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第885話 神の振る舞い

 山頂神殿の管理者が、水の精霊ウンディーネから火の精霊イフリートに変わった。エミルがイフリートをここに置いて、ウンディーネとケルピーと言う水の馬型精霊を一緒に連れて行く事にしたのだ。だがウンディーネからイフリートに変わった事で、山頂神殿の状態が大きく変化してしまう事になる。


 まず神殿内が、これでもかと言うくらい蒸し暑くなってしまった。そのうえ俺達が神殿から出た時のカモフラージュが、今までのカルデラ湖から火山の火口へと様変わりしてしまったのである。モウモウと蒸気が上がる火口を覗くと下層に溶岩が見える。


 その火口を見ながらエミルに聞いてみる。


「えっと。これはカモフラージュだよな? 見た目がこうなっているだけ? かなり暑いんだけど」


「いやいや。普通に火山になったみたいだよ」


「死火山の火山活動が始まったって事?」


「そう言う事になるね」


「ええっ!」

「マジか!」

「うっそみたい!」

「そんな事していいの?」


 俺とオージェ、グレースとブリッツが目を見開いて言う。精霊が退屈と言う理由で休火山を活火山に変えてしまったのである。


 エミルがウンディーネに問う。


「これは普通にある事なの?」


 するとウンディーネがエミルに何かを伝えて、エミルがうんうんと頷いている。


「どうやら不定期で変わるらしいぞ、数千年から数万年に一度変わるんだと」


 まあ神様のやっている事だし、精霊を動かしたことが自然現象となるっつーのは不思議じゃないか。なんか、初めて自分らが神という事を実感してしまうんだが。


「そうか。もしかしたら火山ってのは、そう言うシステムで活動を繰り返しているのかな?」


「少なくとも、この世界ではそのようだ」


 まあ自然と精霊は密接に関係しているらしいし、それは不思議ではない。だがそんな事を、精霊が飽きたからと言う事で決めてしまった良かったのだろうか?


 俺達が話をしていると、シャーミリアと魔人たちが反応した。


「ご主人様。大型の魔獣が来ます」


「えっ?」


「飛翔しているようです」


 魔人達が見ている方角を見てみると、遠くの方から何かが飛んできているのが見える。


「なんだあれ?」


「どうやらドラゴンのようです」


「ドラゴン!」


「二匹います」


「うっそ、迎撃しなくちゃ!」


「私奴が落として参りましょう」


 シャーミリアがM240中機関銃とAT4ロケットランチャーを担いだ。するとオージェが言う。


「あー、シャーミリア! 待ってくれ。たぶん俺が何とか出来る」


「えっ?」


 オージェがジャンプして火口の向こう側へと飛んで行った。そして両手を広げてドラゴンに何かを叫んでいる。すると二匹のドラゴンが火口の上をクルクルと回り始め、俺達を品定めするかのようにし火口の縁に降りて羽を畳んだ。


 するとオージェが俺達の方に向かって手を振っている。


「行ってみよう」


 俺達は火口をぐるりと周り、ドラゴンとオージェがいるところへ向かった。二匹のドラゴンは向かい合うようにして、一匹のドラゴンが空に向かって物凄い火炎を吐き出した。するともう一匹もつられたように、空に向かって火炎を吐き出す。


「おわ!」

「焼かれないですかね?」

「か、怪獣だよ」


「オージェが大丈夫って言ってるんだし、問題ないんじゃないか?」


 俺達がオージェの所にたどり着くと、オージェが俺達に笑って言った。


「このドラゴンはつがいだよ。どうやら火山活動が始まった事をきっかけに、子供を作りに来たみたいだ。さっきのは愛情表現らしい」


「子作り?」


「恐らく暖かい火口に巣でも作るんだろう」


「そういうものなのか?」


「そういうもんらしい」


 オージェも何か神様のような事を言いだした。まあオージェは龍神だし、ドラゴンの頂点に立つ男と言っても過言ではない。つーか、神だからその表現も間違っている気がする。


 するとブリッツが言う。


「こりゃまるで神話だね。ドラゴンが火口に巣を作って子作りするなんて。しかも精霊が変わった事によって火山活動が始まるなんてさ、まるでギリシャ神話か何かを見ているようだよ」


「そうなんだ?」


 俺はギリシャ神話なんて知らないが、きっとそうなのかもしれない。エミルとオージェの二人が神らしい事をしているのを見て、むしろ俺が平凡に感じて来た。


 するとグレースが言った。


「確かに神様っぽい。というか二人とも神様なんですもんね」


「はっはっはっはっはっ! 全然実感はないけどな!」


「オージェと同じで、俺も成り行きでやっているだけだけどね」


「なんかさ。俺とグレースが出遅れた感じじゃないか?」


 それを聞いたエミルとオージェが俺を見て言う。


「いやいや。お前が一番最初に神っぽいことしてたじゃないかよ」


「俺が?」


「アホか。どこの世界に、ヴァンパイアやオーガやミノタウロスやライカンを従える人間がいるんだよ。しかも彼らと魂の回廊みたいなものを持っているし、それのどこが神っぽくないって言うんだ?」


 なるほど。俺はただひたすら仲間を作って来ただけだが、オージェの言う通り普通の人間から考えれば神の領域にいるって事か。でもなんか実感がわかない。


 エミルもグレースに言う。


「グレースだってそうだぞ。ゴーレムに命を吹き込んだり、国を飲みこむほどの蛇と一心同体っておかしいだろ。むしろ俺とオージェの方が出遅れたって感じなんだが」


「…じゃあやっぱり僕らも神なんですよね?」


「だと思うぜ」


「実感わかないなあ…」


 そしてオージェが言った。


「と言う訳で、ドラゴンが住み着けば半端な魔獣や人は寄り付かなくなる。これでこの神殿は守られるっていう寸法らしい」


「上手くできてんな」


「まったくだ」


 異世界って感じがしてきた。いや、元々していたがこれこそが異世界、しかも神側の視点に立っているのだという実感がわいて来る。そこで俺は疑問に思って来た。


「なんで神同士が戦ってんだろうな? 本来は争う相手じゃないだろうに」


 だがそれを聞いてブリッツが言う。


「いや。神は地球からの転生者が継いでいるんだろう? 君らはたまたま仲間だっただけで、敵の神は争いを好む人間だったかもしれない。僕が推測するに、転生して来た火神は戦いを生業にしていたやつか裏家業のやつじゃないかと思ってるよ」


「戦いを生業にしてるやつ? 裏家業?」


「ああ。例えば軍隊出身者、傭兵、マフィア、殺し屋、ゲリラ、テロリストあたりの可能性が高い気がする」


「それもプロファイリングか?」


「前世のプロファイリングとは違う感じかもしれない、こちらの世界に来てなんらかの能力が加味されていると思う。なにかスピリチュアルな感覚が混ざっている気がするし」


「なるほど」


 俺達が顔を見合わせる。いずれにせよそんな奴が相手だとしたら、一筋縄でいかないのは当然だ。俺達が前世でアマチュアの戦争ゲームをしていたのに対し、相手は本当の生死をかけた戦いをしていた可能性があるという事だ。俺達が北大陸で戦った感覚から言えば、殺し屋やテロリストを相手にしていると言われても合点がいく。


 そしてオージェが言った。


「いずれにせよ、ここは守られる。そろそろ先に進むとしよう」


「わかった」


 俺達が火口から離れるとドラゴンの夫婦は火口へと降りて行ってしまった。俺達は山の反対側を降りていく事にし、しばらく進んでいくと森が見えて来る。その森に入ってすぐにわかった事は、小型の魔獣が全て消えてしまった事だ。恐らくドラゴンが住み着いたのを察知して、逃げて行ってしまったのだろう。


 がさがさと森を進んでいくと開けた場所に出る。するとその先は断崖絶壁になっていた。俺達がその先端に立つと先には絶景が広がっていた。眼下に平野が広がっており、雄大に流れる川や湖などが見える。


「あれ」


 エミルが指を指した先に、都市が見えた。距離があるので小さく見えるが、俺はその都市に見覚えがある。それは俺が毎夜、爆撃する為に通っていたモエニタ王都だった。


 それを見て俺が皆に指示を出す。


「よし! ここはドローンの基地に最適だ。 テントを召喚するから、皆でここに駐屯地を作ろう!」


「「「「「「「「「「「は!」」」」」」」」」」」


 俺が次々に大型テントを召喚し、魔人達がそこにテントを立て始めた。モエニタ王都にあまり近づきすぎると、こちらの位置を掌握される可能性があるので、ここは立地的に最適な場所た。


 あっというまにテント村が出来て、俺はその内部に戦略ドローン用の機器を召喚した。モニターを並べ、コントロールシステムを設置し電波塔を立てていく。それを見ていたブリッツが言った。


「物凄く近代的なんだが」


 それに俺が答えた。


「白兵戦や銃撃戦は今風じゃないだろ? やっぱ戦争というものはこうなっていくんだろうね。俺達がやっているのは戦争だからね。これからはハイテク機器が主流になっていくんじゃないかな?」


 するとオージェとエミルとグレースが笑い出す。


「おいおい。ラウルが言うのかよ! 白兵戦や銃撃戦がしたいのはお前だろ!」


「そうそう。ラウルは銃が撃ちたいんだから、無理すんなって」


「まったくです。それに今の台詞…僕が前世で言った事じゃないですか!」


「あれ? そうだっけ?」


 俺達四人が冗談を言い合っていると、ブリッツが噴き出す。


「君らはいいチームだ。とても雰囲気がいいし、その調子だとサバゲでもいい線いってたんじゃないか?」


「まあアメリカの大きな大会で、決勝戦まで勝ち上がったけどね」


「やっぱりな。阿吽の呼吸がなっているから、相当な腕前だったんだろうと思う。実はFBIの銃撃戦の講師はサバゲのプロだったりもするんだ。サバゲに参加してその腕を鍛えたりしていたからね」


 確かにFBIとか軍隊の人間は居た。俺達はそんな中を勝ち上がったんだ。今思えば凄い事をしていたと思うが、それがこの世界に来てめちゃくちゃ役に立っている。だが戦争は白兵戦だけでは終わらない、こういった戦略的な手法も必要なのだ。


「FBIの人いたなあ。名前は分からないけど、ゲームに参加していたのを覚えてるよ」


「そうか…たぶんそれは潜入捜査官だよ」


「そうなの?」


「イベントマーダーを追っていたんだろう」


「なるほどね」


 魔人達が全ての機器を設置し報告して来た。


「よっ」


 そして俺はRQ-4 グローバルホーク偵察用ドローンを二機召喚する。十万平方キロメートルの監視活動を可能とし、十トンの重さはあるが時速六百キロで飛ぶ。全長13.52m 幅35.42m 全高4.64mの偵察用ドローンだ。


 滑走路が無いので、俺はオージェに言う。


「これ飛ばしてくれる? 操作は俺とエミル、グレースとマリアが行う」


「了解だ」


 そうして俺達はドローンを使っての、モエニタ王都監視作戦を開始するのだった。

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