第二章 第四十七話 屋根裏部屋
ドアを開けると、奥の窓から真っ赤な光が、部屋を照らしている。
その窓の前に椅子に腰掛けている少女がいた。
少女は膝に置いている人形の頭を撫でながら、何かブツブツ言っている。
「可愛いアン。私の妹……」
彼女はそのことだけに集中しているようだ。
扉を開け、部屋に侵入したのに全く気づいていない。
部屋を見渡そうか。
屋根裏部屋は広いが、屋根があるため少し低く感じる。
部屋の中は無造作に置かれた黒い棺桶に、謎の彫刻や銅像。
あとは謎のアーチがあった。
それにしてもなんだこのアーチは?
植物園とかに置いてるやつじゃないか?
スチュアートが屋根裏部屋と言っていたので、狭く暗いものだと思っていたが、違ったようだ。
アンが「お姉様……」と呟く。
あれがアンの姉、レベッカ・バートリー。
瞳は赤く、銀髪ショートボブの少女だ。
この子と戦わなければならないのか。
アンが大声で「お姉様!」と叫んだ。
「私です。あなたの妹、アン・バートリーです!」
しかし、彼女は反応しない。
ブツブツ言いながら、人形を撫でているだけだ。
アンの顔が歪み始める。
もし亮夜だったら、ここでキレるのだろう。
実際、俺もこれはあまりにも酷いと思う。
「そんなに人形が可愛いのか?」
つい口に出してしまった。
我慢できなかった。
レベッカは「人形?」と答え、冷たい目つきで俺たちを睨む。
「私の妹は人形じゃない……あなたたち、誰?」
嘘だろ? アンがいるのにそれを言うのか?
「お姉様、私です。アンです!」
レベッカは首を傾げ、人形を見る。
「アンはここにいる。あなたは誰?」
「えっ?」
アンを見ると、目を見開き、そして俯いた。
実の妹を理解できていない?
「アンはここだ! その人形じゃない!」
「アン、あの人たち怖いわね。あなたを人形っていうのよ。あなたは人形じゃない可愛い私の妹」
ダメだ。聞く耳を持っていない。
どうすればいいんだ?
そんな時、岩城の姿が脳裏に浮かんだ。
そうだ。岩城ならこう言うだろうな。
「君の妹は撫でられるだけで、喋ることも歩くこともできないんだね」
「はぁ?」
「だってそうじゃないか。その子は俺たちが入ってきて、挨拶もしない。どういう教育してるの?」
アンが俺の服を引っ張る。
「宏? どうしたの?」
俺は小さな声で「アンは下がっていて」と伝える。
アンは「うん」と答え、俺から離れる。
もう後戻りはできない。
後ろは崖、前は虎がいる。
可能性がある方は前しかない。
前に向かうしかない。
俺は小さな声で「まぁ、虎というか吸血鬼だけどな」と呟く。
「もしかして君の妹、何もできないんじゃないか?」
そう言った途端、全身ピリピリし始める。
「あなた……言ってはいけないことを今言ったわ」
レベッカは立ち上がり、人形を椅子に座らせる。
「大丈夫。あなたはあたしが守る。あなたのお姉様だから」
彼女は振り向き、俺を睨む。
「あたしはレベッカ・バートリー。オロチ様の命によりあなたを消す。またあたしの妹を侮辱したから消す。ここに入ったからには逃げれると思わないでよ」
逃げる?
前の俺だったら、逃げたいって思っただろうな。
でも今は——。
「逃げる気はない!」
俺はレベッカに睨み返す。
「そう——ついでにあなたを消した後、その子も消すから」
彼女はアンを見る。
俺もアンを見る。
アンはミニブギーマンを抱きしめている。
こんなか弱い少女を残すわけにはいかない。
絶対生きなきゃな。
そう思いながら、視線をレベッカに戻すのだった。




