第二章 第四十一話 歯車が舞う
岩城はその攻撃を押すように左へ受け流し、そのまま左へ動いた。
ノコはレイピアを突き出したまま、彼をじーっと見つめている。
その姿を見て亮夜はこう言った。
「宏、なんであいつレイピアを突き出したままなんだ?」
「どういうことだ?」
「だってよ。岩城は左に受け流したよな? 何でレイピアは真っ直ぐ向いてんだ? 岩城だって受け流したら、普通右側にいかねぇか?」
再びノコを見る。
彼女の剣先は真っ直ぐ向いている。
その横で剣先を見つめる岩城がこう言った。
「うへー、こっわ。目の前に現れて、レイピアを受け流したと思ったら、それが無くなってるんだもんなぁ」
彼の右腕に掠った痕がある。
左に移動したのは避けるためか。
ノコは右手に持っているレイピアを彼に定め、連続で突き始めた。
鋭い突きは岩城を戸惑わせる。
刀で器用に受け流し続けるが、押されている。
彼の正面にいたと思っていたら、突然彼の真横に現れ、レイピアを突き出した。
岩城はバレリーナが如く、くるくると回転しながら、彼女から少し距離をとる。
片手で刀を持ち、彼女に切先を向け、話始めた。
「あっぶないねぇ。僕を串刺しするきかい?」
「串刺しにする気はありません」
「おっ? 話聞いてくれるの? ……って、うわお! 会話中に攻撃する?」
「油断している時に攻撃するのは定石です」
鋭い突きが岩城を襲う。
「君も同じ技しか……えっ?」
「「えっ?」」
思わず俺と亮夜は声を出してしまった。
それもそうだろう。
さっきまで攻撃していたはずなのに、彼女は岩城の背後でレイピアを構えている。
そして、そのまま突き刺した。
俺は目を瞑った。
無理だ。彼女の能力が強いことがわかった。
彼女には勝てない。
やはり無理だったんだ。
たとえ岩城でも……。
カン!!
えっ?
予想外な音がした。
目を開けると、岩城の背中に鞘がくっついている。
いや、鞘で身を守ったのか。
レイピアは鞘に突き刺さっている。
「ふぅ、あっぶなぁい」
岩城はわざと煽るように笑う。
その光景を見て、亮夜が苦笑いしながらこう言った。
「あいつやっぱすげぇな。いつの間にか鞘を左手で持ってやがった」
そうだったのか。
ノコは目を見開いている。
「ねぇ、ノコさん。君の能力わかっちゃったかも……」
岩城が笑っている。
「何を言っているのでしょうか? 私の能力など……」
「一体、何回錯覚したんだろうねぇっ!!」
「!?」
レイピアが刺さった鞘を無理やり下におろす。
ノコの体勢が崩れた瞬間、彼女は消えた。
「もう騙されないよ!!」と岩城は刀を振り下ろした。
下ろした瞬間、ネジや歯車が飛び散る。
右腕を斬られたノコがバックし距離をとった。
「さすがでございます。まさか右腕が斬られるなんて」
「ありがとう。女性を傷つけるのは苦手なんだけど。今日は特別だよ」
「左様でございますか……では最後です」とノコが言った瞬間、彼女は消えた。
「君がもう少し考えれていたら、僕は負けたと思うよ」
そう言い彼は後ろを振り向き、刀を横一閃に振るった。
歯車やネジが床に散在する。
ノコの体が上半身と下半身にゆっくりとずれていき、スーッと落ちていく。
「君の敗因は僕の間合いに入ったことだよ」
ドダ・ドダン!
彼女はそのまま床に倒れた。




