第556話 敵被害の調査へ
俺達魔人が目覚めたのは、航空母艦落としから半日が過ぎた頃だった。オージェとグレースが事前に皆へ伝えていてくれた事と、シン国の武将達は以前に同じ経験した事があるので騒ぎにはならなかったらしい。
だが…
「すまなかった」
「だいたいラウル様は私たちにも言わずに、勝手に行かれてしまうのがいけないのです!せめてひとこと声がけいただければ!」
そして今…俺はカトリーヌに絶賛怒られ中だ。俺とシャーミリア以外の魔人は消息がつかめていたのだが、俺達は雑木林に不時着したので見つけてもらえなかったのだ。俺達が現れるまでの間かなり心配していたらしい。
「カトリーヌ様のおっしゃる通りです!私達の心配する気持ちも汲んでいただきたいです!」
「はい。すいません」
マリアも怒っている。砂漠から物凄い脅威が差し迫っていた、このタイミングでの行方不明だ。怒るのは当然。俺は2人の前に正座して話を聞いていた。
「あ、あの。ご主人様も緊急を要した為のご判断ですわ。カトリーヌ様もマリアも落ち着いて」
「まあシャーミリアがついて行ったって聞いてたから大丈夫だとは思ってたけど、あなたもラウルにひとこと言ってくれたらいいのに」
「滅相もございません!ご主人様の判断に口出しなど!」
「いいえ、それも秘書の務めだわ」
「いや、カティ!シャーミリアは一切悪くない。俺がオージェの忠告を聞いてひとことカティ達に言って行くべきだった」
「私は今回の事だけで言っているのではありません!これまでもずっと心配ばかりしていたんです!」
カトリーヌはだいぶ溜め込んでいたらしく、極限の脅威が近づいている今だからこそ釘を刺してるのだった。俺はしょんぼりしてシャーミリアが狼狽えている。魔王子と国をも滅ぼすヴァンパイアが…
「ま、まあカトリーヌさんそろそろ。大体そんなところで、許してあげましょう」
オージェが周りをチラチラ気にしながら、助け舟を出してくれた。シン国の武将たちが見ているので気にしているらしい。
「オージェ様もご親友であれば、もっとキツくおっしゃって頂かないと!」
「はい。すみません」
すぐ謝った。
「ふぉっ!カトリーヌよ、そのあたりで良かろう。ラウルもわかっておるよなっ!なっ!」
「は、はい!先生」
「わかりました。ラウル様、このような前線では万が一があるのですからお願いします」
「ごめん」
俺と最強格のシャーミリアが、若い娘に叱られてタジタジになっているのを、カゲヨシ将軍と武将達が遠巻きにチラチラと見ていた。そりゃそうだ、自国の助っ人に来てくれた魔王子が正妻に叱らられいる様など犬も食わない。そしてまだ未知の敵との戦いは終わっていないのだ、早く叱られて終わってくれと言う気持ちも強いだろう。
「では仕事に戻りましょう」
カトリーヌのお叱りはサパっと終わった。しかしそれを見計らったようにグレースがやってきた。
「いやあっ、さっきの爆発は凄かったですね。シン国に宝玉があって良かった!もしなかったらこのあたりも砂漠になってました。やっぱ備えあれば憂いなしです」
なんか自分の前の虹蛇の功績を、まるで自分がやったかのように上機嫌で言うグレースだった。
「グレース様もラウル様に言ってくだされば」
カトリーヌが言うのを遮るようにグレースが話す。
「いやあ、先輩の決めた事に口出しなんてとてもとても。さらに魔王軍幹部まで隣に一緒に居たんじゃ言えませんよぉ」
「まあ、そうですわね。すみませんでした」
「いえいえ、今度からちゃんと自分の気持ちを伝えるようにします」
「お願いします」
「ラウルさんも、これに懲りてもうしませんよねぇ」
「当然だ」
「さ、敵も待ってはくれません!作戦継続中ですよ!直ぐに次の行動の指示と変更をしなくちゃいけません!すぐに気持ちを切り替えましょう!」
コイツが何故に、前世の超ブラック企業を生き抜いて来たのかわかった気がする。俺は立ち上がりカゲヨシ将軍達に一礼をした。するとカゲヨシ将軍と武将たちも礼を返す。
ただ…
なんだろう…
ちょっとイラっとする。
カトリーヌの怒りが収まった頃にふらりとやって来て、自分が収めた的な?そんな雰囲気があるような気がするのだが、気のせいだろうか?いや気のせいでは無い。話がまとまりかけてきたところにやって来て、なんとなくうまくまとめた。何というかグレースが前の虹蛇にだんだんと似てきているような気がする。
《まあ今はそれどころではない》
俺は急ぎカゲヨシ将軍の所に走り寄る。切り替えた方が良い。
「将軍!ちょっとバタバタしてしまってすみませんでした」
「いや、いいんじゃが。大丈夫なのか?」
「ええ。ちょっと身内のゴタゴタをお見せして申し訳ありません」
「わしらにもいろいろと事情があるように、ラウル殿もいろいろと大変じゃのう…」
「まあ、そう言う事もあります」
「ははは…」
「それで敵の状況なのですが、我々の進化がおきたという事は、恐らくかなりの数の高位のデモンが消滅したと考えられます」
「物凄い爆発が起きたようじゃからのう…宝玉の力によって防がれたようじゃが、あれはラウル殿が?」
「はい。かなりの魔力と魔導鎧の推進剤を消費しましたが、うまく行ったようです。これから敵の状況を確認し侵攻をどれほど阻止できたかの調査をするつもりです」
「そうか…我がシン国はこれからも魔人国の良き友として、尽力させていただきますのでな。ぜひ良しなにお願いしたいのじゃ」
《いや、今調査の話をしてるんだが…》
「もちろんです。二カルス大森林の基地計画を進めておりますので、安全に北との商いが出来るように勧めていますよ。戦が終わったらぜひ商売の話が出来たらと思います」
「もちろんじゃ!」
《どうしたんだ?カゲヨシ将軍がなんか気弱になっているような気がする》
《ご主人様。将軍はかなり心拍数が上がっていらっしゃいます。恐らくはご主人様の神の鉄槌をご覧になり怯えているのですわ》
《あ、空母落としか…そうか。まあ怯えているというのならそれはそれでいいかな、シン国と貿易をするにあたって優位に話を進められそうだし》
《それがよろしいかと》
《オッケ》
したたかな俺の考えに秘書のシャーミリアが同意してくれる。シン国との先々のお仕事も上手く行きそうなのでよかった。それよりも今は敵の視察をしなければならない。
ヒュンヒュンヒュン
俺とカゲヨシ将軍が話をしていると、オスプレイが上空から降りて来た。どうやら魔人達を送って戻って来たらしかった。オスプレイからエミルとケイナが降りて来る。
「ラウル!なんか物凄い爆発が起きたんだが知っているか?隕石でも落ちたんじゃないのか?」
「ああ、すまん。さっきの爆発は俺がやった事だ」
「なにをやった…?」
「大気圏外から巨大空母を敵魔物軍団に向けて落としたんだ」
「それ…神の杖…」
「そうそう!エミルも覚えてた?巡航ミサイルくらいの高さまで上がったと思う」
「もちろん覚えてたよ。前世でよく話したよなそれ…まさか実現させるとはな…。でもよく無事で戻って来たな」
「魔導鎧とデイジー&ミーシャ製の推進剤のおかげさ」
「不具合は起きなかったのか?」
「鎧は魔力が通っている間は大丈夫なんだとさ。俺の魔導鎧がそう言っていた。推進剤は凍る事も爆発する事もなく正常に稼働した」
「…はは…ははは…なにそれ」
「よくわかんねえ」
エミルは呆れを通り越して、理解不能と言った顔で俺を見ている。
「それでラウル。この地は惑星だったか?」
「ああエミル。地球とよく似た惑星だと思うが地形は全く違うように思う。雲で全然見えないところもあるし、あと二カルス大森林は滅茶苦茶ひろいぞ。恐らくこの星は地球より大きいかもしれん」
「あとは?」
「いや…それが限界だ。すぐに推進剤不足と魔力不足のために降りて来たんだ。降りて来ておいて正解だったよ、デモン大量消失の時と同じような睡眠に入っちまったからな」
「なるほどな。それで敵はどうなった?」
「まだわからん。かなりの被害をもたらしたことは確かだ」
「そりゃそうだろうよ。巨大空母って何を落とした?」
「ジェラルド・R・フォード級、エンタープライズとか?」
「はっ!とんでもねえ!そんな重さとデカさの質量の物を落とすとか…前世でもそんな兵器は無いぞ」
「それはそうなんだが何度も出来ないかもしれない。地上の魔人達との系譜からも外れるようで、魔力が枯渇する恐れがあった」
「なるほどな。そりゃ危険だ」
「さすがに恐怖も感じたから、そうそうやりたくはないな」
「自重したほうがいいだろ、お前には家族もいるんだし」
「ああ、そうしよう」
そして俺達異世界組が再び集まる。次の作戦のために敵の状況を確認しなければならないからだ。
「エミル。戻って早々悪いんだが、ヘリで爆心地へ飛ぶ必要がある」
「了解だ」
「面子は、俺、オージェ、グレース、シャーミリア、ファントム、とエミルだな」
「私は…」
「ケイナさんは念のため本拠地に居てくれ。カトリーヌ!マリア!ケイナさんと一緒に待機だ」
「「かしこまりました」」
そして俺は直ぐにUH-60ブラックホーク ヘリコプターを召喚する。
「カトリーヌ!俺達は敵の視察に向かう!エドハイラをよろしく頼む!」
「かしこまりました。ご無事で」
「もちろんだ」
俺達はブラックホークに乗り込んで砂漠へと飛び立つのだった。半日ほどヘリを飛ばすと驚愕の光景が目に飛び込んでくる。砂漠は大きくえぐれてクレーターが出来ており、広範囲にわたって爆発した後が広がっていた。砂が焼けたのか色が変わり魔物やデモンの類は見当たらない。
「派手にやったもんだな。地形が変わってるぞ」
「本当だ…これは…やっちゃいけない事だったかもしれない」
「砂漠だからこんな感じで済んだのかもしれないですけど、人の住む場所でやったら大変なことになりますね」
「‥‥というか…雲が出ているぞ」
オージェに言われて正面を見ると、巨大爆発の影響によるものなのか砂漠に雲が出て来ていた。
「雨が降るかな」
「たぶん既に降っているな」
俺達が見ている先の雲に雷が発生していたのだった。恐らく地表では雨が降っているのかもしれない。
「どうする?敵を確認するにも雲の下を飛ばないといけないぞ」
「落雷の危険があるな…」
「ラウル。一度地表に降りるしかないんじゃないのか?」
オージェの言うとおりだった。分厚い雲の下を飛んでいくのは危険だし、地表に近づけば飛ぶデモンや魔物に攻撃される恐れがある。
「この砂漠…過酷なんだよなあ…」
「でもお前が落とした空母の爆発のせいで、何もみえないじゃないか」
「そこまで考えてなかった」
「腹をくくって行くしかない」
「わかった。シャーミリア!ファントム!危険な場所へ降りるからな、エミルとグレースの警護につけ」
「かしこまりました」
「……」
「エミル!地表に降ろしてくれ!すぐに装甲車を召喚する」
「了解」
ブラックホークを砂漠の地表に降ろして、グレースがヘリを収納した。
「よ!」
俺はVAB装甲車を召喚する。湾岸戦争などでも使われており、西サハラなどの砂漠の環境でも実績があり道外の走行も難なくこなす。直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼルのハイパワーエンジンを搭載していた。全員がVAB装甲車に乗り込んで暗雲の下へと進んでいくのだった。
「クレーターは迂回しないと進めないようだ」
「ああ、くれぐれも気を付けてくれ」
「了解」
ドライブはオージェがしてくれている。クレーターと砂漠の境目が曖昧で、近づくと滑落してしまう恐れがありそうだった。とにかく迂回して進むしかない。
「シャーミリア、周囲を警戒して敵がいないか確認を頼む」
「もう索敵しておりますが、生物も屍人も何も存在していないようです」
どうやらかなり広範囲にわたって敵を消滅させてしまったようだった。シン国への脅威は一旦消え去ったと思うが、後続がどれだけ存在していたのかが分からない。俺達が乗るVAB装甲車はクレーターの周りを迂回しつつ、細心の注意を払って前進するのだった。
次話:第557話 変異する砂漠




