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第903話 険しい山脈で新たな魔獣に遭遇

 どうやら冒険者達は、俺達のハンヴィー装甲車を新たな脅威だと思って飛び出して来たらしい。俺達が車から降りるのを見ると、剣や槍を仕舞って集まって来る。先頭に立つイケメンの頬に傷がある男が言った。


「なんだそれは? 馬車か?」


「魔道具だ」


「王都にはそんな魔道具まで出回っているのか!?」


「そんなところだ」


「そんな魔道具は今まで見たことが無いぞ」


「最新だ」


「あんたらよっぽど金持ちなんだな」


 えっとどうしよう、何か疑われてる? 金持ちがここに来たらおかしいんか?


 するとシャーミリアが胸元から冒険者バッジを取り出して見せた。


「これを見たら分かるかしら?」


「ミスリル冒険者?」


「そう」


「もしかしてギルドから派遣されてきたのか!」


「ええ」


 シャーミリアの話を聞いてようやく理解できたらしい。


「良く来てくれた! 山脈の調査を依頼されたんだな?」


 そして俺が話を変わる。


「そう言う事だ。西の山脈に登る」


「「「「「「おおお!」」」」」」


「だが期待しないでくれ。あくまでも調査が目的であって、それ以上の事はしない」


「いいんだ。まずはどのような危険な状態かを知りたいんだ」


「わかった」


 そして俺達は、冒険者の天幕が集まった場所に迎え入れられた。ミスリルのバッジは冒険者にとって、それだけ信頼度が高いものらしい。だがその歩いている途中、何人かの冒険者がざわついている。


「なんか…どっかで見た気がする」

「お前もか? 俺もなんとなく見た気がしてたんだよ」


 ギク! たぶんそれは悪魔の手配書だ。冒険者の噂を耳に挟んだ俺は無難に答える。


「似てる奴なんかあちこちにいるからな」


「あんたらに似てるやつなんて、そうそういる訳ないだろう」


「そう?」


「そうそう」


 だがイケメンの傷フェイスが言う。


「お前達、細かい事はどうでもいいんだよ! とりあえず西の山脈を調べてもらわなければ、話にならんのだ。今の所森に大きな危険性はないが、万が一スタンピードなんて起きたらひとたまりもないんだぞ」


「た、たしかに」


「まあ、気にしないでくれ! ギルドからも聞いてるだろうが、俺達が掴んでいる情報を伝える」


 そう言ってそいつは近隣の地図を広げ、どのあたりのどの魔獣が出たのかを教えてくれた。やはり山脈に近寄るほどに強い魔獣が出るらしい。


「山脈に登ればもっと儲かると言った奴らが居たんだが、そいつらはほとんど戻って来てないんだ」


「それは聞いている」


「そうか! 出来ればでいいんだが、そいつらの遺品なんかが見つかれば持って来てもらえないだろうか? そいつらにも家族がいたり、恋人がいたりしたんだよ。出来れば遺品を持ち帰って渡してやりたい」


 どうすっかな? もちろん依頼には無いが、なんかこうも真っすぐに言われると弱い。


「わかった。出来る限り持ち帰る方向でだな」


「恩に着る! 流石はミスリル冒険者! 器がデカい」


 なんだろう? 悪い気はしない。


 一通りの話を聞いて、やはり脅威となるのは西の山脈から麓にかけてらしい。標高が上がれば、俺達でも手を焼く魔獣がいるかもしれない、念のため気を引き締めてかかるとしよう。


「よし、ファントムここからは徒歩だ。ハンヴィーを破壊しろ」


《ハイ》


 ズドンドゴンバガン


 あっという間に丸められたハンヴィーに、冒険者達が目を点にして言った。


「これが…ミスリル冒険者の力…なのか?」


 なぜか語尾が疑問形になっているが、きっとミスリル冒険者を見た事が無いのだろう。というか…ミスリル級冒険者の普通が、どのくらいかさっぱりわからないけど。


「そうだ。これがミスリル級だ」


「その魔道具も…高かったんじゃないの?」


「使い捨てだ」


「つかいすてぇ?」


「そう、使い捨て」


「嘘だろ…」


 いつまでもここで問答していたって始まらない。俺はもう一度ファントムに言う。


「これを山脈に向かって蹴飛ばせ」


《ハイ》


 ズドゴン


 ハンヴィーの塊は、見事な弧を描いて森を飛び越え山脈に向かって飛んで行った。冒険者達は目の前で行われている事が信じられないらしく、ポカーンとした表情になってしまった。


「いくらなんでも…」


「これがミスリル級の力だよ」


「俺が子供の頃に見た、ミスリル冒険者はそんなんじゃなかったが…」


「時代だよ。時代」


「な、なるほど」


 俺達はさっそく先に進むと伝える。


「ミスリル級冒険者なら問題ないと思うが、十分気を付けてくれ」


「わかった。じゃあ早速行くかな」


 そして俺達は、冒険者達を尻目に森に入っていく。


「ご主人様。いくらか森の中に冒険者がいるようです」


「まあ適当に見張ってんだろ」


 あちこちに冒険者の気配を感じる。流石に山脈で死傷者が出たから、堅実に森で稼ぐ事にしているのだろう。更に先に進むと森は次第に勾配がついてきて、山脈に差し掛かった事が分かる。 魔獣の気配はするが、特別脅威になりそうなやつはいない。森もニカルス大森林ほど巨大じゃないし、あそこほど強烈な魔獣はいなそうだ。


「シャーミリア。どうだ?」


「警戒するような気配は特に感じ取られません」


「なら少し速度を上げてみるか」


「「は!」」

《ハイ》


 警戒しつつ上がって来たが、脅威になるような魔獣はいなかったためスピードを上げる事にした。坂を上がっていくと森林地帯が終わり岩肌に変わった。これは西の山脈ならどこも同じで、上までは植物は生えていないのだ。


「今までの経験からするとここからだろうな」


「「はい」」


 ごつごつした岩場は足場が悪く登りづらい。


「ここでの戦闘は人間には不利だろうね。良く登って行こうなんてやつがいたもんだ」


「身の程知らずなのでございましょう」


 歩いている最中に俺がふと岩陰を見ると、そこに何かが落ちているのを見つけた。


「なんだ?」


 ぴょんっと岩を降りて見た。


「死体だ」


「冒険者でしょうか?」


「皮の鎧を着ているところを見るとそうだろう。魔獣は人間を食わなかったのかな?」


 死体にはかじられた後がなく、魔獣は食う為に殺したのではなさそうだった。


「体の数か所が貫かれています」


「本当だ」


 その死体は体の至る所を貫かれていて、おそらく死因は頭部を貫かれたためだろう。


「いずれにせよ。こいつの遺品を回収する。ファントム!」


 ファントムを呼び寄せた。


「遺品を回収する。遺体は吸収し、遺品を後で出してくれ」


《ハイ》


 ファントムの胸から上が、大きな口となり死体を吸収する。遺品も全て回収したので冒険者に渡してやればいいだろう。


 更に山脈を登っていくと、めちゃくちゃ足場が悪くなってきた。大きな岩がゴロゴロしており、その先を見れば切り立った崖が見える。もちろん俺達には障害にはならず、ぴょんぴょんと岩を飛び移りながら登っていく。すると垂直に切り立った崖にたどり着いた。


「この崖を登るぞ」


「では私奴がお連れします」


「ああ」


 シャーミリアに捕まれて飛び、アナミスが平行について来る。ファントムは岩に腕を突っ込みながら崖を駆け上って来た。崖を登りきっても、また足場の悪い岩場が続いた。


「ずいぶん険しいな」


「そのようです」


「魔獣と戦うどころか、これじゃ冒険者達は登るだけでも危険じゃないか?」


「それでも魅力のある素材があったのでございましょうか?」


「そうなんじゃね?」


 だがそのまま登っていると、いつの間にやら霧が出て視界が悪くなってきた。じきにほとんど視界がなくなってしまう。シャーミリアが先行し、俺達がその後ろをついて行くようにした。


「ご主人様。何やら気配が致します」


「魔獣か?」


「恐らくは四つ足。それもかなりの数がおります」


「一旦、集まれ」


 魔獣を警戒して俺は武器を召喚した。


「ファントムはM134ミニガンだ。バックパックの斬弾が切れたら俺の所に来い」


《ハイ》


 シャーミリアにはM240中機関銃とバックパックを、アナミスにはウージ―サブマシンガンを二丁渡して装備させた。俺は状況に応じて適切な武器を出すつもりでいる。


 俺達は固まってじりじりと進み始める。


「囲まれました」


「そのようだな」


 俺にも周りに何かいる事は感じている。だがそれが何なのかは、濃密な霧で視界が悪く見えなかった。俺は魔獣を威嚇する意味で、M9火炎放射器を召喚する。


 ゴウ! と周辺に向かって火炎をばら撒くが、その気配は立ち去らなかった。どうやら火炎に対しての警戒は無いのかもしれない。


「ご主人様!」


 シャーミリアが俺を腕でグイっと引き寄せ、俺の目の前でファントムが何かを掴んでいた。それは白くて長い毛で覆われた、馬ぐらいの大きさのヤギのような魔獣だった。頭に二本の角が生えているのだが、それが一メートル以上あり槍の様に尖っている。その日本の角をファントムががっちり押さえており、俺はシャーミリアに引っ張ってもらわなければ貫かれていただろう。どうやら俺が火炎をばら撒いた事で、位置を特定されて突進して来たらしい。


「殺せ」


 ボグウ! とファントムが角を振って首を胴体から切り離した。それを合図にシャーミリアとアナミスが、機関銃を打ち出す。


 ガガガガガガガガガガガガガガ!

 タタタタタタタタタタタタタン!


 ギョエエエエエエ

 ギィイィィィイイイ

 ガギャアァァァァァ


 あちこちで魔獣の断末魔が聞こえる。視界が悪いので、俺はUTAS UTS-15ショットガンを召喚した。15連射が可能なショットガンで、繰り返して撃てば弾幕を張る事が出来る。


「シャーミリアも攻撃に集中しろ。俺はもう大丈夫だ」


「は!」


 M134ミニガン、M240中機関銃、ウージ―サブマシンガン、UTAS UTS-15 15連ショットガンの連射の音がにけたたましく鳴り響き山にこだました。


 いつの間にか魔獣の気配が無くなって来たので、俺達は銃を撃つのを止める。


「逃げたか?」


「そのようです」


 俺達が少しの間そこに留まっていると、次第に霧が流れて晴れてきた。するとさっきのヤギみたいな角の鋭い魔獣がゴロゴロと転がっているのが見えてくる。


「霧で視界が悪くなったところを、あのツノで攻撃するのか。そりゃたまったもんじゃない、図体の割には動きが早かったしな」


「人間では裁ききれなかった事でしょう」


「それに、この霧はなんだ? めちゃくちゃ濃くて視界がほぼゼロになる」


 するとアナミスが言った。


「ただの霧ではないかもしれません。霧がこれほどの濃度にはならないはずです」


「なるほどね。まあ近寄ってくれるなとでも言っているようだな」


「魔獣がいなくなったとたんに晴れたのも、偶然ではないかもしれません」


「冒険者が見たという、石の扉はきっとこの付近にあるだろう。探すぞ」


「「は!」」

《ハイ》


「あのツノヤギだけじゃないかもしれない。十分警戒して進め」


 ファントムとシャーミリアのバックパックを入れ替え、アナミスには俺と同じUTAS UTS-15 15連ショットガンを渡す。万が一霧が濃くなった場合、ウージーサブマシンガンでは当て辛いだろう。


 まだ薄く霧の残る足場の悪い岩場を、更に上に向かって登っていくのだった。

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