第562話 補給と中継基地
南東からの敵の侵入を警戒して、二カルス大森林から南に走る東街道付近に主力を配備する必要があった。調査隊を出すにしてもいきなり進軍するのはさすがにリスクが高すぎる。戦略的な準備の間は防衛のみにシフトしなければならない。そこで一つの問題があった。それは二カルス大森林では念話が通じない為、俺が北部の拠点を視察して回る間の連絡手段をどうにかする必要があるのだった。
「さてどうするか」
「まず最前線の部隊はどうするんだ?」
「シン国との兵站線を結ぶルートも決めないとだな」
「やはり南に降りて各拠点を通過するルートでしょうね」
南東の端に駐屯地を作り、俺達異世界組4人であーでもないこーでもないと議論を重ねていた。
「ふむ。やはり最前線にはかなりの比重を置かねばいかんじゃろ」
モーリス先生が言う。
「はい。ほとんどの主力を置いて行こうと考えております」
「二カルス大森林が念話を通さんとなれば、どうやってラウルに連絡をするかが最優先課題じゃろな」
「ですね、まずは消去法で行きたいと思います。北の拠点を視察する人員は決まってます」
「だれじゃ」
「人間は一人もここに置いていけません。さすがに最前線で出来る事も無いと思います」
「ふむ。そうじゃな、この魔人達の中にわしやカトリーヌがいたところで役にはたたんじゃろ」
「あの大軍勢では魔人達でもかなり苦戦を強いられると思います。人間のみんなを守りながら戦うのは不利になるでしょう」
俺は包み隠さず話した。モーリス先生もカトリーヌも異論はないようで、素直にうなずいている。
「ですので北部への視察部隊の人員は、私とモーリス先生、マリア、カトリーヌ、エドハイラ、エミル、ケイナとなるでしょう。念のため護衛にシャーミリアとマキーナとファントムを連れて行きます。またアナミスは人間対策として同行してもらいます」
「ふむ」
「それでいいだろう」
「だな」
「ですね」
モーリス先生と異世界組も納得した。
「あの…すみません。私…ずっと全く役に立って無くて」
エドハイラが申し訳なさそうに言う。
「ハイラさん。ここに居る人間の皆が前線では、ほぼ何もできないんです。せいぜいマリアの狙撃が有効打になる可能性がありますが、あの数に突破されて白兵戦になったら無理でしょう」
「私なんて、何の力もないんです」
「ありますよ。危機察知能力があるじゃないですか。アグラニダンジョンでは凄く助かりましたし、とにかく我々について来てくれると助かります」
「わかりました」
どうやらエドハイラがここまで何の役にも立っていないと、後ろめたさを感じていたらしい。確かに目を見張るような仕事はしていないが、そもそも俺は彼女の能力を当てにして連れまわしているわけでもない。異世界から渡って来て天涯孤独の身ゆえ同情しているのかもしれないが、何か思うところもあるのだ。
「ハイラさん。ラウル様はあなたに仕事をしてもらいたいとか思っておりませんよ」
「カトリーヌさん…すみません」
「ラウル様の思いが私もなんとなくわかるのですが、あなたは私達と居た方が良いと思います」
「ではそのようにさせていただきます」
「ですから気になさらずに」
「はい」
カトリーヌはきっぱりと伝えながらも、目は優しく微笑んでいた。カトリーヌは俺と巡り合う前に一度は天涯孤独となり、たった一人で絶望と戦った経験がある。そのためエドハイラに対しては他人事とは思えない気持ちが働いているようだった。
「それでラウル。前線部隊の人員はどうする?」
「ああオージェ。またお前たちに頼むのは忍びないが、オージェ、トライトン、グレース、オンジさんは残ってほしい。オンジさんは人間だというのに申し訳ないですが、グレースの側を離れられないでしょうからいてください」
「我は虹蛇の守護者ですからな当然です」
「はい。それと魔人はギレザムが総指揮をとれ」
「は!」
「ギレザム、ゴーグ、ガザム、ミノス、ラーズ、セイラが前線に残った方が良いだろう」
「「「「「「は!」」」」」」
「ここにもかなりの兵器を召喚して置いて行くつもりだ。戦闘車両と大砲、ロケットランチャー、ミサイルも配備していく。各自の銃火器については使いやすい奴を俺に申請してくれ。それに必要な弾薬関係はグレースの収納に収めていく」
「「「「「「は!」」」」」」
「とりあえずそんな感じだけど…」
「連絡手段じゃな」
「はい」
少しの間、皆が考え込んで静かになる。何か策はありそうなのだがなかなか思いつかない。
「あ、伝言ゲームのように中継を置いたらどうでしょう」
グレースが思いついたように言う。
「二カルス大森林にか」
「ええ。街道なら比較的魔獣も出ないんですよね?」
「まあ昼間はな。出たとしても二カルスの魔獣ならみんな対応できる」
「それならばあと呼ばれていない、ルフラさんとドランさん、ルピアさん、ティラさん。この4人のうち3人が中継地点に残り、そこに二カルス基地から連れて来た魔人を50名ほど配備します。あとは二カルス基地に直属の魔人を置けば、伝言ゲーム的に北への念話が繋がるんじゃないですか?」
「我らならば50名の一般兵を呼ばずとも大丈夫ですがな」
「いえ、ドランさん。その50名はいざという時に遊撃部隊として機能するようにしてほしいのです」
「なるほどな。ドラン、とりあえずグレースの言うとおりにしてみよう」
「は!」
とりあえずやってみない事には分からない。俺はグレースの提案した伝言ゲーム作戦をやってみようと思う。
「ならば、中継地点にはルフラ、ドラン、ルピアがあたれ」
「「「は!」」」
「ティラは再び二カルス基地に戻ってくれるか?基地には600名の二カルスへの移住者がいるから、そいつらの教育も兼ねていろいろ指導してやってくれ」
「はい!久しぶりですね。新人には二カルス基地の流儀をおしえてあげたいです」
二カルス基地の流儀という物が何かは分からんが、ティラがやる気を出しているのでよしとしよう。
「中継地点の食料はどうしような。俺がある程度は戦闘糧食をおいては行くが、それだけだと味気ないだろう。シン国に二カルスの森を通って補給を頼むのも難しいし」
「ラウル様」
「なんだルフラ」
「現地調達でよくありませんか?」
「魔獣や野草って事か?」
「ええ」
「他の2人は問題ないか?」
「まったく」
「はい」
これが魔人の強みだろう。どこに居ても食料の調達が出来るし魔獣を恐れる事も無い。人間達ならば常に兵站線を考えなければならないが、彼ら魔人には究極のサバイバル能力がある。通常現地調達など戦術としては下の下だが、迷わずその施策を選ぶ事が出来るのだ。さらに彼らは野菜や野草をほとんど食わずに肉だけで栄養を補給する事が出来る。まるでこの世界を生き抜けるように遺伝子がそうなっているようにも思えた。
「しばらくはそれで我慢してくれ」
「前線の彼らに比べたら、危険性はかなり低いと思われますので我々に気遣いはいりません」
ドランがきっぱりと言った。
「わかった」
それから最前線に召喚した戦闘車両は、10式戦車を3両 120mm滑腔砲 12.7mm重機関銃 74式車載7.62mm機関銃を装備。203mm自走りゅう弾砲車を2門、多連装ロケットシステム 自走発射機M270 MLRS 12連装227mmロケット発射機を装備を2両 。それぞれに1000発ずつの砲弾を予備としてグレースに預ける。移動用に軽装甲機動車を5台召喚した。
「オージェ。悪いがこれらのレクチャーを魔人達にお願いする」
「了解だ」
「そして各自、自分の得意とする武器を申請してくるように」
「「「「「「「は!」」」」」」」
魔人達は俺の前に一列に並んでメイン武器の支給を受けた。いつもながらカララはウージ―サブマシンガンを300丁要求してくる。どうやらこの装備が一番使いやすく、操作しやすい数らしい。1000丁で戦った事もあるがどうやら多すぎたらしかった。300丁は全てグレースに収納してもらう。その他のほとんどのメンツがM134ミニガンを選んだ。バッテリーを含め100キロの重量があるにも関わらずこれが良いらしい。セイラとゴーグはM240中機関銃とバックパックを、セイラはさらに小型のM249軽機関銃を選ぶ。
サブの武装としてセイラをのぞく全員がデザートイーグルを選んだ。それにプラスしてAT4ロケットランチャーを500本置いて行く事にした。
「オージェはどうする?」
「俺は、うーん俺はアサルトライフルかな。M4A1R.I.Sモデルとかあるか?」
「アサルトライフルか。もちろんM4A1 R.I.Sモデルあるよ。サブウエポンはどうする?」
「KSG25ショットガンはあるか?」
「あるよ」
「それを2丁と3000発の予備の弾丸をくれ」
「わかった」
「それと、CZ75をくれ」
「了解だ」
「そして同じものをトライトンにも用意してほしい」
「いや…わいはこれで…」
トライトンが先が三又になっている槍を見せる。
「いや、そろそろ俺が銃の扱いを教えよう。俺と同じように使えるようになる必要があるからな、これから訓練を始めるぞ」
「わかりました」
どうやら銃を使った白兵戦を教え込むらしい。トライトンが怪我をしない事を祈るが、この二人の事だから万が一もそれは無いだろう。
「しかし…いつもながら恐ろしい魔力じゃのう。これだけの質量を生み出しておいて顔色一つかえんとはのう」
「いや、恩師様。ラウルはこの質量の数千倍の鉄の塊を地表に落としたんですよ」
オージェが急に面白がるように言う。
「う、それは今言わなくても」
「べつにいいだろ。それも2つも落としたんです」
「なるほどのう、あの砂漠での爆発の原因はそれじゃったのか。どのような高度から落とせばあのようになるのか…計り知れんわい」
「ですよね」
「先生…私はたぶん取り返しのつかない事をしました。砂漠はもしかしたら元に戻らないかもしれません」
「ん?別にええじゃろ。もとよりあの砂漠には人間は住めなかったのじゃ、デモンや魔物の類が通れんようになっただけでも良しとしていいじゃろ」
「ですよね!先生!」
オージェはどうやらモーリス先生に言いつけようとしたらしいが、先生の考え方は俺寄りだった。どちらかというと超合理的な考え方をするので、やはり先生の考え方は俺には合う。
「えっと、後はグレースか」
「僕は収納に既にありますけどね。ちょっとほしいものがあります」
「なに?」
「アキュラシーインターナショナル AW50スナイパーライフルはありますか?」
「あるよ」
「それを2丁と、AWMスナイパーライフルを2丁お願いします」
「了解だ」
「弾丸はこれまでに数万発もらってますが、更に1万発追加で」
「わかった」
「これで精度や威力などの試し撃ちをしようと思います。そしてスナイパーライフルの使い方をオンジにもレクチャーして使えるようにします」
「オンジさんに?」
「はい。オンジの集中力があればいいところまで行くと思うんですよね」
「わかった」
「サブウエポンはどうする」
「僕もアサルトライフルをお願いします。SCAR-Lをこれも僕とオンジの分、それとハンドガンはFN ブローニング・ハイパワーを」
「了解だ」
俺は指示された通りに兵器を出していく。やはりオージェとグレースは好みが分かれる、魔人達はただ使った事のある兵器を言っただけなのだ。しかしこの二人は事細かく指示を出して来た。
一通り武器が回ったところで俺達は出発する事にした。
「じゃあ前線を頼む。そしてギルはドランにドランはティラに念話を繋いでみてくれ。お前達進化してから並列で話が出来るようになったんだろ?」
「「「はい」」」
「二カルス基地からなら北の大陸に念話が飛ぶ。ティラは前線から情報が来たらすぐに俺に教えてくれ」
「はい」
「じゃあ、オージェ!グレース!くれぐれも無理はしないように」
「だいぶ助かった。ラウルが来てくれたおかげで防衛ラインも強化され、兵器もかなり拡充した。魔人の人員の補充がとにかく大きいよ。あとはグレースの予備兵器で何とかなるだろう」
「わかった。状況判断はオージェとグレース、ギレザムが相談してやってくれ」
「「了解」」
「は!」
「じゃあ行って来るよ」
「行ってこい」
「行ってらっしゃーい」
「行ってらっしゃいませ!」
エミルとケイナが先にオスプレイに乗り込んでいく。そして俺達と人間と護衛が乗り込み、中継地点組3人とティラが乗り込んだ。ローターが回り出して辺りに風がおき声が聞こえなくなる。俺達は前線組に手を振って大空に舞い上がったのだった。
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