第483話 光柱の影響
単独で立ち昇っている光柱は比較的すぐに見つかった。恐らく魔石粒を飲ませられた人間が、何らかの理由で草原にて死んだらしい。遺体を見つけてもらえなかったか、回収できなかったかは分からないが、草原にポツンと一本だけ上がっていた。
俺達はブラックホークを、1キロほど離れた場所に着陸させて光柱に向けて歩いている。
「ゴーグ、後ろを歩け。」
「はい。」
少し先行気味に歩いていた、モーリス先生とサイナス枢機卿を乗せた狼形態のゴーグを後ろに下がらせる。
ここには、俺、マリア、エミル、モーリス先生とゴーグ、サイナス枢機卿、ラーズ、オージェ、グレース、ファントムの10人がいた。
「ゴーグちゃんはわしだけ乗せたいんじゃ、おぬしは歩けばよかろう。」
モーリス先生がゴーグの上でサイナス枢機卿に言う。
「なんじゃと?ラウルが乗るように言うてくれたんじゃろが、そもそもなぜおまえが決めるのじゃ?」
「ここはわしの特等席じゃもん。」
「そんなもん決まっておらぬわい!」
ゴーグの背の上で、不毛なやり取りを続ける老人達はとりあえずスルーして先に向かう。
「光の柱までは約200メートル、全隊とまれ。」
俺の号令で皆が止まった。
「ゴーグ、ラーズ!モーリス先生とサイナス枢機卿を護衛しろ、何かが起きたら全力で光柱から離れるんだ。」
「わかりました!」
「御意。」
「わしらは大丈夫じゃがの?」
「ふむ、ラウルは心配し過ぎではなかろうか?」
モーリス先生とサイナス枢機卿が言う。
「命には優先順位があるのです。お二方は黙って従ってください。」
「ふぉっ?ラウル、怖いのう。」
「そうじゃな、いつになく真剣じゃの。」
まあこの二人はいつもの調子で特に緊張などしていないようだった。ならばそのまま軽口をたたいていてもらおう。
「ファントムはいざという時、マリアを連れて離れるんだ。」
「‥‥‥。」
まあコイツの返事は無くても任務は遂行するだろう。
俺は手をかざして、地雷除去用の車両ドローンを召喚した。
「グレース頼む。」
「はい。」
グレースに端末を渡して操作してもらう事にする。地雷除去ドローンはグレースの操作で光柱に向けて走り始めた。
「慎重にな。」
「了解です。」
しばらく近づいて行くと…
「ラウルさん。」
「どうだ?」
「映りませんよ。」
もうすぐ光の柱にたどり着こうというドローンからの映像には、何もない草原だけが映っていた。
「光柱が映ってないな。」
「ええ。」
俺は電源を使用しない軍用の双眼鏡を召喚して覗いた。その双眼鏡ではドローンの側にある光の柱はきちんと見えていた。
「調査ドローンと比較して、直径1メートルから2メートルの間ってところだな。先生達も見てみてください!」
俺は同じものを召喚してモーリス先生とサイナス枢機卿に渡した。二人が双眼鏡を覗き込んだ。
「ふむ。」
「直径から考えると人の大きさとも思えるがの。」
「グレースの扱っているそれに本来は映るはずなのじゃな?」
「そうです。」
「なるほどの。」
モーリス先生もさすがにドローンの仕組みは分からないので、そこから何かを掴めることはなさそうだった。
「グレースよ。それで周りの土を回収して持ってこれるかのう?」
「できます。」
「もってきてほしいのじゃ。」
「はい。」
グレースはドローンのアームを使って土を掘り、土を乗せたままこちらに戻す。
「すまんの。」
しばらくするとドローンが俺達の下に戻って来た。
「いいかの?」
モーリス先生とサイナス枢機卿がドローンの側にくる。
「二人ともお気をつけてください。」
二人は躊躇せずに土を手に取った。
「ちょ…」
「えっ…」
「待っ…」
俺とエミルとオージェが同時に声を出したが、二人は何事も無かったように土を眺めている。
「周りの土は全く影響をうけておらん。」
「そうじゃな魔力や瘴気のような物はまったく感じんのう。」
「そうなのですか?」
「ふむ。まったくなんの変哲もない土じゃぞ。」
「とすると周辺に影響を与えてはいないと言う事でしょうか?」
「そうなるのう。」
どこまでも続く高さの光の柱、普通に考えたら膨大な力が働いていると思えるのだが、カメラには映らずに周りの土にも影響を与えていない。
「躊躇なく土を触りましたが、それを分かっていたのですか?」
「ふむ。あの光柱の周りには普通に草が生えておるじゃろ、魔力が強ければ草など生えぬわ。」
モーリス先生が言う。
「さらに瘴気も感じなんだ。まずは邪悪なものではないと思えるのじゃ。」
サイナス枢機卿が重ねて行った。
「と言う事は、罠では無いんでしょうか?」
「ふむ。まったく可能性が無いとは言えんが、異世界人を内包する魔石が生み出した魔石粒が、そう都合よく罠に使えるとは思えん。」
モーリス先生の言うとおりだった。日本人を内包する魔石が魔石粒を生み出すなど、誰にも想像できるものではない。それを罠として使うには中身を知らねばならない。
「だとすれば偶然の産物。」
「まあ、わしの推測じゃがな。真実は真の敵のみが知る事じゃろうか、もしくはあの魔石に内包されているというニホンジンとやらが知っているやもしれん…むしろ誰も知らんと思うのがわしの直感じゃ。」
「ラウルよ、おぬしが使役したというデモン、そして聖都に巣くっていたデモンの影響で土が汚れておったのをしっているかの?」
サイナス枢機卿が言う。
「はい、それをエミル達が精霊術で浄化してくれていたようです。」
「ええ、私とケイナで浄化しました。」
「それはありがたいのう。あそこの土地は既に聖職者の住める土地ではない。」
「枢機卿と聖女リシェルはアスモデウスにかなり圧を受けていましたよね?」
「あの禍々しい瘴気は破滅的じゃったな。」
「アイツはかなり高位のデモンらしいのです。」
「恐ろしいものじゃ。その恐ろしいほどの瘴気という物じゃがの、あの光柱にはそれが感じられないのじゃ。」
「なるほど…。」
と言う事はデモンの生み出したものではない可能性が高いな。しかしむやみに手を出すのは危険だろう。
「あれは何なんでしょうねぇ…。」
グレースが見上げ俺達も光の柱を見上げる。草原に一本の光柱が天に向かって伸びていた。風が草をちぎり飛ばしても何も変化をせずに柱は立っている。
「ならば近寄っても大丈夫でしょうかね?」
「問題ないとは思うがのう。いかんせん保証は出来んわい。」
モーリス先生の言うとおりだろう。あれが安全かどうかなど誰にも分からない。
「グレース、ゴーレムを2体ばかり出してもらえないか?できれば聖都戦に投入しなかったコマンドを入力しまくったやつ。」
「了解です。」
グレースの前に2体の巨大なゴーレムが出て来た。
「俺の指示を聞くように言ってくれ。」
「えっ?ラウルさんが行くんですか?」
「そうだが?」
皆が一斉に俺を見る。
「ラウルよ、それは賛成できんのう。」
「わしも同意見じゃ。」
「俺もそう思うぞ。」
「だな。」
モーリス先生とサイナス枢機卿、エミル、オージェが俺を止めた。
「どうしてです?問題ないように思えますが?」
「ラウルは、やめておいた方がいいじゃろ。」
サイナス枢機卿に言われ、俺が信じられないといった顔でグレースを見る。
「ラウルさん、残念ながら僕も皆に同意見ですよ。」
「グレースまで…。」
「まあ落ち着け。」
オージェが言う。
「ラウル。お前は5大神の一柱の可能性がある。むしろ受体はすませているんだよな?」
「まあルゼミア母さん曰くそうらしいが。」
「俺は龍神、エミルが精霊神、グレースは虹蛇だ。」
「ああ。」
「お前は?」
「まあ今の流れで言えば魔神だろうな。」
「その通りだ。」
「それとこれと何が関係あるんだ?」
俺は理解が出来ないでいた。
「ふむ。アトム神はファートリアのというより、人間の神だという事は分かっておるよな?」
モーリス先生が言う。
「はい先生。」
「それは置いといても、デモンの残瘴におぬしたちは何を感じる?」
「‥‥何も。」
「サイナス爺もリシェル嬢ちゃんも、アスモデウスにはかなり疲弊しておったよな?」
「まあ確かに。」
「それらから推測すれば、ラウルたち魔人とアトム神とは対の存在とも考えられるのではないかな?」
「‥‥なるほど。」
「おそらくその可能性は高いと思うぞ。」
オージェが肯定する。
俺は魔神で、あの光柱はそれとは対の存在である可能性が高いと言う事か。となれば敵はある程度、それが俺達の邪魔になると知っていて、人間達に飲ませた可能性が高いのかもしれない。
「ではどうしましょう…。」
「わしが行く。」
サイナス枢機卿が言う。
「それは、いかがなものかと…。」
「むしろおぬしより危険度は低いはずじゃ。」
「そうでしょうか。」
「心配してくれるのはありがたい。お前は本当にいい子じゃからの、じゃが人には持ち分というものがある。ここはわしを信じてはもらえぬか?」
俺が難色を示していると次はエミルが言う。
「ラウル。枢機卿とは俺が一緒に行く、精霊たちが教えてくれるんだ。あれが危険なものではないと言う事を。」
「エミル…。」
「俺が二人の護衛としてついて行くよ。お前とラーズとゴーグ、ファントムは近づかないほうがいいと思う。」
「オージェ…。」
「じゃあゴーレムの指示はオージェさんが出してください。」
「おうよ。」
ゴーレムたちにはオージェの指示を聞くようにグレースが吹き込む。
「ラウルよ、こやつらを信じてわしらは待つとしよう。」
「‥‥わかりました。それじゃあサイナス枢機卿くれぐれも無理はなさらぬよう。オージェ!エミル!たのむぞ!」
「もちろんじゃよ。」
「まかせろ。」
「了解だ。」
俺は皆を危険に晒してしまうようで、とにかくやらせたくは無かった。しかし俺が行った方が危険度が高いとなればやめておいた方が良いだろう。
サイナス枢機卿とエミル、オージェが先に進んで行った。
「ラウル様。彼らに任せるのも大切な事だと思うのです。」
マリアが言い聞かせるように言う。
「マリア…。」
「お父様の事を思い出していただければ分かると思います。」
「グラム父さんか?」
「はい、グラム様は人に教え任せ、人を育てる事に長けておりました。」
「まあ、そういう仕事をしていたな。」
「人の上に立つ者とは、時には人を信じ任せる事が出来る者じゃないでしょうか?」
「ふむ。マリアの言う通りじゃな。グラムはそういう男じゃった。そして部下の責任を取るのも主人の仕事じゃな。」
そうだ戦争はトップが責任を負うのが当たり前だ。グラム父さんはサナリアの兵を生かそうとして、バルギウスに自分の命を差し出した。しかしあのとき自らの命を差し出したというのに皆殺しにされたのだった。俺はその悔しさが心に深く刻まれており、愛する者も部下も全てを失わないと誓った。だが今は魔人軍の将としての立場がある。俺に万が一があった場合は、大陸中に散らばった魔人達が暴走を起こすかもしれない。もしくは迫害を受けて皆殺しにあうかもしれない。
そうか…
「わかりました。」
静かに答える。
「して、サイナスのジジイは、あんなどうしようもない感じじゃがの、多少は凄い人間なのじゃぞ。」
いや…どうしようもないとか思ってないし。そんな人が枢機卿まで行けるわけ無いし。
「ええ先生。サイナス枢機卿もエミルもオージェも、私なんかにはもったいない本当に素晴らしい人たちです。もとより疑った事など一度もございません。私は彼らを信じて待ちます。」
「ふぉっふぉっふぉっ。グラムを思い出させたマリアに感謝じゃの。」
「はい。」
俺はマリアを見つめて手を握る。
「マリア、ありがとう。」
「いえ、差し出がましい真似をいたしました。」
「いや、俺はもっと人を頼るべきなんだろうな。」
「私はそう思います。」
「わしもそう思うな。」
二人に言われて俺は少し改めなければならないと思った。魔人達とは自分と系譜の繋がりがあって、信じるも信じないもない一心同体だ。しかしそうではない人たちの事は途端に心配になってしまうのだ。
絆を信じる。
改めて教えられた気がした。俺が光の柱を見ると3人はようやく光の下へとたどり着いたようだった。
次話:第484話 神的な物質
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