第566話 知らなかったでは済まされない
購入した女性たちの衣装は、人目につかない場所で全てファントムに詰め込んだ。やっぱりファントムは俺の無限収納庫としてとても便利だ。
《もちろん他にも凄く使えるヤツだけど》
とりあえず俺とシャーミリアだけは、シン国の服を脱いでお金持ち風の格好になった。
「やっぱりミリアにはドレスだよな」
背中の開いたタイトドレスに身を包んだシャーミリアを見て俺が言う。ひらひらとドレスの裾を翻して帝都の街を歩くシャーミリアはとても優雅だった。
「ご主人様ありがとうございます。とても動きやすく馴染んでおります」
「いい服屋だったな」
「左様でございますね」
シャーミリアに限らず、女性陣は皆おしゃれな服を買ってもらってホクホクした表情になっていた。
「ラウル様」
「ん?」
「やはりラウル様は子供の頃から、そういう衣装がお似合いになりますね」
マリアが微笑みながら言う。
「そうか?俺はシン国の道着も悪くないと思うけどね」
「まあそちらも素敵だとは思いますがやはり…」
「確かに着慣れてるのはこっちだけどね」
「はい」
やはりマリアは俺との付き合いが長い分、ずっと慣れ親しんだ貴族風の衣装がしっくりくるらしい。俺としても幼少の頃からのこの格好の方が落ち着く。
「ラウルよ。余計に視線を集めているようじゃな」
「そうですね」
実は服以外にもアクセサリーなどを買ったのだが、皆がそれらを身に付けていたのだった。街の人と見比べても明らかに裕福そうに見える。
《ただ…爆買いに気を良くした俺が、気前よく次々に買い込んでしまったんだけどな。あの服屋の主人も人をのせるのが上手かったし》
おしゃれをした美女たちが、ぞろぞろと歩き回ったらそりゃ目を引くだろう。
「別に堂々としていれば良いのです」
「カトリーヌの言うとおりじゃな」
「はい」
「それでどこに向かってるんだ?ラウル」
今度はエミルが聞いて来る。
「皇帝代理がいるか王宮に行こうと思ってる」
「ん?そんなところにいきなり行って大丈夫なのか?」
「俺は大丈夫だと思ってるけど?」
「確証はないわけだ」
「ああ。俺としても王宮なんか行かないで武器屋にでも行きたいんだ。帝都の武器屋ならさぞ凄い武器がありそうじゃないか?」
「ありそうだ」
「そこに行くのを我慢して、きちんと仕事をしようとしているわけだよ」
「なんか凄くストイックさをアピールしてるように聞こえるが、別にそんなことないぞラウル」
「あ、すいません」
そんな無駄話をしながら王宮に向かう石畳の道を歩いていると、道の向こう側から数人の騎士が近づいて来た。急いで近づいて来るところをみると、どうやら穏やかな感じはしない。
「先生。帝都に入ってやっと第一村人、ならぬ第一騎士に巡り合えましたね」
「そうじゃな。数が減ったのか私服でおったのか分からんが、昔に比べてずいぶん兵士の数が少なくなったと感じておった」
「とりあえず、私達に何か用があるようですね」
「ふむ」
ガシャガシャと音を立てて数名の騎士のうちの一人が前に出る。
「おい!お前達!」
屈強な兵が荒っぽく声をかけて来る。
「はい。私達でしょうか?」
「他に誰がいる!」
「いやあちこちに通行人がいます」
「怪しいから声をかけたのだ!お前たちはいったい何者なんだ?」
「えっと、俺を見た事はない?」
「お前など知らん!」
なるほどなるほど、あの時に俺の顔をまじまじと見た奴なんかいないかもしれないな。
「そうか知らないか…」
そんなことを言っている間に、どんどん兵士が増えていき30人くらいに囲まれた。
「とりあえず来てもらおう!」
「ふぉっふぉっふぉっ。何やら穏やかでは無いのう、わしらは別に敵対しようと思うてはおらなんだがの」
モーリス先生がのんびりした声で落ち着かせようと話す。
「お前がこの集団の長か?」
「いんや、わしは隠居のような身でのう。ただ一緒について歩いている老いぼれじゃな」
「長はだれだ?」
「ああ、俺です」
「若いな…」
「まあ…まだ成人前ですので」
「成人前だと?」
「ええ」
その鎧の兵士は俺をまじまじと見る。周りの兵士たちは俺の周りにいる、カトリーヌや女魔人たちをじろじろと見ていた。明らかに下心満載の顔をして鼻の下を伸ばしていた。
「そりゃ、おかしいな…」
《うん。俺も自分で言っていておかしいと思ってきた。未成年がこの集団を率いているのは異常かもしれない》
「とにかく怪しい者じゃないので通してもらえる?」
「ちょっとまて!副隊長こちらです!」
すると遅れてやって来た、恰幅の良い鎧の騎士が俺達の下へとやってきた。
「おう!お前達これはどういう状況だぁ?」
いままで俺と話をしていた兵士が、副隊長と呼ばれた騎士にいままでのいきさつを伝えている。
「なるほどな」
話を聞き終えた副隊長が、舐めまわすようにシャーミリアやカトリーヌを見ていた。どう考えても頭の中はそっち系の事を想像している顔だ。
「ここに何しに来た?」
「えっと、仕事で」
「仕事?もしかしたら娼館にでも行くのか?」
いきなり失礼なことを言ってきた。どうやらこの綺麗な女性の集団を風俗系の集団だと思ったらしい。服屋の主人と比べると滅茶苦茶見る目が無い。そしてやはりこいつの頭の中は想像通りの事を考えていたようだ。
「お前!」
あ…俺の隣にとうとう堪忍袋の緒が切れた人がいる。
「お前だと?貴様!俺に言ったのか?娼婦風情が無礼だぞ!」
いつの間にか娼婦だと断定している。
「私奴ならいざ知らず、カトリーヌ様を娼婦と言ったか?」
「お前たちは見るからにそう言う類の奴らだろ」
あー、死んだ。ヤベえぞ。
《シャーミリア!止まれ!》
シュッとその副隊長の目の前に現れたシャーミリアを俺が止める。
「うわ!」
目の前にいきなり現れたシャーミリアに副隊長が尻餅をついた。
《ご主人様!この者どういたしましょう?》
《揉め事は面倒だ。敵でもないのにわざわざ皆殺しにする必要はない》
《すぐに済みますが…》
やっぱ皆殺しにしようと思ってたんだ…
《そういう問題じゃない》
《は!》
副隊長が尻餅をついたのを見て周りの騎士たちが腰の剣を抜いた。皆が俺達に向かって剣を向けている。さすがはバルギウスの兵士、隙はなくいつでも攻撃できる体制にあった。ただ事じゃない様子に都市の人間達もそそくさとその場所から離れていく。
「ラウルよ、どうするのじゃ?」
「大丈夫です」
《アナミス。やってくれ》
《はい》
俺が指示を出すと、アナミスがすぐに赤紫のモヤをあたりに漂わせる。すると30名の兵士たちは一斉にとろんとした目をして焦点が合わなくなった。
「おっけ」
「はい」
「じゃあ。皆さん!申し訳ないのですが、ジークレスト・ヘイモン皇帝代理の場所まで連れてってくれますか?」
「はい~」
副隊長が立ち上がり王宮の方へと歩いて行く。すると俺達を護衛するように30人の兵士たちも、ゆっくりと歩き出した。何事もなく歩いて行く姿に、遠巻きに気にしていた市民たちも普通に歩き去って行った。
「やはり凄いな」
エミルがポツリと言う。
「まあ、平和的に解決するのはこれが一番なんだよ」
「まあ、そうだな」
そのまま王宮に到着して、副隊長が門番に声をかける。
「皇帝代理にお客様だ!」
「ん?聞いてないぞ?」
門番がいぶかし気な表情をする。
「ほら、見て見ろ」
副隊長が門番に女性陣を指さす。
「皇帝代理が?娼婦を?」
ピクッ
シャーミリアの表情が…
《アナミス》
《はい》
ふわぁーと赤紫の煙があたりをみたす。
「そうだな。お客様のようだな…通っていいぞ」
「ああ」
俺達はそのまま門を通過して、兵士に囲まれながら王宮の中を歩いて行く。周りに兵士たちがいるがここまで来ると呼び止めたりするものは居なかった。ある部屋の前に到着し副隊長がドアをノックした。
ガチャ
すると中からドアを開けて騎士が顔を出した。
「どうした?」
「皇帝代理にお客様です」
「聞いてないぞ」
「確かにお連れしました」
「ちょっとまて」
騎士はドアを閉めて中の人に報告しに行ったようだ。少しして足音が近づいて来る。
ガチャ
「客って誰だ?」
「こちらの方達です」
副隊長はうつろな目で俺を指す。中から出て来た騎士は俺を見て聞いて来る。
「お前?名前を言え!」
「えーっと、魔人国のラウルです」
ダダダダダダダダダダダダダ
バーン
中から飛び出して来た男が、ジャンピング土下座を決めて俺の前にみごとに着地した。
10.00点をあげなければならないだろう。
「これはこれは!!ラウル様!!大変なご無礼をいたしました!!」
「久しぶり」
周りにうつろな顔をして立っている兵士たちが邪魔になって来た。
《アナミス催眠を解いていいよ》
《はい》
すうっと黄色い煙が立ち込めたと思ったら、ピリッとした香りに代わる。
「うっ!」
「な、何だ…」
「あれ?どうしてここに?」
そして副隊長は土下座している皇帝代理を見る。
「えっと、2番隊大隊長はどうして土下座を?」
副隊長が夢から覚めたように周りを見回す。
「あ!お前達!なんで王宮まで入ってきているんだ?」
副隊長が言うと、ジークレスト・ヘイモンと部屋の中に居た衛兵たちが凍り付く。
バシーン!
中隊長は中に居た筋肉オバケのような衛兵にビンタをされて吹っ飛ぶ。外から一緒について来た30人の兵士たちがあっけに取られてその光景を見ていた。ジークレスト・ヘイモンが真っ青な顔で立ち上がる。
「お前達!ここはもういい!お客様を残して外に出ていけ!」
ざわざわざわ
30人の兵士たちは何を言われているのか分からないようにざわついて動かない。
「皇帝代理。こんな奴らを残して行って大丈夫なのですか?」
バシーン
また一人ビンタされて吹き飛んでいく。
「お前たちは最近入隊した兵士だから知らんだろうが、こちらの御方は魔人国の皇太子様であらせられる!」
一気に全兵士の顔が真っ青になった。
ザッ
全員が床にひれ伏すように土下座の姿勢をした。ジークレストも再び膝をつき頭を下げる。
《いやいやいや…水戸黄門じゃないんだから》
《ようやくわかったようですわ》
《ま、まあそうだな》
とにかく人死にが出なくてよかった。今度からは少し王宮を訪れる方法を考えた方が良いかもしれない。
「ジークレストすまない。俺達がプラッと来ちゃったもんだから」
「いえ!いつでも好きな時に好きな人と訪れていただいて結構でございます!きちんと案内をするよう全軍を教育出来ていなかったことを恥じております!」
「いや。そりゃ無理だろ、俺の顔を知っている人はそう多くはない」
「申し訳ありません!この機会に全軍の兵に、是非ひとことお言葉を頂けましたら幸いにございます!」
「いいよ。とりあえず立ってくれ、頭を上げてほしい」
「失礼いたします!」
ジークレストが言われるままに立ち上がる。
「久しぶりだね。グレースが上手くやってるかって気にしてたよ」
「私なりに必死にやっております。そしてタロス様のおかげで順調に帝都の運営が出来ております!」
「そうか!それはよかった!タロスもあんな厳つい感じだから、うまくやっているのか聞きに来たんだよ」
「タロス様や魔人軍の方達にはいつもお助けいただいております。私が弱いばかりに彼らの威を借りてバルギウス兵を御している始末です」
「いやそれでいいんだ。ぜひ彼らの力を借りてほしい」
「はは!」
ジークレスト・ヘイモンは相変わらず腰が低かった。しかもかなり俺にビビっているようで、萎縮しまくっている。これでは対等な話がし辛い。
「えっと。兵士たちに声をかけるのは後ででもいいかな?とりあえず近況を聞きたいのと、魔人達との関係性を聞きたいと思ってね。会議室のような場所で話し合いがしたいんだ?それとも忙しかった?」
「何をおっしゃいますやら!ラウル様がいらっしゃって、それ以上重要な国務などありますでしょうか!最優先でお時間を取らせていただきます」
「ならいいんだけど」
俺がなぜ気を使ったかと言うと、ジークレスト・ヘイモンのデスクの上には高層ビルのような書類が山積みになっていたからだ。相当忙しくしていたようだ。
「ではすぐにご用意を!」
「その前に、ここにひれ伏している兵士たちを元の仕事に戻したらどうかな?」
「は、はい!そうですね!まったくその通りです!みんな通常業務に戻るんだ!急げ!」
「「「「「「「「は!」」」」」」」」
ビンタされて転がった副隊長ともう一人に肩を貸しながら、一緒に来た兵士達は部屋を出て行った。とにかく死ななくてよかった。
「では!ご案内差し上げます!すぐに料理を準備させましょう」
「いや。基地でおばちゃんたちが作ってくれた料理を食ってきたから、軽いものでお願いしようかな」
「そうでしたか!わかりました!人を!人を呼べ!」
「は!」
一緒に部屋に居た兵士が飛び出して行った。
「それではすぐに応接室へまいりましょう」
俺達はジークレスト・ヘイモンの後について応接室へと向かうのだった。危うく人死にが出るところだったのをうまく押さえ込んで、俺はホッと胸をなでおろすのだった。
次話:第567話 偉業を成し遂げた男
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