監視を続けるよ」

 ヘンリーの言い分は最もだったらしく、マイケルは黙っていた。


 ヘンリーはこう見えて、マイケルよりずっと慎重な男だ。人のこともよく見えている。時折見せる、軽薄な言動も大抵は考えがあってのことだ。

 信頼という点では、西崎はマイケルよりもヘンリーを買っていた。


「そのエンジェルがダーウィンのまとめ役ってことか?」

 質問というより確認の意味だったが、画面の向こうの2人はここは揃って首を振った。

 ヘンリーが面白そうにマイケルを見る。マイケルがそっぽを向いたので、ヘンリーは自分が喋っていいと解釈したらしい。


「いや、彼女は広告塔みたいなものだ。信奉者を集めるための。トップにいるのはガブリエルと呼ばれる人物で―お父さま、と呼ばれているところを見ると、男性なんだろうな。この人物には、ほんの限られた人間しか会うこともできないってことだ」

 西崎がひどく顔をしかめたのに、ヘンリーはいたずらっ子のように笑ってみせた。

「まるで、カルト教団だろ?」

 西崎が思った通りのことが、その口から出てきた。


「ああ。希少生物の保護団体はどこに行った?」

「yeah、地平線の彼方に去ったらしい。そんな活動していたことも忘れたんじゃないかな、彼らは」


 ウィンガー密売を生業にする、カルト集団に成り果てたということか。それがアーククラスのウィンガーの先導によるものならば、全くカオスな話である。

 西崎は不愉快さを隠すことなく、表情に出していた。


「オトヤ、ずいぶんダーウィンのことを気にするね」

「当たり前だ。オレらにも手ぇ出そうとしてたんだ。今はおとなしいけど、この後、何してくるか分かんないしな、情報は集めておかないと」

「ふうん、」

 ヘンリーがサラリと前髪を掻き上げる。

 いささか、きざったらしい仕草だが、その容姿の良さを十分引き立てる動きだ。本人もそれを自覚してやっている節がある。


「なあ、情報を提供する代わりに、ボクも見返りが欲しいな」

 わざとらしい甘い声が西崎に通用しないことも、百も承知だろう。

 西崎が「何が欲しい?」と聞く前にヘンリーは続けた。


「ボクも会ってみたいんだよ。ナギ・ミズサワに。マイケルは会ったんだろ」

 拗ねるような流し目を、マイケルはスルーした。

「そうだ。マイケルが会っている。それで十分だろ。彼から話を聞けばいい」

「どうして会わせたくないのさ。君に何か不都合でも?」

 こうなってくると、ヘンリーは面倒だ。頭もキレるだけに、会いたいとなったら様々な手段を講じそうだ。


「彼女はとてもキュートだ。だが、怖いぞ」

 意外にもマイケルが口を挟んだ。高野愛凪の翼発現時に、マイケルと一悶着あったのは聞いている。小柄で普段はおとなしい女性に説教を喰らったのは、マイケルにとってそれなりにショックだったらしい。

「彼女にも見返りがないと、難しいんじゃないか」

 ヘンリーが首を傾げてマイケルを見る。

「マイケル、いつの間に、女王のファンになったのさ」


「ヘンリー、水沢に話はしてみる。だけど、会うかどうか決めるのは水沢だ」

「是非にと伝えてよ。もしかしたら、レイコセンセイの調査も手伝えるかもしれない」


(コイツ……)

 西崎は内心、舌打ちした。

(絶対、れい子先生の情報も何か握ってるな……)

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