第476話 アスモデウスの能力
巨大な青い魔石から生み出されるという魔石の粒を、なんと敵は人間に飲ませていたらしい。通常は魔石を体内に持つ魔獣を食料にする場合、調理の段階で魔石とその周りは取り除くものだ。もしろん人間にとって魔石が有毒だからだ。わざわざそれを人間に食べさせるとは、鬼畜の所業と言うほかない。
「これを飲ませたと。」
「はい。そのようでした。」
アスモデウスが答える。
「何人に飲ませたか分かるか?」
「大変申し訳ございません、そこまでは存じ上げません。しかし…。」
「なんだ?」
「いつもここには大量の魔石の粒がございました。」
「と言う事は…」
「ラウル。あの柱の数からしてもかなりの人間に飲ませているな。」
俺が絶句しているとオージェが答えた。
「そうだな。」
「酷い事をするものだ。」
「魔石を体内にとりこんだ人間は体を蝕まれるからな。俺達が西で閉じ込めた騎士たちもいずれ病にふせるか死ぬだろうな。」
「なんの為にそんなことをしたのだろう?」
オージェの疑問は俺にも分からない。アスモデウスに聞いてみる事にする。
「アスモデウス。この粒を人間に飲ませてヤツラが何をするつもりだったか分かるか?」
「申し訳ございません。まったく見当がつきません。」
本当に知らないようだ。
「戦いで死んでも、寿命で死んでも、病気で死んでも光の柱は立つものなんだろうか?」
「それはそのようです。」
「だと飲ませた人間の数だけ光の柱が立つって事か。」
「はい。」
「何らかの意味はあるのだろうが、その効果はマルヴァズールとアブドゥルだけが知っているんだろうな。」
オージェが言う。
しかしそれすらよくわからない、俺達に対してあの光の柱は邪魔くらいにしかならなかった。俺達の攻撃力を削ぐわけでもなく、脅威というほどの事は起きなかった。
しかし…ここで考えていてもこれ以上は分からないので次の行動に移る事にする。
「さてと。」
アスモデウスはもうこの地に敵はいないと言うが、転移先からデモンを送られる可能性を想定して、シャーミリアとカララとアナミスに最下層を、転移魔法陣が無いか確認してもらう事にした。ファントムには念のため日本人3人を護衛させており、俺とオージェがアスモデウスの能力の見極めをすることになった。
「お前結界を張っていたよな?」
「はい。」
「魔法は他に使えるか?」
「はい。」
「どういう魔法が使えるんだ?」
「身体強化はもちろんですが、幻術も使えます。」
「幻術?」
初めて聞く魔法の名前だ。一体どういう魔法なんだ?
「ここで使って見せろ。」
「は!」
アスモデウスが立ち上がり、スッと俺達から離れた。
「では。」
なんの予備動作も無くアスモデウスは何体にもなった。
「えっ」
「おお!」
そう、アスモデウスは分身の術を使えるようだ。
そして次の瞬間、オージェにおもいきり攻撃を仕掛けたように見え、オージェは思わずガードするように身構える。
しかし…
そこには何も居なかった。
「あれ?」
俺達がアスモデウスを見ると、最初に立っていた位置から一歩も動かずにそこにいる。
「今攻撃を仕掛けたか?」
「実際には仕掛けておりません。」
「幻影か?」
「はい。」
「分身が実際に攻撃をすることは?」
「できます。」
「実体が無いのにか?」
「幻でもある程度の影響を及ぼせますが、強い物ではございません。」
「気にしなければいいって事か?」
「そうではございません。瞬時に実体と幻影を入れ替える事が出来ます。」
「マジか…。」
俺が唖然としているが、オージェが腑に落ちない様子だ。
「さっきの戦いでなぜそれを使わなかった?」
オージェが聞く。
「ふふっ。龍神よ本気でそれをおっしゃってますか?」
「なにがだ?」
「龍神とあのヴァンパイア…でしょうか?そしてグールの波状攻撃に対しそれを発動させる時間があったと思われますか?」
「無理なのか?」
「龍神と一対一でも分が悪いというのに、あのヴァンパイアのような者は神にも迫る動きをするのですよ。格上の者に使えるような技ではございません。」
「そうか。」
「何体まで見せられるんだ。」
俺が聞く。
「数えたことはございませんが、魔力が続く限り可能であると思います。」
マジか…。
ここに攻め入る前、シャーミリアが3人で対応させてくれと言った意味がわかった。シャーミリアは幾千という戦闘経験からこの危険を察知していたのだろう。
「ヴァンパイアの”ような者”と言ったな?あれはヴァンパイアそのもののはずだが?」
「そうですか?気配にはかすかにヴァンパイアのそれが備わっていますが、なにか違うもののように感じました。」
「そうか。」
シャーミリアは数度の進化を経て、ヴァンパイア以上の何かになってしまったのだろうか?確かに進化によって昼間に活動できるようになったり、異常なほどに回復が早くなったりしている。あと遠隔操作できる山賊を作ったりできるようになった。
もしかしたら進化して新しい種族になったのかもしれないな…
「ちょっと聞きたいんだが、経験により高みにあがった者が神になったりするものかな?」
「ご存じありませんでしたか?」
「どういうことだ?」
「5大神と呼ばれる者は、元はただの人間だったり龍だったりしたのです。」
「そうなんだ!?」
「神がデモンになる事もございます。そしてその逆もしかり。」
「そうなのか?」
「はい。龍神はデモンだったことがございます。そして君主様は…ぐっ。」
アスモデウスが何かを言いかけたとたん、悶絶し始めた。
「どうした?」
「ぐっぐぐぐぐぐ。」
「答えなくていい。特に知りたいわけじゃない。」
「はぁはぁはぁ。すみません。」
なにか特殊な力がかかっているのだろうか?いきなり苦しそうにしていたが、俺が答えなくてよいと言うと苦しみから解放されたようだ。
「他に魔法は使えるか?」
「魔法ではございませんが…。」
「なんだ?」
アスモデウスが俺達とは逆の方向を向いて、少しのけぞったあといきなり火を噴いた。
ゴォォォォォォ
くるりと振り向いて言う。
「火を吹きます。」
「それは魔法じゃないんだ?」
「魔核から力を放出しただけのものです。」
「ドラゴンの炎と同じ?」
「左様にございます。」
「へぇー。」
凄い。なんて多才なんだ…身体強化を行い結界を張り、分身の術をつかい火を吹く。こんなに能力があればそりゃ強いわ。
「もう一つ聞きたい。」
オージェが言う。
「なんでございましょう?」
「バラバラになったのがくっついたようだけど、もしかしたら不死身なのか?」
「まあこの肉体は滅ぶ事がありません。ですが万が一消滅させられてしまった場合は、他の肉体を選んで移る事が出来ます。」
「!」
「えっ!」
そういえば俺が気を失う前に、キチョウカナデに乗り換えようとしていたような気がする。
「そんなことができるのか?」
「はい。」
「ほかのデモンは?」
「高位のデモンでなければそのような真似はできません。下位のデモンはあちらの国に戻されるだけでしょう。」
…となると…。
「お前を滅ぼす方法ってあるの?」
「あります。」
あるのか。
「それは?」
「アトム神による浄化でしょう。」
「人間の神の浄化か?」
「はい。」
「なるほど。」
アトム神。
俺達がまだ遭遇していない最後の神の名前だ。一体どこにいるのかすら分からない。恐らくアトム神も俺達同様に受体する時期に来ているのだと思うが、俺達がアトム神と所縁が無いために巡り会う事が無いのかもしれない。
「お前。凄いな。」
「お褒めに預かり光栄でございます。」
座って膝をつき深く頭を下げた。
しかし‥さっきまで言っていた能力以外に、体を乗り換える力もあるなんて…おっかねえ。なぜか俺に従いたいと言い出して来たが、今となっては本当に良かったと思う。無事に俺の系譜に属させることができたのは不幸中の幸いだったのかもしれない。
「ご主人様。」
「「ラウル様。」」
シャーミリアとカララとアナミスが戻って来た。
「こちらの階層には転移魔法陣は見当たりませんでした。あるとすれば他の階層かと思われます。」
「そうか。なら人海戦術で調査するしかないな。」
この広大な聖都とその地下に張り巡らされた地下道の魔法陣を探し出すのは、この人数では現実的ではなかった。
「あてはあるのか?」
「ああ、オージェ。大丈夫だ。」
「そうか。」
彼女らは、かれこれ1時間ほどここで調査していたが、転移魔法陣は見つからなかったらしい。
カツーン
カツーン
また巨大魔石から魔石の粒が落ちる音がする。
「1時間に2粒か…。1日48粒。いつからこの魔石があるのか知らないが、数万粒の粒が運び出された事になるな。」
「いえ、こんなに早く生み出される事は無いと思うのです。」
アスモデウスが答える。
「そうなの?」
「1日十数個と聞いておりました。」
「なんでだろう?俺達がここで暴れたから?それとも他に要因があるのかね?」
「そこまでは分かりません。」
やはりアスモデウスは何も知らされていなかったらしい。いきなり粒が生み出されるのが早くなったと言う事は、俺達がここに現れたことと何か関係があるのかもしれないのだが。
「ラウル様。あの魔石に閉じ込められている人間に原因があるのではないでしょうか?」
カララの言葉に、全員が魔石を見上げた。
「ハルト君、カナデさんマコさん。」
俺が3人を呼ぶと俺の下にくる。
魔人達によって安全も確認され皆も集まったため、俺はようやく3人の日本人に聞くことにする。この3人はこのために連れて来たのだ。
「こっちに連れて来られた人って6人いたって言ったよね?」
「はい。」
マコが言う。
「ハルト君とカナデさんとマコさん。残りは誰だっけ?」
「リョウジとキリヤ、それと…ハイラです。」
「リョウジ君は不慮の事故で亡くなったね。」
「はい。」
本当はシャーミリアが操る河童ハイグールが手榴弾バーガーで頭を吹っ飛ばしたんだけど、彼らは不慮の事故で死んだと思い込んでいる。
「キリヤ君が魔法使いで…ということは、この魔石の中にいるのがハイラ?」
「そこまではわかりません。」
素で分からないらしい。だが魔人達がこの魔石の中に感じるものは、異世界から来た者と同じものだという。だとすれば間違いなくハイラという女なのだろう。
「上の名前は?」
「エド・ハイラだと思います。」
「思います?仲は良くなかったの?」
「はい。」
「わたしもっす。」
「俺もです。」
「知り合いじゃないの?」
「しりません。こちらに来てから知り合いました。」
マコが言う。
「カナデさんは?」
「私も知らないっす。」
「ハルト君は?」
「俺も知らないっすね。」
「そうか。」
俺達は魔石を見ながら考えていた。
「この人たちが来たから反応しているとは考えられないか?」
オージェが言う。
「と、いう事はこの3人が来ている事があの中で分かっているって事か?」
「そこまでは分からんが、何らかの気配を感じているかもしくは見えているのかもしれない。」
「なるほどな…。」
魔石は入ってきた時と何も変わりなく佇み、ほんのわずかずつ回転しているようだ。薄っすらと光っているが、その明るさは常に一定だった。
「生きてるんだとすれば、中の人を助け出す事は出来ないものかね?」
「うーん。残念ながらオージェ、それは無理じゃないか?」
「壊すわけにはいかんしな。」
「これはモーリス先生案件じゃないかね?もしくはファートリアの枢機卿であるサイナス枢機卿に聞くしかないだろ。」
「そうかもしれんな。」
「なら丁度よかったよ。」
俺は地上にいるセイラから念話をもらっていたのだった。俺が根回しをしていたある作戦が動いた。
《マキーナ。迎えに行ってやれ。》
《かしこまりました。》
地上のマキーナに指示を出して、俺は一息つく。
「さて、忙しくなりそうだ。まずは隠し部屋の調査でもするか。」
「「「かしこまりました。」」」
「トラップがあるといけない。慎重に調べてくれ。」
「「「は!」」」
シャーミリアとカララとアナミスが行く。
「よし、アスモデウス。お前も来い、ファントムと同じく俺に付き従え。」
「かしこまりました。」
俺はアスモデウスを連れて皆を追いかけるのだった。
次話: 第477話 聖都の復興
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