第477話 聖都の復興
巨大魔石の部屋の隣にあった敵が魔法陣を設置していた部屋には、俺達が入って来た場所以外に入り口も出口らしきものも何も無かった。魔法陣は発動した後で既にどこにもない。
「なんもないな。」
「本当だな。」
オージェと俺はあたりを見渡す。
「ラウル様、こちら側の壁の向こうです。」
カララは糸で探索し壁の向こうに部屋があるのを確認したのだった。
「敵さんは隠し部屋に気が付かなかったのかね?」
「どうだろうな。カララみたいな能力も無いだろうしその可能性もあるかもな。」
オージェが重厚そうな石壁をトントンと叩いている。
「アスモデウスは知っていたか?」
「いえ。」
どうやらコイツも知らんらしい。
「ラウル様、ほんのわずかな隙間があるのですが。」
「なら糸に鏡面薬を流し込んで魔法陣が設置されているかどうかの確認してくれ。」
「かしこまりました。」
カララが糸を鏡面薬に浸し、どこから侵入させているか分からないが、隣の部屋に糸を滑り込ませている。
「魔法陣は確認できません。」
「ならマルヴァズール達が知らない部屋と言う可能性があるんじゃないか?」
オージェが言う。
「まあそう考えるのは早計だろ。」
「で、どうするよ。」
「そうだな…。カララ、隣の部屋に出入口らしきものはあるのか?」
「無いようです。ですが…何か…祭壇のような物が設けてあるような感じです。」
「祭壇か…。」
もちろんここはファートリア神聖国だ、祭壇があったとしても不思議ではないが、密閉された場所にある祭壇が何を意味するものなのか…
「うん…これも隣の魔石同様、モーリス先生かサイナス枢機卿案件だ。」
「まあそうだろうな。」
「とにかくこの場所に見張りがいるな。」
「どうする?」
「既に手配済みだ。一旦地上に上がるしかないだろう。」
「わかった。」
「みんな!上にあがるぞ。」
「「「は!」」」
俺達は再び螺旋階段を上に上がり始める。一応敵はいないとアスモデウスが言うが、地下のどこに転移魔法陣が設置されているか分からない為、武器を装備して警戒しながら上がっていく。インフェルノが発動した部屋を通過し、隣の部屋に召喚したストライカー装甲車を横目にしながら進んだ。
「こっちだ。」
俺が秘密の抜け道の方角を指さす。
「君主様。そちらは地上に出るには遠回りではございませんか?」
アスモデウスが言う。
「ん?そうなの?」
「こちらから行けば、大聖堂の下に出ますが?」
「そうか、だが都市内は光の柱が立ちまくっているんだ。あれに近寄るのは危険じゃないか?」
「なるほどそう言う事でございましたか。それでは都市の市壁部分に通ずる道がありますが?」
「どっちだ?」
「では、こちらです。」
俺達はアスモデウスに導かれるままに地下道を歩いて行く。日本人達は入ってくる時に渡していた暗視ゴーグルを着けていた。光が無い為に普通の人間には歩くのが困難だからだ。地下道はかなり複雑になっていたが、アスモデウスは迷うことなく市壁の下までたどり着いた。
「おお、短縮されたな。」
俺達が出てきたのは市壁の中らしく、見張り用の穴があってそこから都市の外側が見渡す事が出来た。
「ここが開きます。」
アスモデウスは壁の一部を押す。するとざりざりと音を立てながら石壁が横に動いて行く。
「良く知ってたな。」
「ははは、君主様達が攻めこんでいらっしゃるまでは暇でしたから、あちこち散歩しておりました。」
「え、おまえ散歩とかすんの?」
「ええ。」
「デモンなのに?」
「デモンといっても色々いるものです。」
「なるほど。」
鼻歌交じりに扉の外に出ていくアスモデウスについて俺達は外に出た。
「シャーミリア。皆をここに連れてきてくれるか?」
横にいるシャーミリアに指示を出す。
「すぐに。」
シュッ
シャーミリアが消えた。
「まさにあのヴァンパイアは神の如き…神速の動きをしますね。」
「だいぶ進化したんだよ。」
「進化?でございますか?」
「ああ、お前には悪いがデモンを殺せば殺すだけ進化してきた。」
「君主様。まったく悪くなどございません、デモンなど私の仲間でもなんでもございませんので。そもそもあ奴らもそれぞれが味方と思っておりません。」
「そういうものなの?」
「はい。私は契約に従って仕事をこなすだけです。」
「ほう。他のデモンもそうなのかね?」
「いえ、下等なものは公私混同して自分の欲に忠実に動いてしまう者もいるでしょう。」
あーなるほど。仕事しててもそうヤツいるもんな。最後に横領とかして逮捕されたりして。
「でさ、デモンを殺すと進化するんだけど、なんでか理由知ってるか?」
「簡単な事です。」
「簡単な事?」
「ええ。」
なんだ?俺は何かを見落としているって言うのか?
「殺すと…経験値が入るとか?」
「け、けいけんち…でございますか?申し訳ございません私はそれを存じ上げません。」
あれ?違うのか?
「じゃあなんだ?」
「君主様が吸収なされたのです。」
‥‥‥
「えっ!?」
「はい?」
「なんて言った?」
「ですから吸収をされたのです。」
「俺が?」
「はい。」
「デモンを?」
「はい。」
「吸収?」
「左様でございます。」
うっそ!じゃあ俺の中にデモンとか入ってるって事?きゃぁぁぁぁ嫌だぁそんなの。
「そのデモン達はどうなっているんだ?」
焦って聞く。
「もちろん自我も無くただの力として、君主様の中に溜まり込んでいるだけです。」
ほっ。
「なるほど。だからデモンを倒すと魔力量の総量も上がるのか。」
「その通りでございます。君主様が吸収された総量は私など及びもせぬほど強大なお力となっております。」
「でも人間を大量に殺した方が魔力がたまるんだがな。」
「ああ、それは養分だからです。」
「よ、養分?」
「はい。」
なんとなく…聞かなきゃよかった感じがする。俺の鬼畜な能力に関してオブラートに包まずに説明をしてくれてありがとう。アスモデウス。
とりあえず戦闘も終わって落ち着いたので俺はヴァルキリーを出る。
《出してくれ。》
《はい我が主。》
《お前も疲れたろ。》
《いえ、全く。》
《あ、そう。》
どうやら鎧に疲労など無いらしい。
ガパンッ
「ふう。」
ようやく外の空気をすって空を見上げる。
すると
ヒュンヒュンヒュンヒュン
ようやく聞こえて来た。
俺達が空を見上げると、Mi-26ヘイローヘリが飛んで来ていたのだった。
「あれ?エミルか?」
オージェが言う。
「そうだ。」
「あれ?侵攻軍と一緒に居たんじゃなかったっけ?」
「俺がある指示をして飛ばしていたんだ。」
「ヘリなんかどこに?」
「ああ、行軍の途中で森林にAH-1Zヴァイパーヘリを召喚して隠していたんだよ。それを魔人に伝えてエミルにはあるところに向かってもらっていた。」
「ある所?」
「まあな。ファートリア国内に侵攻して視察して、いずれ必要になると思ったもんでな、ユークリット王都に飛んでもらったんだ。」
「ユークリットに?」
「そうだ。だがドラゴンがいるうちはこちらに呼ぶわけに行かなかったんだ。俺達がカナデの操るドラゴンを退治した後ですぐに、サナリアにいたウルドを念話でユークリットに向かわせて、エミルに伝えこちらに飛んでもらったって事さ。」
「そうだったのか。」
ヘイローが俺達に向かって降りて来る。
当たりに砂ぼこりが舞って風が起きる。
「あ、あの?あれって…やっぱりヘリコプターですよね?」
マコが言う。
「そうだ。俺の仲間が操縦している。」
「そ、そうですか…。」
どう考えても前の世界で見た乗り物に驚いている。
ヘイローが着陸すると、ハッチが開いてぞろぞろと魔人達が降りて来た。
「よお、ウルド。すまんな。」
「いえ、いよいよ聖都を掌握なさったのですね。」
「まあな。」
「素晴らしい。まさかこんなに早くファートリアの首都をおさえてしまうとは。」
「まあ…聖都は滅茶苦茶だがな。あの人は連れてきてくれたか?」
「もちろんです。」
そんな話をしているうちにもヘリから見覚えのある人が降りて来た。
カーライルに連れられてサイナス枢機卿と聖女リシェルが歩いて来る。
「これは枢機卿。遠いところご足労いただきましてありがとうございます。」
「なにを、わしの故郷に帰るのにご足労もなにもあるか。」
物凄く険しい顔をしている。
「聖女リシェルもヘリが苦手だというのにありがとうございます。」
「いえ…。」
リシェルは青ざめた顔をしている。
「そして…すみません。既に聖都は手遅れでございました。」
「ふむ。そのようじゃな…。」
「‥‥‥。」
フッ
聖女リシェルがふらりと倒れ込みそうになった。
「おっと。」
カーライルが聖女リシェルを支える。
「大丈夫ですか?」
俺が聞く。
「‥‥‥。」
しかしリシェルは何も答えなかった。それもその筈で上空から聖都の様子は見ているはず、壊滅してしまった祖国の聖都をみて何も思わない訳はない。
「たくさんの魂が嘆いておる。」
サイナス枢機卿が言う。
「申し訳ございません。救える命もあったかもしれませんが、敵の攻撃にあらがうためにこのような結果になってしまいました。」
「おぬしが悪いわけではないわ。」
「はい。」
「ただ…どういうわけじゃ?」
いきなり険しい顔をしてサイナス枢機卿が言う。
「はい?」
「そこの男。魔人ではあるまい?」
サイナス枢機卿が俺の後ろに立っているアスモデウスを見て言う。
「そうです。いきなり配下になった新しい部下です。」
「なんという邪悪な存在であろうか!」
サイナス枢機卿が怒っているようだ。そりゃそうだ…ファートリア神聖国からすれば古代から、純粋な悪とされていたデモンがただここに立っているのだ。それを受け入れる事などできるわけがない。
「すみません。元は敵であったのですが、私が使役してしまったのです。」
「ラウル。わしらは今、障壁を張ってようやく耐えておる…ただの人間であれば死ぬぞ。」
「えっ!」
「物凄い瘴気を放っておる。」
俺はアスモデウスを振り返る。
「俺には分からないが、おまえ瘴気出してる?」
「申し訳ございません君主様。生来のものゆえ意識しておりませんでした。」
「抑えられないのか?」
「消します。」
フッ
なんとなく雰囲気が変わったようだ。
「ふぅ。ギリギリじゃったわ…しかし今でもかなり厳しいわい。」
「アスモデウス。悪いけどちょっと離れてくれないか。」
「御意。」
アスモデウスが消えた。
「すみませんでした。私では全然気が付かなかったものですから。ここにいる彼らもなんともなかったようですし。」
3人の日本人を指して言う。
「その者どもは人間ではあるが…どことなく雰囲気が違うようじゃ。」
「他の世界から来たものらしいです。」
「なに!それであの邪悪な者の影響をうけなんだか。」
「良くはわかりませんが。」
俺達が話していると、カトリーヌとマリアが走り寄って来た。
「「ラウル様!」」
「二人ともお疲れさん。」
「ご無事で何よりでございます!」
カトリーヌが俺の前に立って涙を浮かべている。
その後ろから話をしながらグレースとエミル、ケイナが近づいて来た。
「よおラウル。お前に言われた通りに枢機卿を連れて来たぞ。」
「いつもこんな役回りですまんな。」
「まあ俺の仕事だからな。」
「サンキューな。」
「いや、いいんだが…それより聞いてくれ!先ほどから聖霊が騒ぐんだ。」
‥‥‥あいつのせいだ。
「うーん。俺に新しい仲間が出来たんだが、恐らくそいつのせいだと思う。」
「そいつ?誰?」
「ここに呼ぶと枢機卿達やカトリーヌやマリアまで弱ってしまいそうだから、後で紹介する事にするよ。いいか?」
「まあかまわんが。」
「とにかく枢機卿、これからの事を話さねばなりません。あの光の柱も含めて説明をせねばなりませんので、一度離れた場所に拠点を築こうと思うのです。」
「ふむ分かったのじゃ。」
恐らくあの光の柱がある以上は聖都の再興は難しいだろう。そしてまだ国内にはデモンや残党がいるため残党狩りをやる必要もある。ファートリアの遷都と言う選択肢も含めて可能かどうか話し合いが必要だった。
やる事が山積み過ぎて俺自身頭がいっぱいだが、それ以上に今はこの二人を労わってあげようと思うのだった。
次話:第478話 聖都の安全確保
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