不穏な報告
集まったのは、西崎、本郷、暦美といういつものメンバーに加え、元太、蝦名、室田、桜呼そして凪の8人だった。
この人数が集まっても窮屈さを感じさせないリビングの広さが凪は羨ましかった。
元太から今回殺された渡辺が、須藤の足跡を追って6年前の殺人事件に興味を持っていたこと、そこに同級生の「高橋全」を名乗る人物が関わっていることなどを一通り聞くと、暦美が真っ先に口を開いた。
「つまり、その渡辺っていう人、私たちを疑ってたってこと?もしかして、今回の事件もそれに関係あるってこと?」
ふくれっ面で、ひどく不本意そうな顔をしていたが、それは全員に言えることだった。
「いや、今回の渡辺さんの事件についてはなんとも……警察にもその話はしていないし、ね」
元太が取り繕うように言っても、戸惑いの空気は変わらない。
「全くんって、高校になる時に引っ越したよな?連絡とってたか?」
本郷が全員を見回してから、室田に視線を向けて言った。
室田はすぐ首を振った。
「オレ、引っ越してからは誰とも……」
凪も高橋全のことは覚えていた。覚えていたと言っても、当時の外見を思い出せるというだけで、特に際立ったエピソードがあるわけではない。
ヒョロっと背が高くて、色白の男の子だった。
(おとなしい子だったな……確か、室田くんと仲がよくて)
だから、本郷も室田に聞いたのだろう。
「うん、渡辺さんもそれは調べていた。だから、誰か―君らの同級生の誰かが、全くんの名前を騙ったんじゃないかと疑っていたんだよ」
「オレらの誰か?なんのために……」
眉を寄せた西崎に、元太は言いづらそうに口を開いた。
「渡辺さんは、優秀な人だったんだと思う。だけど、少々偏った意見を持っていた。ウィンガーはみんな、現状に不満を持って、恨みを持っている。そんな風に思っていたみたいだ。だから、ウィンガーになった子供たちは、れい子先生に恨みを持っているんじゃないか、とね」
全員が微妙な顔つきでお互いを見やった。
凪としても、野宮れい子に対する感情は複雑だ。だが、それは恨みというほど強い感情だろうか……同級生の中には、そんな風に思っている者もいるのだろうか……?
「渡辺さんは……もしかしたら、野宮先生は―その……亡くなっているんじゃないかと。そこに、君たちの誰かが関わっていて、元石さんの事件にも繋がっているんじゃないかと。そんな風に推測していたんだ。ありえないと言ってやったけどね」
最後の言葉に、元太の憤りが感じられた。
「え?なにそれ!それって……れい子先生も殺されたんじゃないかってこと?私たちがそれに関係してるって?冗談でしょ?」
暦美の声が裏返っている。
「考えてこともなかったな。なんてドラマチックな筋書きだ!」
蝦名の大袈裟な言い方にも、笑う者は誰もいなかった。
西崎と本郷は何も言わず、ただお互い視線を合わせている。
(この2人は……れい子先生が亡くなってる可能性も考えていたんだな)
直感的に凪はそう思ってから、自分もそれについてはそう驚きもなく受け入れていることに気づいた。
「そんなことってある?先生を……殺してなんになるっていうの?本当に先生がウィンガーの発現に関係していたとしても―」
興奮気味の暦美の言葉を遮るように、桜呼が言った。
「だから!そこにウィンガーにさせられたっていう恨みが、ってことでしょ。私は、れい子先生が亡くなっててもおかしくないとは思うわ。クラスの誰かがそれに関係してるってのはナンセンスだけど」
「先生が死んでるって、なんで思うのよ?!」
「だって、もう―8年も手がかりもないなんて、おかしいじゃない」
「今までのこと考えれば、アメリカに帰って、別人になりすましている可能性の方がありそうでしょ」
「いや、オレもアメリカに逃亡している方に1票だ!」
2人の間に、恐れ知らずに割り込んだのは蝦名だった。
「というか、それしか考えていなかった。それだって、十分ドラマチックだ!」
最後の一言に、凪はちょっとずっこけそうになった。そっと周りの顔を窺うと、それぞれ呆れたような戸惑ったような表情を浮かべながら、それでも少し緊迫した空気が和らいでいる。
「ドラマチックがどうかは、比較しなくてもいいけどな」
西崎が苦笑しながら口を開いた。
「元太さん、その渡辺さん、先生のことも結構調べてたわけですよね?当然、オレたちのことも」
元太は頷いた。
「ただ、登録されている他にも、れい子先生のクラスからウィンガーが出ていることまでは考えていないようだった。だから、真壁くんや寺本くん、あとは不動くんたち兄弟について調べていたようだよ」
「あとはカイと、その妹あたりも調べられてたんだろうな」
本郷が付け足す。
名前の出たそれらのメンバーは今日は来ていない。
ウィンガーが渡辺の殺害に関わっている可能性を警察が考えているとすれば、ウィンガー同士、頻繁に会っているのを確認されるのは好ましくないと、西崎が判断したのだ。
西崎は身を乗り出した。
「伊達守さんからの情報だと、渡辺さんの持ち物はほとんどなくなっていたらしい。対策室にいた時に、警察とも繋がりがあったらしくて、渡辺さんをよく知っている人が県警にいたんだと。それで身元がすぐ分かったそうなんだ。自分の調査している内容はあまり人には漏らさず、調査もほとんど1人でやってたらしくて、絵洲市以外で殺されてたら、身元の確認にも時間がかかったんじゃないかってことだ」
元太が頷く。
「警察は、渡辺さんが現在の仕事がらみでトラブルに巻き込まれた可能性が一番高いと見ているらしいよ。ぼくの印象だけどね―ただ、具体的にどんなことを調べていたかは警察はまだ分かってないらしくて。何か手がかりになりそうな話をしてなかったかって、しつこく聞かれたよ」




