第952話 新たな神との邂逅
一緒に来た冒険者は、もうすっかりブルってしまっている。こんな体験をした事なんてないだろうし、どんどん奈落に向かって落ちていく事に絶望を感じているようだ。この裂け目はかなりの深さがあって、いつまでたっても底に到着しなかった。
《あー、一応全員に装備を出す》
《分かりましたご主人様》
《《はい》》
《ハイ》
いきなり、全員の手元に出てきた機関銃を見て、冒険者達が驚きの声を上げる。
「また! どこから出て来たんですか!」
「えっ? 知らないの? 収納魔法」
本当は、召喚だけど。
「収納魔法は聞いた事がありますが、見たのは初めてです。そして、全員がこれを使えるのも驚きです」
まあ、収納魔法はグレースしか使えない。強いていえば、腹の中に武器を仕舞えるのは、ファントム。収納って感じではなく、不可思議な次元に武器が収納されるって感じだけど。それを説明したところで、きっと意味はない。それよりも、下に着いた途端に襲われる方がまずい。
そしてようやく、底が見えて来る。
「随分深いな」
そこは盾に広がっているようで、どこまでも続く岩壁が聳え立っていた。
「だな。おっと……」
てっきりそこで終わりだと思ったら、今度は横にスライドしてデカい穴に入っていく。
「まだ、終わってなかった」
「どうなってるんだこれ」
そして俺達の視線の先には、超巨大な岩の扉が見えて来る。それは開いており、俺達はそこに入った。
そこは、まるで白い神殿のようになっており、その中心にさっきのデカい巨人がいた。
「だらば、降りるべよ」
巨人に言われて、俺達はその岩の乗物から降りる。いきなりの攻撃などは無く、怪しい雰囲気もない。
「こっちだべ」
ズンズン! と、巨人について行くとまた扉が開く。しかし扉は、巨人が入れる大きさでは無かった。多分、腕くらいは入るかもしれないが、どう考えても体のサイズが合わない。
「おでは、ここまで」
すると、冒険者達がガタガタ震えて聞いて来る。
「どう考えても、もう普通じゃないですよね?」
「生きて戻れるんですか?」
「ダンジョンの主とかがいますよ。これ」
「かもね」
「かもねって。そんな……こんな兵力では太刀打ちできませんよ!」
「いやいや、戦うって決まった訳じゃないよ」
「そんな、お気楽な」
「この感じは、多分そうならないと思ってる」
俺達が無造作にその扉に入っていくと、通路のようになっていて、その先の扉の前に何かが立ってる。それはひょろりとした人間のようだが、明らかに人間では無かった。
「なんだありゃ」
「人?」
見れば鉄っぽい素材で出来ている人形で、二体が俺達の前に立ちはだかる。それを見てカララが言う。
「おそらく、アイアンゴーレムの一種です」
「アイアンゴーレムか……」
俺達がその前に立てば、そのうちの一体から、声が発せられた。
「ようこそ」
それは、上の水晶で聞いた声と、同じだった。恐らくは、このゴーレムを通じて話しているのだろう。その目が俺達を捉えていて、恐らくは違う場所から監視しているのだ。
「随分、綺麗な声ですね」
「ああ、伝達が良いだろう?」
俺がそれを通じて、本体と話している事が伝わってるのだろう。理解していると、知っての話し方だ。アイアンゴーレムが、扉を引くと中にさらに部屋があった。
「どうぞ、お入りください」
中に入れば、同じようなアイアンゴーレムがずらりと並んでいた。というかその数、百体くらいいる。
なんか、スッゴイ几帳面な感じで、使役している人の性格が出て良そうだ。
その先に……。
俺がエミルに言う。
「あれ……炬燵じゃね?」
「ぽいな」
そこには、炬燵に入った何かがいた。俺達が近づいて、挨拶をしてみる。
「えーっと。どうも」
「まあ、こっちへどうぞ」
うん……多分どこからどう見ても、獣人だ。恐らく猫系の獣人だと思う。目が細くて毛むくじゃらで、髭がつんつんと生えている。俺達が近づいて行くと、猫の獣人が言う。
「ああ、その透明な壁は、神しか通れないよ」
何も見えないが、俺達の前には壁があるらしい。仲間達に振り向いて言う。
「シャーミリア、カララ、アナミス。ここでまて!」
「しかし、ご主人様」
三人は心配そうな顔をするが、俺は笑って答える。
「この先は、神しか入れない。と言う事は、この人は神だよ」
「それは……はい……」
それを聞いていた、冒険者達が目を丸くして言う。
「ちょ、ちょっとまってください! 神? どういうことです?」
だが、シャーミリアに手で制される。
「ご主人様が、ここで待てと言った。従え人間、神の御前である」
シャーミリアから、ぶわりと物凄い殺気が出て、冒険者が青くなってへたり込む。
「シャーミリア。あまり怖がらせるもんじゃないよ」
「ご主人様。申し訳ございません」
「じゃあ」
俺とエミルが、そっとその先へと進んだ。確かに、薄く空気の壁があったように思える。そして……、間違いなくこれは炬燵であってる。炬燵に入ったまま、猫の獣人はじっと目を細めている。
猫に炬燵……べただな。
「次世代の、魔人と精霊神かな?」
可愛い猫なのに、声がめちゃくちゃイケボで、見た目とのギャップが凄い。
「そうですね。あなたは?」
「はじめまして。破壊神です」
その挨拶を聞いた時、俺とエミルはその圧で身構えてしまった。今までの神と同じで、なにかがある。
「身構えなくていい。君らを、どうこうする事はない」
そこで、俺が言った。
「良かったです。新たな神よ」
「なんだ。今までも会ったのかい?」
そして俺は、破壊神に対し、ほとんどのシダーシェン(大十神)に会った事を話す。
「みーんな、耄碌してるんだねえ……」
「元気でしたけど」
「ふむ。なんかね、そろそろ世代替わりだし、神たちが動く気配がしたんだよ。だから、岩戸を開けた」
「そうだったのですね。地上では、新たなダンジョンが生まれたと騒いでます」
「そんな大したものじゃないさ」
スッと、破壊神の猫の手が前に出ると、炬燵の上に、お茶と茶菓子が出て来る。
「まずは、おもてなしだね。何のお構いもしなかったら、他の神に笑われる」
「いやー、みーんな、変でしたけどね」
「プっ。あーはっはっはっ! そうかそうか、きっと、歳をとって偏屈になったんだろう」
破壊神が、お菓子を口に放り込み、お茶をすすったのを見て、俺達も同じように口に入れた。
ポリ……。
「うっま!」
「うまい!」
「そうか、そうか! 私はね、ずーっと、ここでお菓子の研究をしていたんだ」
「は、破壊神なのにですか? お菓子の研究?」
「いや、破壊神って呼び名に語弊があると思うんだよね」
「語弊?」
「壊して新しくするみたいな、役割だからね」
何やら、哲学的な話になりそうな雰囲気。とにかく、俺達は最後のピースに巡りあたったわけだ。
「壊して新しくですか?」
「そうだね。私の力はそうだね」
「なるほど。では、お伝えしておきます。セレスティアル・アービトレーションが行われます」
セレスティアル・アービトレーションと言うのは、神々が集まる話し合い、天界調停のことだ。
「セレスティアル・アービトレーション?早速かい?」
「はい」
セレスティアル・アービトレーションの話を、すると細い目を少し見開いて、驚いたような声を出す。
「なんだって? 新しい、神々でなにか揉め事でもおきたかい?」
「それが……」
そして俺は、魔神の俺、精霊神、龍神、虹蛇、アトム神の出会いとの事、そして豊穣神、死神、雷神、とも巡り合った事を話した。更には、恐らく火神が何故か、攻撃をして来たことも付け加える。
「そう言う事か……そんな事に……」
「あの、この話は、あちらに聞こえてます?」
俺は一応、冒険者を気にした。
「いや、ヴェールの外には出てない」
そこで、俺はモーリス先生と話し合った末の、ある答えを話してみる。
「僕の考えを話しても?」
「いいよ」
「本来、神を継ぐ者は、この世界に生まれ育った中で、資質のある者がなるものだと思うんです」
「そうだね」
「だけど、なぜか、他の世界と繋がってしまった。と考えています」
「他の世界? どういうことだい?」
猫の細い目が鋭く、俺達を睨む。もちろん、これが正解と言う訳でもない。だが俺は素直に白状する。
「僕らは、皆、別の同じ世界から来た者達です」
「別の同じ世界……」
「なぜか、同じ世界から呼ばれてます。更には、その世界から人が呼ばれて戦いが起きた事もあります」
「他の世界……この世界の者ではない意識が、入り込んだと?」
「魔神である僕も、精霊神である彼も、皆が同じ世界から来てますので、もしかするとシダーシェンが、すべて同じ世界から来たものたちで、世代替わりする可能性が高いと考えているんです」
シダーシェンとは、十神の事である。
沈黙する。代替わりの誰かが来ると思ったら、いきなり複雑な話をされて困惑しているようだった。
「君は……それで、どう考えたんだ?」
「前の世界の価値観は、少しばかり狂っていました。こちらの世界よりも、かなり発達していたんです。前の世界の人間が、この神の力を誤った使い方をしてるかもしれません」
「それが、火神だと?」
そこで、俺が首を振る。
「自分達も、正しい使い方が出来ているかどうか分かっていません。ただ、この力をもって不毛な戦いが始まってしまった。そういう状況だと思っています」
破壊神が髭を撫でながら、深く考え込んでいる。
「ふむ……」
考えている間、仕方がないので俺とエミルはポリポリとお菓子を食う。
「うっま……」
「これ……持ち帰りたい」
「ということはだ」
「はい」
「私の神子も、君らと、同じ国から来ているかもしれないという事かな?」
イケボで言われて、俺はハッとする。
そうだった。てことは……。
俺とエミルは、顔を合わせる。
「「ブリッツ!」」
「む? なにか、心当たりがあるのか」
にゃんこの目が、かッと見開いた。
「えーっと、もしかしたら破壊神様の、次の世代がいるかもしれません」
「なんと……もう見つかっているのか?」
「同じ世界から転生した者です」
「同じ世界か、道理は通っているな。連れてきているのか?」
「いや、モエニタ王都の北に」
するとにゃんこは……もとい、破壊神はがっかりした顔をした。
「すぐに会えるのだと思った……」
だが俺とエミルが、すっくと立って告げる。
「「すぐに!」」
俺達が神様、ゾーンのヴェールを抜けていくと、皆がさっきのまま待っていた。
「どうされました! ご主人様!」
「神様を見つけた! みんなはここで待っていろ! カオス!」
俺はカオスのところに立って、行先を告げる。
「モエニタ基地まで飛べ」
魔法が発動し、俺は次の瞬間にモエニタ基地にいた。周りの魔人達が、ビシッと整列をして迎える。
「ラウル様!」
「おお、よくやってるな」
「ラウルさまー!」
すぐに、ゴーグが駆け寄ってきた。
「ゴーグ。ブリッツはどこだい」
「オージェさまと、体術の訓練をしてます!」
「連れてって」
「はい」
バシュッと、ゴーグが巨大な狼に変身して伏せをする。俺は、すぐにその背にまたがった。
「カオスも乗せて良いかい」
「いいです」
「お前ものれ」
青い顔をしたカオスが、スーッとゴーグに乗ると、ゴーグがブルブルと身震いする。
「大丈夫か?」
「ちょっと、気味が悪いです」
「すまん」
ゴーグが走り出し、あっという間にオージェとブリッツのところにやってきた。訓練場になっていて、オージェがブリッツに体術を教えていた。
「おお、ラウル戻ったのか?」
「オージェ! 神様の一人を見つけた!」
「なんだと!」
「ようやく最後の一人だ!」
オージェが、ブリッツを見る。ブリッツはもう飲みこめていて、俺に向かって言う。
「いよいよ……ですか」
「ああ。いよいよだ」
「僕が、この世界に来た本当の理由に会う時が」
「そうだ」
それを見ていた、グレースが走ってやってきた。
「ラウルさん! 単独で戻ったんですか?」
「ああ、見つけたぞ! 神を」
「ようやく……ですか」
ブリッツは緊張気味の顔で、俺を見ている。すると、オージェが言った。
「ブリッツが不安ならば、俺もついて行くさ。グレースもくるだろ?」
「ですね。新しい神を見てみたい」
「来て下さるんですか?」
「当たり前だ」
「皆に伝えた方がいいだろうな」
「そうしよう」
「ゴーグ! 皆を司令塔に集めてくれ」
「はい」
ゴーグが先に走って行く。後をついて行くようにして司令塔に辿り着くと、モーリス先生がいた。
「ラウルや」
「先生!」
「神が見つかったのじゃろう!」
「はい」
皆が集まったところで、いきさつと今の状態を伝えた。すると、アウロラまでが行きたいと言い出す。同じ神として、顔を合わせておきたいという事らしい。だがそれを聞いて、モーリス先生までが行くと言い出した。
「ねえ、お母さん。いいでしょ」
イオナが渋々許可をした。
「ラウル。面倒見てね」
「わかってる。母さん」
そして、オージェが俺も言った。
「いいんじゃないか? 神が集まった方が、いいと思う」
「まあ、そうだな」
皆が直ぐに身支度を追え、ブリッツ、オージェとグレース、アウロラ、モーリス先生を連れ集まった。
「じゃあ、行って来るよ母さん」
「わかったわ」
すぐにカオスの転移で、先ほどの場所へと舞い戻る。
「連れてきた」
すると、にゃんこが……破壊神がはっきりと目を見開いた。
「おおおお! 受体の器だ! 今度は、人間だ! 獣人じゃないのか?」
「ね、猫?」
破壊神は、するりと炬燵から出て来て、俺達の前まで歩いて来る。
あれ? 何か……いつの間にかタキシードを着ている。
「シャーミリア。あれ、どうしたの?」
「神子に会うのであれば、正装でと、お着換えなさったのです」
「そうなんだ。神にも、いろんなのがいるんだねえ」
そして破壊神は、ブリッツの前に立ってにこやかに言う。
「好青年ではないか!」
「はは、まあ……」
破壊神が大声で、ずらりと並んだアイアンゴーレムに向かって言った。
「代替わりの受体をするぞ! 新しい主の為の、宴の準備をせよ!」
そういうと、アイアンゴーレムは一斉にザザザ!と、部屋を飛び出していく。破壊神が手を伸ばすと、その場所にどでかいテーブルが現れた。そして、アイアンゴーレムが次々に料理を運んで来るのだった。なんか、今までで一番、人間臭い神様に会った気がする。




