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第797話 今そこにある危機?

 オージェ戦車隊と魔導エンジンを取りに行っていたモーリス先生たちが、同時に砂漠の古代遺跡に到着したらしい。モーリス先生たちの北からの戻りが想像以上に早く、俺は転移魔法陣の脅威を改めて思い知らされるのだった。転移魔法陣を使いこなして北大陸を荒らしていたデモンを、俺はよく撃退出来たもんだと改めて思う。


 今、俺達はミサイル巡洋艦のケープ・セント・ジョージの、戦闘指揮所にて話をしていた。レーダーやソナーや通信など自艦の状態に関する情報が集約する場所で、電子機器の光で薄暗い中にいる皆の顔が浮かび上がる。そこには俺と、シャーミリア、マキーナ、ギレザム、ガザム、マリア、カトリーヌ、ルフラが集まって会議をしているのだった。ファントムとゴーグは甲板で、リュウインシオン、ヘオジュエと一緒に周りを監視している。


「さてとマキーナ、皆が古代遺跡に集結したらしい。どうする?」


 俺は分析官のマキーナにこれからの作戦立案を求めていた。するとマキーナがこう答えた。


「部隊再編が可能となりました。ピストン搬送で、このウルブス駐屯地まで魔人を輸送する事を進言いたします。恐れながら申し上げますと、オージェ様の隊が運んだ兵器類は全て古代遺跡に留め、新たに武器召喚をした方が進軍は早いかと思われます。更にあの古代遺跡であれば、それほど防衛の為の戦力を割かずとも守るには容易いかと。主戦力のお一人であるオージェ様とエミル様は前線にあげて、グレース様を防衛の主とするのはいかがでしょう? 古代遺跡防衛のために割く人員は百人、後は全てウルブス基地の設営に充てるべきかと思われます」


 言いながらも、マキーナはチラリとシャーミリアを見る。恐らく自分が長々と話して良いのかを確認しているのだろう。もちろん俺としては問題ない。するとシャーミリアが何も言わずコクリと頷いた。それを見たマキーナが再び話を続ける。


「その準備の進み具合を確認しながら、斥候部隊を先に進める必要があると思われます。こちらの作戦を気取られぬよう、敵の隠密をけん制する必要もあるかと。更に、南部の都市の状況も予め知っておけば、相応の部隊編成が効率よく行えるかと思うのです」


「なるほどね」


 いやー、凄いマキーナ。俺もある程度は考えていたが、ただのヴァンパイアの眷属だった人が、ここまで優秀になるとは思ってもみなかった。南大陸侵攻作戦の半分は、マキーナの案が反映されている。おかげでウルブスも無傷で手に入ったし。俺だけが考えていたら、結構な数の人間を殺していたかもしれなかった。マジで、魔人軍は身体だけでなく組織自体が進化している。


「また、案内人としてアリスト辺境伯を起用するにあたって留意点も」


「なんだ?」


「あの者の気持ちが本心であるかどうか、アナミスの到着を待って魂核を覗かれることを意見具申いたします」


「何か気になるか?」


「案内役はかなり戦局に影響を与えるかと」


「そのためのリュウインシオンとヘオジュエなんだがな」


「彼らをお目付け役とするのは良い案かと思われますが、言ってもよろしいでしょうか…」


「いい」


「アラリリスの二人は人間。欺くのは簡単かと思われます」


「…わかった」


 それじゃあ先に進む前に、アナミスと一緒にやるか。まあ…ついでに、教会の連中全員の魂核を書き換えてしまう事にしようっと。兵士の中に謀反を起こしそうな奴もいるかもしれないしな、それは全員書き換えちゃっていいな。


「みんなはどう思う?」


 俺が聞くとギレザムが話す。


「斥候ならば我らが」


「そうだね。ギレザムとガザムとゴーグは適任だよね」


「ではそのように」


 するとマキーナが口を挟む。


「恐らく三人の力量であれば問題ないかとは思いますが、あと三人ばかり隊に入れる事を進言します」


「あと三人?」


「はい。可能であれば、ティラ、アナミス、ルフラがよろしいかと」


「それはどうしてだ?」


「ティラは見た目で怪しまれません、どこからどう見ても南国の娘に見えます。アナミスは敵の人間を利用する際に有効かと、ルフラは現地人に化けたり時にはご主人様に化ける事も出来ます。欺くには適任かと」


 確かに…、超進化ゴブリンのティラは南国の少女風に見える。超進化サキュバスのアナミスならば、都市ごと洗脳する事も可能だ。超進化スライムのルフラは人に化ける事が出来る。確かに彼らは一流の諜報部員になれそうだ」


「いいんじゃないか? ギレザム、総大将としてそれはどうだ?」


「我らは助かりますが、アナミスをラウル様のおそばに置かなくても? またルフラはカトリーヌ様の防具として使われるのでは?」


「それは心配いらない。カトリーヌを前線に出さなければいいだけだ。アナミスはウルブスでの、ちょっとした仕事が終わったら先行してもらって構わない」


「わかりました。それでは借り受けましょう」


「よろしくたのむ。他にはあるか?」


 すると今度はシャーミリアが言った。


「ご主人様。このユアン湖の東には、森林地帯と湿地帯が広がっております。念のため、そちら方面の確認も必要かと愚考いたします」


「それもそうだな。俺達みたいに湖から侵攻してくる可能性だってあるか、ならばセイラだな。オージェに言って借りるか」


「それがよろしいかと、ドランも水を得意としております」


「竜人だものな。なら東はオージェ達に小隊を組んでもらって、偵察してもらうのが良さそうだ。そう言えばトライトンは魚人だった気がする」


「はい」


「決まりだな」


 決まった部隊は次の通り


 本隊

 ラウル、エミル、ケイナ、シャーミリア、マキーナ、ファントム、カララ、マリア、カトリーヌ

 西の調査部隊

 ギレザム、ガザム、ゴーグ、ティラ、アナミス、ルフラ

 東の湿地帯調査部隊

 オージェ、トライトン、セイラ、ドラン

 基地設営部隊

 ミノス、スラガ、ゴブリン隊260、ダークエルフ隊180、オーク隊180、竜人隊90、オーガ隊90、ライカン隊90

 古代遺跡

 グレース、オンジ、ラーズ、ルピア、モーリス先生、デイジー、ゴブリン隊40、ダークエルフ隊20、オーク隊20、竜人隊10、オーガ隊10、ライカン隊10


 俺達は早速、部隊再編の為に動くことにした。会議を終えて俺達が甲板に出る。リュウインシオンとヘオジュエが、双眼鏡を覗いて周りを見ていた。俺は二人に声をかける。


「会議が終わったよ」


「わかりました。私達はどうすればよろしいでしょうか?」


「本隊と一緒に動いてもらう。俺の隊だ、アリストもそこに含めて進軍する」


 するとヘオジュエが聞いて来た。


「我らは、お目付け役みたいな役割でしょうか?」


「その通りだ。まだアリストが何を考えているか分からないからな、向こうの間者という事は考えにくいが、俺達が戦っている敵はそれすらも利用してくる可能性があるからね」


「わかりました」


 さすが、ヘオジュエは自分の役割が分かっていたようだ。説明はいらないだろう。


「そして直近は、部隊再編の為に動く事になる。それまではしばらく、ウルブスに釘付けになるが俺と一緒にいてくれると良いだろう」


 するとリュウインシオンが少し嬉しそうに言った。


「わかりましたわ! それではラウル様のお役に立てるよう精一杯頑張ります!」


「そうしてくれると助かる」


 俺とリュウインシオンが話をしていると、カトリーヌがその話に割って入って来た。


「コホン…、もちろん私も一緒ですので、よろしくお願いしますね。リュウインシオン陛下」


「は、はい。それはもちろんですわ、是非よろしくお願いいたします」


「ええ。一国の王に怪我でもされたら大変です。治療の出来る私が側に居る必要がありますものね」


「お手数おかけします」


 なんだろう? カトリーヌがやたらリュウインシオンに絡む。カトリーヌのこんな感じはなかなかに珍しいな。


 するとマリアが俺の袖を引っ張る。


「恐れ入りますラウル様、ちょっとよろしいでしょうか?」


 何だろう、マリアが真面目な顔をして俺を船の端まで連れて来た。


「な、なに? マリア? 俺なんか悪い事した?」


「いえ、無自覚ですので問題はないと思いますが…」


「無自覚?」


「貴方様は幼少の頃から女心に疎いので、念の為にお伝えしておきます」


「俺が? ま、まあ敏感とは言い難いけど」


「リュウインシオン様に何か変化を感じ取る事は出来ていますか?」


「リュウインシオン? もちろんわかるよ! 王になったんだよ!」


「はぁ」


 マリアがやっぱりねって感じでため息をつき、肩を落として遠い目をする。一体何が何だかわからないが、俺に対して何か言いたそうな匂いはプンプンする。


「言ってくれ」


「リュウインシオン陛下は、ラウル様を好いておられます」


 えっ? あんな東洋美人みたいな人が? 俺に? 


「そんなことはない。俺は年下だし、別にそんな会話をした事も無いぞ」


 マリアはいったい何を言っているんだろう? ちょっと考えすぎのような気がする。どう考えてもあんな美人と俺は釣り合わない…、いや…カトリーヌだって超美人だし、そっちも釣り合わないかも。あれ? 俺は誰となら釣り合うんだ?


 俺が思考の迷宮に彷徨いこんでいると、マリアが釘をさすように言った。


「恐れ入りますが、アラリリスにて何か急接近したように思うのです。何かございませんでしたか?」


 いやぁ…、一緒に裸で風呂に入っただけで何もないよ…。


 そう言われてみれば、言っちゃまずいと思ってカトリーヌとマリアには黙ってた気がする。確かにリュウインシオンの全裸を見てしまったが、あれは男と間違ったゆえの事故。俺は悪くない。いや…最悪か…。


 何か起きる前に、こう言う事はマリアに相談しておいたほうが良い。幼少期からの経験上、それが一番問題解決になる。


「あ、あの。マリア、ちょっと折り入って相談が」


「それでは後でお伺いする事にいたしましょう」


「よろしくおねがいします!」


「はい」


 そして俺とマリアは再び皆のもとへと戻った。


「どうなされたのです?」


 何も分からないヘオジュエが髭をピクリとさせて聞いてくる。そう言えば…あの時の事は、ヘオジュエも変な雰囲気だったな。俺はそれを謝ったりはしていないし…、全部マリア先生に相談しよう。


 そうしよう。


「とにかくだ! 部隊再編をしなければならない。古代遺跡に既に魔人軍が集結している。すぐにヘリで輸送してウルブスに搬送する予定だ」


「なるほどでございます。それでは我々はこの船で待つわけですかな?」


「進軍の準備が整うまではそうなる。その準備の様子を見ながら斥候部隊を先に進める」


「わかりました」


 ヘオジュエは疑う事無く、俺が作戦の事を考えていると思ってくれているようだ。俺は、そばで談笑しているリュウインシオンとカトリーヌの会話に、全神経を集中させているのだった。

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